218.新婚旅行 一日目 夜
私とアーレが新婚旅行然としたアレコレをして、タタララとナナカナが露店を冷やかし、馬車を預けてきたフレートゲルトが合流し。
それから、運命の池を中心に街を見て歩いた。
私たちはいろんな店に入った。
見る者ほとんどが初めてという女性三人にとっては、どんな店も珍しいものばかりで目を引いていたようだ。
服屋を見たり、酒場に寄ったり、小物屋を見たり、酒場に寄ったり、酒場に寄ったり、酒場に寄ったり、酒屋に寄ったり、酒場に寄ったり。
私たちはいろんな店に寄って、夕方にはしっかり酔っぱらった。
「――向こうの人は酒強いんだな……」
「――いや、あの部族が特別なんだ」
私はまだ自制できたが、タタララに好いところを見せようとがんばったフレートゲルトが完全に呑み過ぎたようだ。
彼も弱くはなかったはずだが……
いや、白蛇族の戦士に付き合えば誰でもこうなるか。酒の量は本当に異常だから。
しかもあれだけ呑んでまだ全然足りていないというのも私にはわかっている。
たとえ旅行先でもその豪胆さは健在で、見かける酒場すべてに寄りたいと言い出す辺り、生粋の酒好きである。
まあ、酒屋には寄りたいと思っていたので、丁度いいと言えば丁度良かったのかもしれないが。
滞在中は全て面倒を見てくれるとは思う。
むしろ金を出そうとしたら怒らせるかもしれない。面倒というかなんというか、ここらの機微は貴族の面子に関わる微妙な話なのだ。受け手の解釈次第で無礼になってしまう。
だから、酒代だけは自分たちで出すべきだろうと思っていた。
どうせ浴びるように呑むだろうから、と。
幸い、霊海の森で拾ったという硬貨には金貨もたくさんあったので、酒代くらいはどうとでもなる。
なんならこちらで土地や家を買うこともできるだろう。
「こっちは酒の種類が多いな」
「ああ。こればかりは羨ましい限りだ」
酒でダウンしたフレートゲルトの代わりに私が御者をし、夕方から夜に変わろうという時刻。
彼方に見える、城と表したいほど巨大な建造物である領主の館が、夕陽で赤く染まる姿に感動している女性三人と友人を連れて、屋敷に戻ってきた。
そして屋敷に帰るなり、食堂のテーブルにはたくさんの酒瓶が並べられた。
全部酒屋と酒場を巡って買ってきたものだ。
現地でも駆け付け三杯とばかりに呑んでいたが、当然帰ってからも呑みたいという意志の下である。
これからアーレとタタララは、お気に入りの一本を探すための酒の時間に突入する。
めくるめく酒の種類と奥深さに翻弄され、楽しい楽しい夜を過ごすことだろう。
恐ろしく高価な酒は購入を控えたので、どの酒も気軽に買える価格帯である。
どれを気に入っても、滞在中くらいはいくらでも呑めるはずだ。
「――さて」
「あの、よろしいのですか? 本当に……」
使用人ササンが困惑しているのは、私の元の身分も聞いているからだろう。今朝、後天的に生えた私の白鱗に驚いたのもそのためだ。
「構わないよ。婿入りしてからは、ここは私の仕事場だ」
そして今、私は台所に立っている。
食材の質はともかく、設備や調味料はこちらの方が整っている。
結婚の儀式でアーレと交換した包丁も持ってきているので、何も問題はない。
常なら、婿入り修行も兼ねてフレートゲルトが食事を作るはずだったのだが、酔い潰れてしまっている。
だから、今日は私の出番だ。
彼女たちの酒量も身をもって思い知ったはずなので、こんな機会はもうないかもしれないが。
「ではお手伝いを」
「ありがとう。だがその前に、ナナカナを図書室に案内してくれるか? 彼女に絵本を見せてほしいんだ」
ナナカナも白蛇族らしく、酒が好きだ。
子供なのでさすがに大量に呑みはしないが、隙があったら舐めるくらいは平気でしてしまう。
傍にいれば私が止めるが、ここは食堂と台所が離れているので止められないのだ。
できることなら、まだナナカナと酒は遠ざけておきたい。
どうせ大きくなったら好きなだけ呑めるようになるのだから。身体や頭がちゃんと成長するまでは。
「絵本……ですか。畏まりました」
よし、では酒の肴と食事を作ろうか。
やはり椅子は落ち着かないということで、空き部屋に絨毯を敷いてローテーブルを用意して場所を移し、そこで酒宴を続行。
いつの間にか服も脱いで、なんか既視感のある光景で二人は呑み続けた。
そして既視感のある光景そのままに、その場で雑魚寝した。
それぞれ部屋に連れて行こうかと思ったが……気持ちよさそうに寝ているので、毛布だけ掛けておくことにした。
アーレはともかく、タタララは起こさずに抱えられる自信がない。
今こそフレートゲルトの出番だと思うんだがな……さすがに今日は仕方ないか。
こうして、旅行一日目が過ぎていった。




