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蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~  作者: 南野海風
第一章 指先王子、女族長に婿入りする
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49.大事な話をしたい





「アーレ嬢、大事な話がある」


 朝食が済んだ後、私は真面目な顔でこの家の家長に告げる。


「抱くのか? いいぞ」


「いや違う。ちょっと話が早い」


 なんだつまらん、と吐き捨てられるように言われたが、……もう今更慎ましさがどうこうだの恥じらいがどうこうだの言うつもりはない。


 ナナカナは少しばかり慎みを持った女性に育てるつもりだがな!


「大事な話と言えば、おい、タタララ。あの話だ」


 昨日泊まったタタララが話を振られ、一瞬「なんのことだ」と言わんばかりの怪訝な顔をしたが――すぐに心当たりを思い出したようだ。


「レイン。おまえは養殖というのを知っているか?」


「ようしょく?」


「人の手で魚を育てて増やすというやつだ」


 あ、その養殖か。


「言葉としては知っているが」


 確か、数年前に王太子である長兄が、フロンサードの港町で実験的な養殖をやっていた。

 形になったのかどうかまでは知らないが、失敗したという話は聞いていないので、成功したのだと思う。


 苦労と苦心と税金を投じて生まれた技術と文化だ、他国に盗まれないよう、成否のことさえ情報規制が敷かれたのだと思う。

 失敗したなら規制する理由がないから、そういうことなんだと思う。


「噂話でしかないが、とある部族は魚を育てて増やしているらしい。ならばここでも魚を増やすことができるのではないかと考えた」


 はあ。魚を。

 つまりあれか。


土塊魚(グレ・ラー)を増やしたいのか?」


 先日、断罪の雨が降り出した矢先にタタララが釣ってきた土塊魚(グレ・ラー)ことナマズは、今土を吐かせているところだ。明日か明後日には食べられるだろう。


「そうだ。増やしたいんだ」


 そう……まあ、新たな食料として安定確保したいという意味なら、反対する理由はないが。しかしノウハウがないようだから苦労しそうだな。


 ――って、違う。


「タタララ、その話はあとでゆっくりしよう。私は反対しないし、できることなら手伝うから。というか私の手は必要か?」


「それはわからないが、気づいたことがあれば言ってくれ。おまえとナナカナは頭がいいから、きっと何かの役には立つと思う。とりあえず私は穴を掘る予定だ」


 穴を。

 人工池を作る、という意味だろうか。

 

