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騒がしさの中で

 ゲルダさんに生暖かい視線を向けられつつ食事を受け取り、部屋で昼食を済ませた後、私達はようやく街へと繰り出す。

 最初の目的地は西区の市場だ。ゲルダさん曰く、日が暮れる頃には半分近くの商人が店仕舞いをしてしまうらしい。

 商人が自由に商いできる分、西の市場で商いをするのは旅の商人が多いんだろう。街を出るなら準備とかあるもんねぇ。


 そういった時間的な問題もあるけれど、まず市場から、と決めたのはクラヴィスさんの希望だったからだ。

 珍しくクラヴィスさんから行きたいって希望を出してくれたんだよねー。

 何でもディーアに魔道具を作るために、素材になりそうな物を探したいんだとか。


 設計は既に考えてあるそうで、話を聞いた限り、ディーアが持っていたあの魔道具を作ろうとしているようだ。

 素人相手でも様々な視点の感想を聞きたいのか意見を求められ、とりあえず知っている魔道具の事をちょっとだけ話しておいた。

 そっかぁ、あの魔道具はこの時に作ったやつだったんだねぇ……。



 いくら解毒を進めても、ディーアの声は戻らないままだ。

 私は元の時代で慣れているし、クラヴィスさんもすっかり慣れていて、身振り手振りだけだろうとディーアの言いたい事はすぐわかるけれど、他の人はそうはいかない。

 憐れまれるならまだ良い。気遣って「はい」か「いいえ」で済むよう話してくれる人だっていた。

 だが、中には喋れないならこちらの意見を聞くほかないだろうと、強引に話を進めようとする人だっていたんだ。


 主を守る唯一の剣として常にクラヴィスさんの傍に控え、話しかけられても私やクラヴィスさんが対応していた。

 だから今までどうにかなっていたけれど、可能ならディーア一人でコミュニケーションを取れるようになった方が良い。


 とはいえ、この時代は識字率が高く無いから、文字だけでは難しい場面が出て来るのはわかってるけどね。

 それでも何かしら商いをしている人は文字が読めないとやっていけないんだ。

 そういった相手に対して文字でやり取りができるようになるのは、ディーアの身を守るのにも繋がるだろう。




 探す物はある程度目星がついているとの事なので、クラヴィスさんを先頭に西区の市場を見て回る。

 私にはさっぱりわからないが、クラヴィスさんから見れば全て違うようだ。

 同じにしか見えないシュベルの糸を一つ一つ手に取り、丁寧に見比べていくクラヴィスさんに、露店の商人は感心したように頷いていた。



「これを一つ」


「いやーあんた良い目をしてるねぇ! 毎度ありぃ!」


「……今のどういう違いがあったの?」


「あれはそれぞれ魔力の系統が違っていて、その中でも補助に向いた魔力の物を選んだようじゃな。

 質も、あの中では一番良さそうじゃのぉ」


「ほへー」



 クラヴィスさんが会計を済ませている間、こっそりアースさんに質問すれば、すんなりと回答が返って来る。

 うーん、近くで見てたけど全然わかんないや。

 魔道具も魔法と一緒で皆に頼りっぱなしだったからなー。


 一応、偶然作ってしまった事はあれど、あれはアースさんの髭を使ったからって理由が大きいと思う。

 お守りだから縁起物にって使わせてもらったけど、龍の髭って素材としては最高級品っぽいもんね。



 あの髪紐をきっかけに少しだけ勉強はしたけれど、それだけだ。

 魔力の質を見る目など、そういった技術は一切持ち合わせていない。


 これはディーアと二人で冷やかしでもするかなぁなんて思っていたのだが、未来でシルバーさんに才能有りと断言されていただけあってか、ディーアも多少は違いがわかるらしい。

