120.珍しい部族の人
情報収集もそこそこに、私は女性たちの話の輪から抜けた。
あとは、後からやってきた白蛇族のケイラ、ロコ、ジラに任せることにする。
いくら情報収集できたって、男は男だ。
女性同士でしか話せない話もたくさんあるだろう。
――色々と話も聞けたし、少し情報をまとめてみようか。
まず、鉄蜘蛛族の総人数は二百人から二百五十人くらい。
その内戦士が八十人前後で、あとは女性と子供、あるいは戦士じゃない男性となる。
森の中に広く点在しているらしいが、今回は代替わりということで、現在は私たちに用意された広場の家周辺に集められているそうだ。
次に、私たちのように助力に駆け付けた部族たち。
まず、青猫族。
集落が近く、私たちも一昨日世話になり馬とヤギを預けている。
そして集落が近いだけに、代替わりによる流行り病の影響を強く浮けてしまう。
鉄蜘蛛族に次いでもっとも被害を被るのは彼らなので、私たち以上に他人事じゃないのだ。
戦牛族。
彼らは大らかな気質の者が多いので、戦力として請われれば割と力を貸してくれるらしい。今回も特に難しく考えずに参加したようだ。
……彼らに関しては、冬の間にちょっと恐ろしい逸話も聞いたので、気を付けねば。
なんでも、大らかな気質だけに、人の話を信じやすいそうだ。
そのせいで、過去にはよその部族の口先三寸で騙され、戦力として便利に使われそうになったこともあるそうだが――
だが、実際にはなかったし、それ以降は滅多にないそうだ。
彼らは「騙された」「裏切られた」と思った瞬間、その相手を「敵」と見なす。
そして「敵」には一切容赦しない。
謝罪も受け入れないし、徹底的に潰すまで戦うことをやめなくなる。
まさに戦狂いの戦牛となる。
彼らの怒りを買って蹂躙された部族が、いくつかあるらしい……まあ、今では遠い昔の話だが。
騙そうとしたことがバレた場合のリスクが高すぎるのだ。
普通に接する分には穏やかな人が多いので問題ないが……気を付けるに越したことはない。
黒鳥族。
彼らは、少し関わり方が違うようだが、やってきている。
というのも、彼らの特性である「飛翔」が、森の中では障害物が多すぎて活かせない。
だから森の外で構えて、鉄蜘蛛族の状況を周辺部族に報せる連絡員の役割を担っているらしい。
これに関しては足の速い風馬族も参加しているそうだ。
色違いの蜘蛛族たちと、飢栗鼠族に虹羽族は、流行り病に罹る可能性があるので参加していない。
ああ、あと、珍しい部族が来ているらしい。
「――お? 変わった格好だね」
そしてその珍しい部族が、今私の目の前にいたりする。
「もしかして黒龍族?」
黒髪に、短い赤角が二本。
黒い左腕は、黒光りする鱗に覆われている。
そんな話に聞いた特徴を持つ女性が、赤い瞳で私を見ていた。
「そう。この辺じゃ珍しいでしょ」
まさに私が思っていたことを彼女は口にした。
――そう、戦自慢で広く知られる黒龍族は、遠い西の大地に住む少数部族だ。ここらは東側になるから。
部族全員が戦士で、戦士としては破格の強さを誇り、寿命もかなり長いのだとか。
そして、あまり子供が産まれない体質で、だから部族の人数は百人もいないと聞いている。
それらは、加護神であるドラゴンの特徴である。
目の前の彼女も……小柄で、これからもっと成長する十代半ばという年齢に見えるが、実際はかなりの年上だったりするかもしれない。
……それにしても、龍種と言われる部族か。
確かに雰囲気が違うな。なんというか……他者の強さなんてわからない私でも、おぼろげにその強さを感じ取れるというか。
威圧感があるとは思わないが、なんかこう、逆らい難い王者のオーラを感じるというか……カリスマ性があるとでもいえばいいのか。
あ、そうだ。
この雰囲気、公務中の父上や長兄にちょっと似ているんだ。
「私は初めて見たよ。あなたも鉄蜘蛛族を助けに?」
「たまたま近くにいたからね。せっかくだから力を貸してやろうと思って」
たまたま近くに。
「あなたの集落は遠い西だと聞いているが。この辺は、たまたま通りかかるほど近場じゃないよな?」
「そうだね。実は東の地で最強と言われている戦牛族のキガルスが、戦士をやめたって聞いてさ。どっちが強いか確かめに行く途中なんだよ。。
元々強い奴がいる集落を回る旅をしてたから」
あ。
そうか、戦士として強いと有名なキガルスの名声は、遠い西にまで届いていたということか。
私の噂が広まるくらいだから、戦士の誉れみたいな噂は、より広まりやすいのだと思う。
「で? おまえはどこの誰なの?」
「あ、失礼。私は白蛇族の族長アーレの婿、レインだ」
「へー白蛇のアーレの。アーレも強いって聞いたことあるなぁ。で、おまえがアーレの婿なの?」
「ああ。去年の秋に番になったんだ。新婚だ」
「そりゃおめでと。番か……あたしもそろそろ考えないとなぁ」
と、すたすた行ってしまった……いや、「あ、そうだ」と彼女は振り返った。
「せっかくだし白蛇の集落にも寄ろうかな。あたしは黒龍族のトートンリート。しばらくここに住むし、またなんか話そうよ」
彼女はそう言って、今度こそどこかへ行ってしまった。
黒龍族のトートンリート……か。
普段なら会えない部族だし、ぜひとも話を聞いてみたいな。




