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153.いる生活





「で、結局おまえは我に何の用があるんだ」


 アーレと戦士たちが大狩猟から帰ってきて、一夜が明けた。


 戦士の九割方が出張った、戦士たちの祭りとも言える狩りが終わり。

 旅と狩りの疲れを癒やすため、ひとまず今日のところは多くの戦士が休む段取りになっているそうだ。


 何せアーレも、午前中は休んで午後から食料を探しにちょっと出る、と言っていたから。

 今日は狩りをするつもりはないらしい。


 一日くらいは休んでもいいと私も思う。


 そんなアーレは、朝食の席で言った。


「ん?」


 朝から胸焼けするほど大量の食料を口に運ぶトートンリートは、視線を上げてアーレを見る。


「何?」


「我に何の用か、と」


 昨日はアーレがすぐに休んだので、話は改めて、ということになった。


 その「改めて」が、今この時なのである。


「会いたかったっていうのが一番大きい。だから会った時点で目的は果たせたよ」


「会うだけでよかったのか?」


「うん、会うだけでよかったみたい」


「……ほう?」


 あれ?

 なんかアーレ、急に険悪になった?


「つまり、我はおまえの目に留まらなかった、という意味だな?」


「アーレくらい強ければわかりそうだけど、どうかな? おまえはあたしと戦って勝てると思うの?」


「…………」


「それが答えだよね。

 あたしは強い奴を尋ねて旅をしてるんだ。東の地まで来たのは、英雄キガルスに会うため。

 言い方は悪いけど、アーレは戦牛(イルハ・ギリ)族の集落に行くついでに寄って、会ってみただけだから。

 強ければ話は変わってきたと思うけど、そうじゃなかったってだけの話」


「ほほう。我がついで、か」


 ……あーあー。その気があるのかどうかはわからないけど、トートンリートは完全にアーレにケンカを売っている。


「まあいいだろう。用事が済んだならさっさと出て行け」


「あれ? やらないの?」


「族長だからな。我の負けは集落の負け、負ける勝負を受ける理由はない。理由があるなら話は別だが」


「――さすが」


 トートンリートはニヤリと不敵に笑う。


「ここで怒って勝負するような女には、族長なんて肩書きいらないよね。よかったよ、アーレがつまんない女じゃなくて」


「おまえに褒められても嬉しくない。用事が済んだなら出て行け」


「まあまあ、そう言わずに」


 と、トートンリートはにやにやしながら私を見た。


「レインの飯が恋しくてやってきた、っていうのも本当なんだよね」


 そんなにか。

 悪い気はしないけど、でも正直トートンリートより嫁の機嫌の方が大事なんだが。


「数日ここに置いてよ。満足したら出ていくからさ」


「無駄飯食いを置く気はない」


「狩りの手伝いくらいはするよ。自分の食い扶持くらいは自分で狩らないとね」


「……チッ。気に入らんな」


 アーレ。さすがに本人の前で露骨な舌打ちは。


「ははっ。少しの間だけ、幸せな家庭に混ぜてよ」


 笑う彼女とは対照的に、アーレはひどく渋面で。

 しかし、もう出て行けとは、言わなかった。




 こうして、少しの間だけトートンリートが白蛇(エ・ラジャ)族の集落に留まることになった。

 一時はどうなるかと思ったが、初対面や逗留の交渉以降、彼女がアーレを挑発するようなことはなかった。


 朝にはアーレと一緒に狩りに出て、彼女だけ昼には帰ってきて家で昼食を取り、そのまま午後はごろごろしている。

 それでもちゃんと獲物は確保しており、少なくとも自分が言っていた通り、自分の食い扶持は自分で得ている。


 きっと、戦士としてはすごく優秀なのだろう。

 家庭での彼女は、ずっとだらだらしているだけにしか見えないが。


「おまえらは可愛いなぁ」


 そして、殊の外ハクとレアの面倒をよく見てくれた。

 ……まあ大半は一緒に寝ている感じだが。





 トートンリートが一緒に住むようになって、三日日の夜。


 夕食が終わり、早速彼女はごろっと身体を横たえた。

 よく見る光景でしかないので、もう誰も驚かないし、何も言わない。これが彼女の普通なのだ。


 そして彼女はそのままごろごろ横転して、敷物に寝かせている子供たちに近寄る。

 子供たちを守るようにして寝ていた、サジライトを回転に巻き込んで圧し潰しながら。ぎゅっ、って言っていた。寝ていたのに。災難である。


「可愛いなぁ。あたしの子供も可愛いかな?」


 怒るサジライトを撫でて宥めつつ、彼女は寝ている子供の顔を覗き込んでいる。

 それは誰に向けた質問でもなかったと思う。


 だが、答える者はいた。


「いや。おまえに似ていつもニヤニヤしている気持ち悪い子が産まれるだけだな」


 アーレだ。


 いまいちアーレとトートンリートの関係がどうなっているかがわからないが、交わす言葉の印象では、友人……というよりは、悪友という感じである。


 お互いに掛ける言葉は悪いが、でも、なぜだか仲が悪そうには見えないのだ。


「笑顔が気持ち悪い子供なんていないだろ。つかそれを言うならハクとレアも全然表情変わんないじゃん。おまえの不愛想が似たんじゃない?」


白蛇(エ・ラジャ)族の赤子はそうなんだ」


「こういうところはレインに似ればよかったのに。不愛想になっちゃって」


白蛇(エ・ラジャ)族の赤子は皆そうなんだ!」


「よしよし。不愛想なお母さんがなんかうるさいけどゆっくり寝るんだよ」


「うるさくない!」


 いやいや。

 大声出してますよ嫁さん。





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