表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~  作者: 南野海風
第一章 指先王子、女族長に婿入りする
25/252

24.ジータの主張





 交渉の基本中の基本は、場所である。

 言葉や仕草のテクニック、相手の気持ちや思考を読み取る観察眼などの前に、交渉する場所はとても大事な要素である。


 場所さえ押さえれば、無茶な要求も意外と通るものだ。場所を制していれば更に効果的だ。

 たとえば、霊験あらたかではない壷や水晶玉を高値で売るような無茶な交渉さえ、売れる可能性は高くなる。


「――おまえレインっていうんだろ? 俺はジータだ。少し話しようぜ」


 ひとまず、相手の用意した場所で会わないことは基本だ。

 だからここで会えたのは、そう悪い流れではないと思う。


 何せ、ここは集落中央の広場である。

 少ないまでも、周囲に人はいる。顔見知りの女性もいる。この状況なら滅多なことは起こるまい。


 ……この男がジータか。


 歳の頃は、二十歳……には、届いていないかもしれない。近くで見ると思ったより若い。灰色の瞳に赤い髪で、左足の腿が白鱗に覆われている。


 私の認識では、目下アーレ・エ・ラジャを悩ませている最大の問題であり、また集落が割れている原因でもある男だ。


 筋肉こそ全身バッキバキだが、カラカロほど大柄でもなければ、太くもない。むしろ細身である。

 筋肉抜きの体格だけで言えば、私とそう変わらないかもしれない。……にしても本当に男女関係なく露出多いな。男相手でもバッキバキに挟まれていたら目のやり場に困るぞ。じろじろ見るのも違うしな。……でも筋肉はすごいんだよな。


「話とは?」


 なんて考えていても仕方ないので、とりあえず聞いてみよう。わざわざ話に来るような用事なら、聞くだけ聞いておくべきだ。


 まあ、あまり良い話ではないとは思うが。


「まあ酒でも飲みながら話そうぜ。うち来いよ」


「いや、酒はいらない。まだやることがある」


 まだ朝だ。それも早朝だ。彼らの呑むペースは知らないが、こんなに早く呑んじゃ駄目だろう。駄目人間の時間だぞ。


「ついでに言うが、あまり時間は取れない。ここで話せないことなら次の機会にしてほしい」


 ナナカナに仕事を任せてきているくらいだ。

 できることなら、早めに戻りたい。


「……そうか。おまえは俺が嫌いか」


 あ、本心がバレた。……そこまで見抜かれたら、もう遠慮はいらないか。


「女性たちから聞いていた限りでは、あまり好ましくない」


「そうかよ。でも――」


「わかっているさ。女性たちは女性たちに都合のいいことを言っているんだろう。あなたたちにもあなたたちの言い分があるはずだ」


 だから、両方から話を聞きたいのだ。


 ……できることなら、タタララの弟辺りと場所を整えて会いたかったが。向こうの族長(・・・・・・)が来るなんて予想もしていなかった。


「まあなんでもいい。俺の用事はすぐに済むから、聞け」


 比較的なごやかだったジータの目が、表情が、一転して刃を帯びる。


「――アーレは俺の女だ。あいつと番になるとガキの頃からずっと決めてた。おまえが来る前からだ」


 …………


 ああ、はい。


 私はこの集落に来て、まだまだ日が浅い。

 この集落で生まれ育ったアーレ・エ・ラジャが、どんな軌跡を描いて今に至るのか、まだ全然知らない。


 当然その間には色々あって、いろんな出来事もあったし交友関係も築かれてきたのだろう。


 ――その色々の中の一つに、このジータとの関係も、あったわけだ。


「わかんだろ? いきなり出てきたよく知らない男に渡す気はねえし、見逃す気もねえんだ」


 そのよく知らない男であるところの私としては、答えは決まっているのだが。


「私はアーレ嬢と結婚するために来た」


「あ?」


 ただでさえ険しいジータの表情が、更に鋭さを増す。


 ――正直かなり怖いが、ここで引くわけにはいかない。


「それがアーレ嬢の望みでもある。だから私をここに連れてきたのだ」


「そんなの俺は許さねえぞ」


「私とアーレ嬢が結婚するのに、あなたの許可が必要なのか?」


「俺は白蛇(エ・ラジャ)族の族長だ!!」


「私はアーレ嬢が族長だと聞いているし、そう認識している」


「――なんだとおまえ! ぶっ飛ばすぞ!」


 うわ怖いっ――と思う間もなかった。


 私が反応するより速く、殴り掛かってきたジータを、黙って見ていたカラカロが止めていた。


「落ち着けジータ。レインは戦士じゃない。手を出したらおまえの戦士の誇りに傷がつく」


「うるせえ! だってふざけてんだろ! 俺はずっとアーレが好きだったんだ! あの女と番になるって決めてたんだ! 十にもならないガキの頃からだぞ!? 諦められるか!」


 同じ集落で過ごしたなら、彼女とジータは幼馴染ということになるのか。


 幼馴染、か。

 ここでも私に関わるか。幼馴染とは厄介な関係だな。


 私とは比べ物にならないほど同じ時間を過ごし、思い出を共有し、きっと本来なら入り込む隙もない関係だったのだろう。


 本来なら。

 私は死ぬ覚悟をしてここまで来た。そう簡単に諦める気はない。


「おいおまえ! レイン! おまえは全部知った上で番になるって言ってるのか!?」


 やはり彼らにも彼らの言い分があるようで、ジータはカラカロに羽交い絞めにされながら叫ぶ。


 でも、どうせ聞いたって答えは変わらないだろう。

 私だって死ぬ覚悟をしてここまで来て――


「だいたいなぁ! 昔はアーレだって俺と番になることは納得してたんだ!」


 ……えっ? 何その話?


「族長を決める勝負だって! あいつは今まで俺に勝ったことがなかったのに、あの時だけたまたま一回勝っただけだぞ! だから多くの戦士が納得しなかったんだ! それで割れたんだぞ!?」


 ……えっ? たまたま一回勝っただけ?


 …………


 ……えっ? なんか、本当に、私が知っている話とだいぶ違うような……





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