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蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~  作者: 南野海風
第五章 新婚旅行という名の
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206.いざ出発





 もうすっかり秋である。

 日中はまだしも、深夜から明け方となると、しっかり寒い。


 出発は、まだ陽が昇らないほどの早朝。

 空は寒さとの戦いになるので、夜間の飛行は控える方向で考えた。


 白蛇(エ・ラジャ)族は寒さに弱い。


 ただし――


「さあ行こう! 飛べ!」


 ナナカナ、タタララは寒そうだが、アーレはその限りではない。

 むしろ普段より勇ましい。


 楽しみというのは、部族的体質をも克服するのかもしれない。

 

 旅行企画が立ち上がってから嫁がずっと子供みたいなんだが、これはこれでいい。

 ぜひとも思い出に残る旅行になるといいな。


 ……と、手離しで考えられればいいんだが。


 この新婚旅行は、新婚旅行という名でありがなら、各人が持つ意味が違う。



 まず話の大元であるタタララは、新婚旅行という名の婿探しである。


 今回の旅行は、日程を二週間程度と定めている。

 無理をして婿を探し連れて行くのではなく、まず婿候補を探し、何度か逢瀬を重ねてから決めればどうか、と話してある。

 

 私とケイラという前例はあるが、私たちはこちら(・・・)で死ぬ覚悟をしてやってきた。

 その前提がない者たちから婿を探す形となる以上、やはりいきなり婿入りどうこうは無理だろうと。


 タタララも納得し、腰を据えて一年ほどを掛けて探すつもりになったようだ。

 まず向こうへ行き、私のサポートもありつつ普通に過ごせるようになったら、もう一人で行き来しても大丈夫だと思う。


 今回は、あくまでも自分の活動拠点の確保と向こう(・・・)の常識を知るためだと、私は思っている。

 タタララは……自分と相手二人分の一生の問題になるのだから、答えを焦らないでほしい。



 ナナカナは、新婚旅行という名の社会見学である。


 いや、社会というよりは異文化見学とか異国見学とか、そういう言葉の方が相応しいのだろうか。

 まあ本人に自覚があるかどうかはわからないが。

 

 彼女は頭がいいので、やる気さえあれば得るものは多いだろう。

 そうじゃないにしても、策士策に溺れる失敗談はたくさん聞かせてやろうと思う。


 この世には、頭がいいからこそ失敗するケースもたくさんあるのだ。

 彼女はきっとそれをまだ知らないのだ――大きな失敗をする前にちゃんと教えておきたい。



 二度と帰ることはないだろうと覚悟していた私は、新婚旅行という名の忘れ物探しだ。


 考えれば考えるほどあれもこれと思いつくが、全てを得るのは不可能だろう。

 何しろ物品じゃなくて知識と技術が多いから……


 なるべく重要なものを最優先にしようとは思っているが、不慣れなウィーク辺境地で探すことになるので、どうなるか不安も多い。


 タタララのサポートもあるが、これに関してはフレートゲルトと相談してから決めたいと思う。

 彼は手伝わないと言っていたが、彼に構わず動けるかどうかもわからないから。


 あと、本当に観光地は巡ることになると思う。

 


 そしてアーレは、新婚旅行という名の新婚旅行へ行く。

 そう、彼女だけはその名の通りである。


 アーレが絶対にしなければならないのは、タタララがどこかに行かないか見張るくらいのものだ。

 それ以外は基本自由で、きっと私を連れ回していろんな所へ行きたがり、いろんなことをしたがるだろう。


 私も、サポートと忘れ物さえなければ、なんの憂いもなくアーレと楽しめるんだけどな……



 そんな人それぞれ意味合いが違う新婚旅行は、これから出発となる。


 見送りに来たケイラとカラカロに、双子とサジライトを任せる。

 白トカゲがなかなか私から離れようとしなかったが、カラカロが仕留めた獲物のように肩に担ぐと大人しくなった。


 同じく見送りに来た婆様に挨拶をする。


 婆様が綴った過去への手紙は、すでに預かっている。

 あとはウィーク辺境伯に渡すだけだ。


「最後に簡単に確認をするけど、いいか?」


 運んでくれるオーカとミフィ、ナェトとサリィ。

 運ばれるアーレ、ナナカナ、タタララ。

 見送りのケイラとカラカロ、婆様。


 皆の注目を集めて、私は最後にこれからの流れを確認することにした。


「私たちはこれから、オーカたちに吊られて森を越える。

 夜には向こう(・・・)に到着する予定だ。


 オーカたちは、明日の午前中にはここに帰ってくると思う。私たちを無事送ったことを婆様かカラカロに伝えてほしい。

 で、十二から十五日くらいしたら降ろした場所で待っているから、迎えに来てくれ」


 錆鷹(サク・トコン)族の四人は頷く。


 まあ、ついこの前まで族長をやっていたオーカはかなりしっかりしているので、彼らの心配はいらないだろう。


「日程は今話した通りだ。もし何かあれば、これに合わせて調整を頼む」


 たぶん大丈夫だとは思うが、客が来たり族長の判断が必要な案件に関してである。


 今朝もウキウキしていたアーレが、ふと真顔に戻った。ふと己の役割を思い出したのだろう。


「カラカロ、しばらくジータを頼む」


「ああ」


 私たちが不在の間は、ジータが族長代理を勤める。

 カラカロはジータを支えるよう言われている。まあいつも通りに近いのだが。


 あとは、旅行組への注意だが……これは現地で言うべきだろうな。


「私からは以上だ。何もないなら出発しようか」





 私はいつかのようにしっかり縛られ、アーレたちは右腕に縄を巻く。

 そうして、ついに暗い空へと飛び立ったのだった。


 道中は、特に問題はなかった。

 二回ほど休憩を挟んだ以外は、強風に煽られて寒い想いをしつつ――すぐに森の終わりが見えてきた。


 私が決死の覚悟で森を越えた時は、何日も掛かった行程だったのにな……部族が違えばこんなにも楽であり安全なのかと感慨深く思う。





 陽が昇り、空が赤く焼け、また暗くなり。

 森の終わりにやってきて、ゆっくりと高度が下がっていく中――


 アーレたちと初めて会った、思い出深いササラの木が見えてきた。


 そしてその木のすぐ傍らに、大柄の男の影が見えた。




 

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― 新着の感想 ―
[一言] 目的が違う自分の欲求に忠実な人達が一緒に旅行とか怖いわ (≧▽≦) レインがごちゃごちゃ考えてる時ってだいたい思い通りには行かないって言うか、レインが思ってる事の半分も周りは理解しないってい…
[良い点] フレートゲルト、タタララとの再会に浮かれてレイン無視していの一番にタタララに声を掛けそうw [一言] 再会初っ端からプロポーズしても展開として熱いなw
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