 時折ディーアが選んだ素材が採用されていたりして、ちょっぴり疎外感を感じたりする事しばらく。

 一通り露店を見て回り、それなりに膨らんだ風呂敷を手にしたクラヴィスさんは、少しばかり不服そうな顔でこちらを見た。



「もしかして足りない感じですか?」


「兵士が少ないからだろうな。魔物の素材が少し足りない。

 それは私達で狩りに行くとして……鍛冶師に幾つか部品を頼まねばならんな」


「鍛冶師かぁ……それならコリンさんのところに行ってみましょうか。

 知り合いだって言えば依頼も引き受けてもらいやすそうですし」



 旅人向けの店が並ぶ南区にあるそうだから、旅人の依頼も受けているだろう。

 けれど、知り合いか知り合いじゃないか、そういった関係値によって仕事に対する取り組み方も多少変わるというもの。

 仕事に私情を挟むなって良く言うけどさ。完全に分けられる人なんてそうそう居ないって。



 そうと決まれば早速行こうと、通りすがりの人に道を聞いたりして南区を歩いて行けば、何か作業をしているんだろう。

 街の賑わいを彩るように、風に乗って響き渡るガンガンと硬い物を叩く音を辿り、石造りの建物を覗き込む。


 商品だろう剣や盾が並べられた商品棚。その奥には煌々と炎を抱く炉があり、店内を赤く照らしている。

 奥では鍛冶師だろう大柄な男の人が数人、鉱石が入った木箱を運んでいて、入口に立てかけられた『アルフォン工房』と書かれた看板は所々黒く汚れていた。

 んー、なんか、街の鍛冶屋さんって感じがするなぁ。入口前なのにここまで熱気が来てるや。



 コリンさんが居れば話が早いけれど、あの様子だと奥さんの傍に付いていそうだからなぁ。

 とりあえず適当に誰か捕まえて、コリンさんのお名前を出させてもらおうか。

 そう、店内に一歩入ってみたのだが、冷やかしと思われたのか。一番近くに居た職人から睨まれてしまった。



「なんだぁ? 嬢ちゃん、迷子か?」


「い、いえ、迷子ではなくてですね」


「あ! 皆さん! 来てくれたんですか!?」



 クラヴィスさんとディーアがそれとなく庇ってくれたけど、金鎚片手の相手に睨まれるのは流石に怖い。

 怒鳴られないだけマシか、とすぐにコリンさんの名前を出そうとしたのだが、それより先に店の奥からコリンさんが駆け寄って来てくれた。助かるぅ。



「コリンさん、こんにちわー」


「なんだ、コリンの知り合いか」


「そうっすよ! 今朝話した恩人の旅人さん達っす!」


「例の、魔物を倒したっていう?」



 コリンさんの言葉に、こちらの様子を窺っていた周囲の職人達から本当かと疑いの視線が向けられる。

 マジか、とか言ってるのがちらほら聞こえて来て、つい苦笑いしてしまう。

 まぁ、私達の見た目って未成年か成人になったばかりかって感じだからなぁ。無理も無いか。



「奥さんの容体はどうですか?」


「おかげさまで、薬が効いて起き上がれるほどに回復しました。

 本当は今日こそ傍に居たかったんですけど、もう大丈夫だから仕事休むなって怒られちゃって」


「それは良かったですねぇ」



 頭を搔きながら話すコリンさんの様子を見る限り、奥さんはすっかり良くなったんだろう。

 良かった良かったと一人頷いていたら、最初にこちらを睨んでいた職人がこほんと咳払いをした。



「それで、わざわざ確かめに来てくれたってわけかい? それとも……」


「依頼したい事がある。魔道具を作るのに部品が必要でな」


「なるほど、そりゃあオレ達の出番だ」



 納得した様子で頷いた職人は、手を軽く振り上げながら私達を店の奥へと招き入れる。

 クラヴィスさんを先頭に付いて行けば、打ち合わせのスペースなんだろう。

 鉄製のテーブルと椅子が置かれた一角、近くの棚から羊皮紙とペンを取り出した職人は、よっこらせと呟きながら手近な椅子へと腰かけた。



「オレはここの店主、ロバート・アルフォンだ。よろしくな」


「クラウンだ。後ろの二人はエディシアとディーア」


「よろしくお願いします」



 やけに凄みがあるなぁと思ってたら店主さんだったわけか。そりゃ凄みもあるわ。

 軽く自己紹介が済んだ所で、早速とばかりにクラヴィスさんはロバートさんへと要望を伝え始めた。



 今までにない魔道具を作るとなると、部品もオーダーメイドで作る必要がある。

 そのため綿密な打ち合わせは必須で、専門用語も飛び交うのも当然というもの。

 一緒に聞いていたコリンさんがぽかんとし始めるのも、時間の問題だった。



「……私達は向こうで待ってよっか」



 私は付いて行こうと思えば付いて行けなくもないけど、専門外だからなぁ。

 ここは邪魔にならないように離れておこうと、ディーアと頷き合い、コリンさんを連れてそっと席を立つ。

 一瞬、クラヴィスさんがこちらを見たけれど、私達が移動するのに対して特に何も言わず、矢継ぎ早に繰り出されるロバートさんの質問に答えていた。


 きっと好きにしてろって事だろう。あの様子だと時間が掛かりそうだもんね。

 とはいえ、あまり離れるのもよろしくない。主の傍を離れるなんてディーアからすれば避けたいでしょ。

 近くに別の打ち合わせスペースがあるし、そこで待たせてもらおうかな。

 他の職人さんにも許可を取り、鍛冶屋独特の騒がしさに耳を傾けつつ、コリンさんから街の事を聞いていると、入口近くに居た職人さんがこちらへと大きく手を振った。



「コリーン! お前に客が来てるぞー!」


「ん、すみません、ちょっと行ってきます!」


「どうぞ、お気になさらずー」



 騒音にも負けない大きな声で呼ばれ、コリンさんが慌てて駆け出していく。

 いやぁ、これだけ騒がしいと人を呼ぶのも一苦労だねぇ。私だったら半日で喉が潰れちゃいそうだ。

 お世話になるし、今度喉に良い薬でも作って来るかーなんて考えていたら、コリンさんが誰かを連れて戻って来た。うん? あの恰好、この街の兵士だな?



「貴女がエディシアさん、ですか」


「……そうですが」


「突然すみません、この街で兵士やってるラルズ・ルーファスです。

 魔物の件で少しお話があって……今お時間よろしいですか?」



 人当たりの良い笑みを浮かべ、ラルズと名乗った兵士に対し、ディーアがそっと私の前に立つ。

 そんなディーアの袖を軽く引いて、私はラルズさんへ了承を示すべく頷き返した。

 いやぁ……遅かれ早かれ来るとは思ったけど、面倒事な気配、だなぁ。

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