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116.到着





 聖国フロンサードから見れば、霊海の森は西の果て、ということになる。

 だが、この蛮族の地から見れば、白蛇(エ・ラジャ)族は東側の部族という言い方になる。


 森を隔てた向こう(・・・)こちら(・・・)で、世界が区切られているのだ。


 長い歴史で見ると、二度三度と、蛮族が森を越えて東の地へと攻め入ったという話も聞くが、なんだかんだで蛮族側が断念して今に至っている。


 反撃にあって逃げ帰ったのか、それとも全滅させられたのか。

 こちらの戦士たちの強さを知ってしまった今は、その辺の事情も気になるところだ。


 ただ、はっきり言えることがあるとすれば、霊海の森という存在が境界線となり、大地を区切っていることだ。

 そして、その境界線を越えることはない、とされていることだ。


 ――実際は、蛮族側は越えられるし、最低限ながらも交渉も干渉もしているようだが。





 そんな区切られたこちら(・・・)側。

 東の果て、境界線に近い場所に集落を築いた白蛇(エ・ラジャ)族の住処から、北西へと向かう。


 道はないが、獣道はある。


 いったいどんな魔獣が踏みしめたのか、というくらい……馬車が擦れ違えるほど大きな地面を、タタララの先導で走っていた。


 左右には草木が生えているのに、この獣道だけは何もない。

 剥き出しの地面が、どこまでも続いているだけだ。

 もはやこれは獣道ではなく、普通に作った道のようだ。


 なんでも、極彩色蝶(イ・ヴァーヴィ)という巨蝶の幼虫……はっきり言えば恐ろしく巨大な芋虫が通った跡らしい。

 それも、もう何十年も前のことで、通り道にあった全ての草や木を食い散らして進んでいったとかなんとか。


 この大きさの、信じられないくらい巨大な芋虫だ。

 孵化した蝶の大きさを考えると……いや、考えたくもない。


 空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)くらい大きいかもしれないし、羽まで入れればあれ以上かもしれない。


 聞かなければよかった。

 ……いや、知らないと困る場面もあるかもしれないから、聞いてよかったのだろう。


 気持ちが沈む話をした一夜の野営を経て、更に北西と走り、二日目の夜に青猫(カレ・ネ)族の集落に到着した。


「――馬とヤギはここに置いて行く」


 タタララの話では、動物も流行り病に罹る恐れがあるので、鉄蜘蛛(オル・クーム)族の集落までは連れて行かない方がいいとのことだ。


 この邪悪なヤギなら病気くらい平気なんじゃないかと思わずにはいられないが、万が一を考えると、置いて行くのが正解だろう。


 理性では一刻も早く別れたいけど、……本音では別れたくない。

 もうすっかり可愛く見えてきた。

 こんなにも邪悪なのに。情とは厄介なものだ。


 青い髪が特徴的な青猫(カレ・ネ)族の族長に挨拶し、馬とヤギを預かってもらうよう交渉し、一晩だけ世話になった。


 ゆっくり話もしてみたかったが、生憎私たちも疲れていたし、彼らも忙しそうだったので、大人しく休むだけに留めた。


 そう、忙しそうだったのだ。

 夜も遅い到着だったが……どうも青猫(カレ・ネ)族は夜行性とのことで、むしろ彼らは夜から明け方近くまで活動するらしい。

 

 そして私たちが出発する翌朝には、夜の忙しさが嘘のようにしーんと静まり返っていた。

 基本、彼らの活動は夕方からになるのだとか。


 よそから嫁だの婿だのでやってきた者たちは昼夜逆転はしていないので、その人たちに見送られて、私たちはまた旅立った。


 ここからは徒歩――ではなく、青猫(カレ・ネ)族から借りた巨大な荷車に乗せられた。


 引くのは戦士で、私と女性たち、あと荷物は荷車である。

 完全なお荷物扱いだが……それでも私たちが歩くより、はるかに速い移動となった。まあひどく揺れたが。


 ――鉄蜘蛛(オル・クーム)族の集落に到着したのは、その日の夜遅くだった。





「ここが集落か?」


 見た目は、鬱蒼とした深い森にしか見えない。

 夜なので不気味に見えるし、いかにも危険な魔獣が潜んでいそうである。というか普通に潜んでいると思う。あと日中でも普通に不気味に見えそうだ。


「そうだ。すぐに迎えが来ると思……ああ、来たな」


 荷車を引いて走ってきたカラカロが、特に疲れも見せずに言っている間に――森から何かが飛んできた。


 何か?

 いや、人だった。


「――その外套は白蛇(エ・ラジャ)族だな」


 木の上から飛び降りたかのように、私たちのすぐ傍に着地した二人の痩躯の男。どちらも黒髪でカラフルな外套をまとっている。――そうか、外套のデザインで遠目でも部族がわかるようになっているのか。


「来てくれてありがとう」


 確かめる必要もないだろう。

 彼らが鉄蜘蛛(オル・クーム)族だ。


 だいたい五日の行程を経て、私たちはようやく目的地に到着したのだった。





「――おい、族長の婿」


 タタララに囁かれてハッとした。


 そうだ、私が白蛇(エ・ラジャ)族の代表だった。


「私は白蛇(エ・ラジャ)族の族長アーレの代わりにやってきた、アーレの婿レインだ。神の使いの代替わりと聞いて手伝いにやってきた」


 鉄蜘蛛(オル・クーム)族の男性二人の前に出て、挨拶をする。


「わざわざすまない。春先の忙しい時期に人を送ってくれた白蛇(エ・ラジャ)族には深く感謝する」


 春は忙しい、というのは共通認識らしい。


「俺が鉄蜘蛛(オル・クーム)族の族長ハールだ。族長の婿レイン、よろしくな」


 とりあえず、無事に目的地に到着はできたようだ。

 あとは白蛇(エ・ラジャ)族の族長代理として、恥ずかしくない立ち回りをしなければ。


 ここからが本番である。





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