 ……まあそれは好きにしてほしい。


「手伝うよ。でも今は」


「ああ、大事な話があるそうだな。――でも先に行っておくが」


 と、タタララは立ち上がった。


「私はおまえを森の向こう(・・・)に送る気はない。おまえはこの白蛇(エ・ラジャ)族の集落にいろ。ずっといろ」


 言うだけ言って話は終わりだと言わんばかりに、タタララは家を出ていった。


 ……そうか。


 私に与えられた半年の猶予のことは、彼女も覚えていたのか。

 タタララどころか誰も話題に出さないから、すっかり忘れられているのかと思っていたが。


 断罪の雨が終わり、秋になった。

 約束の半年がやってきたタイミングなので、誤解を招いたようだ。


 ……いや、あながち誤解でもないかもしれないが。


「私も送らないから」


 と、ナナカナが憮然と言った。


「レインはずっとここにいればいい。もし大事な話が向こう(・・・)に帰るって話なら、私は引きずってでも行かせないから」


 …………


 気持ちはありがたいけど、そういう簡単な話になるかどうか……


 私だって帰りたいわけではない。

 骨を埋める覚悟で来ているのだ、今更帰りたいとも思わない。


 だが、これから先どうなるかは、本当にわからないから。


「アーレ嬢」


「我の答えはわかっているだろう? 逃がさないからな」


 少々殺気を込められて睨まれた。

 剣呑な輝きに満ちた金色の瞳に、背筋がぞくぞくした。


 ――怖いとは思うが、怖いというだけではない。私の中で恐怖以外の別の感情がざわめいている。


 なんだろう。

 彼女にもっと束縛されたいとか、そういう願望でも芽生えたのだろうか。


「私とあなたとジータで、話さないか? ちゃんと決着が着くまで」


「ジータと……?」


 予想外だったのか、彼女は少しだけ首を傾げた。どういう意味だとばかりに。


「今のまま私とあなたが一緒になるのは、よくないと思うんだ。ジータは絶対に認めない。それが下人で、決定的に集落が割れる可能性もある」


「我とおまえが番になることに、なぜジータが関係する?」


「ジータが納得してないからだ」


「……」


 アーレ・エ・ラジャは難しい顔で腕を組み、ナナカナを見た。


「私もレインに賛成だよ。もし話をしないで本当に番になったら、ジータはレインを殺すかもしれない。あいつの族長への執着はすごいから」


 執着。

 そう、執着だ。


 彼には、アーレ・エ・ラジャに対する好意がある。

 ほとんど話したこともない私でさえ、それでもジータの気持ちは伝わっている。


 きっとジータなりの愛情もあるのだろう。

 嫁が数人いるのも、ある意味文化と常識の違いから来ている。アーレ・エ・ラジャにとっては不快だろうが、彼にとっては浮気でさえないのだと思う。多妻制は認められているようだから。


 その辺を考えると、ジータには本当に、アーレ・エ・ラジャが自分を拒む理由が、わからないのかもしれない。

 わからない上に、急に出てきた私に好きな女性が取られるともなれば、黙って見過ごすとも思えない。


 この状態で結婚したら、ジータが何をしでかすか……非常に危険である。

 主に私の生命的な意味で。


「話と言っても、我の話はもう充分伝えてあるぞ。何度話したと思っている」


「でも納得はしてない」


「あいつは馬鹿だからな。納得などできんだろう。愚かだし約束一つ守れないし。話す価値などない」


 実も蓋もない言い分である。


「百歩譲ってジータのことは無視するとしても、男女に別れた集落の問題は無視できないだろう?

 そろそろ和解しないと、このままの状態がこの先何年も定着してしまうかもしれない。

 この問題を解決するためには、やはり向こうの族長であるジータとの話し合いは必要だと思うんだ」


「……集落の問題か」


 そう。

 結婚することに関しては個人的なことだとしても、集落の問題は族長が解決するべき問題だ。

 アーレ・エ・ラジャが自らを族長と名乗るなら、無視はできない。


「族長」


 難しい顔をしたままのアーレ・エ・ラジャに、ナナカナが言う。


「ジータとの話し合いが終わったら、レインが番になるって話だよ。そういう話をしているんだよ」


 え?

 なんで今更そんな基本的な……あ、でも、まだちゃんとは言ってなかったな。


 そう、話が終われば、私は改めてアーレ・エ・ラジャにプロポーズしたいと思っている。

 森の向こう(・・・)に帰りたい、なんて話はまったくしていない。


 でも元からそれ前提で話を――


「それを早く言え! 集落がどうとか魚を増やすだとか回りくどい言い方をして! おまえのそういう結論を回りくどく言うところはよくないぞ!」


 えっ?

 いや、色々言いたいけど魚のことを言ったのはタタララだぞ!


「つまりジータを殴り倒して我らの仲を認めさせればっ……その、なんだっ、……我を抱くんだな!? いやいいっ、我がおまえを抱く! もう抱く! 今夜抱く!」


 えっ!?

 肉体言語じゃなくて話し合いって言わなかったか!? というか殴って説得って! それは説得じゃなくて拳を使った脅迫では!?

 

「そうとなれば早速行くか! ジータを血祭りにあげて番になるぞ!」


「いやそういう話はしてないぞ! してないって!」


 と、私が止める間もなく、アーレ・エ・ラジャは立ち上がって火を入れていない囲炉裏を飛び越え、サンダルを履く間も惜しいのか裸足で外へ飛び出していった。


 ……えぇ……こんなにも恐ろしいレベルの早とちりってあるのかよ……





「レイン」


 疾風のような早さで家から消えたアーレ・エ・ラジャの背中に呆然とせざるを得ない私に、ナナカナが冷静に言った。


「今日の晩飯は土塊魚(グレ・ラー)がいい」


 何を言うかと思えば。

 この子も呆れるほどマイペースだな。


 …………


 とりあえず追い駆けた方がいいかもしれない。

 ジータだって、さすがに理由もわからずいきなり殴られたら、たまったものじゃないだろう。


 よし、アーレ・エ・ラジャを追い駆けよう。





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― 新着の感想 ―
[一言] ナナカナが善人(集落思い)で良かった。 口先だけで影の支配者になれるよ。笑
[一言] もういっそそれやったほうが 後腐れなくていいような気がしてきた(^_^;)
[一言] 色々はしょればまぁ最後はそういう事に落ち着くかもしれないけど、というかそうしないともう解決しないかもしれないなぁ…。 レインだってその可能性を考えてはいるんだろうし。 アーレはちょっぴり嫉妬…
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