7:世界は輝いている
「わたしがですか!? そんな身のほど知らずな!」
「身の程って、私はとてもお似合いだと思うわよ? それに次郎君もあやめちゃんのこと、すごくお気に入りだと思うし」
「は?」
「だってーー」
「ストップ、瞳子さん! 俺のいないところで勝手に話を進めるのやめてくれる?」
「じ、次郎君!? 」
素っ頓狂な声がでた。いったいいつからそこにいたのでしょうか。
一気に顔に熱がこもった。恥ずかしい、恥ずかしすぎる。
「瞳子さんって、ほんっとに油断も隙も無いよね」
「あら? それは心外ね」
「もうっ!」と悪態をつきながら、次郎君がわたしを見た。
「あやめ」
「は、はい! あの、勝手にそっくりさんの夢など見てしまい、本当に申し訳ありません」
ぐわぁ、穴があったら入りたい。消えたい。
「それはむしろありがたい事だけど。――今日で教授の助手も終わるから、言いたいことを言わせてもらうね」
「はい」
何か粗相をやらかいているのかもしれない。全力で謝罪の姿勢を整える。
「これからもあやめと一緒に過ごしたい。だから、俺と付き合ってください」
「ーーえ?」
聞き間違いだろうか。それとも、これも夢かな。わたしはまだ眠っていて、夢を見ているのかもしれない。
「あやめ、聞こえてる?」
「え?」
「俺の彼女になってください」
「え?」
夢だ、これは全て夢だ。わたしが次郎君に告白されるなんて、ありえない。
「あらま、さっそく臆面もなく口説いちゃうのね」
「瞳子さんのせいだろ!?」
「そういう直球なところ一郎とおんなじね。まぁ一郎の場合は心がこもっていないけど、次郎君のことは応援しているわよ」
「知ってるよ、もう!ーーって、ちょっと、あやめ!? 顔が爆発しそうだけど?」
もしかすると、わたしが爆発して夢から覚めるパターンかもしれない。
「あやめちゃん、可愛い。茹蛸みたいになっちゃって」
夢じゃないのかな。目覚めることもなく、目の前で続く二人の会話。次郎君と瞳子さんがわたしに注目している。あ、もしかしてドッキリかな。思わず辺りを見回してカメラを探す。
「あやめ、ドッキリじゃないから! カメラとかないから」
次郎君の顔も少し赤い。
「もしかして現実逃避してる? 俺は真面目に告白しているんだけど」
「……次郎君が、わたしに」
「そう!」
「わたしに!?」
咄嗟にがばりとその場で頭を下げた。
「お返事が遅れて申し訳ありません! 不束者ですが、どうかよろしくお願いします!」
夢じゃないなら、呆けている場合ではない。わたしのような者が次郎君に告白されて、返答を保留にするなんてありえない。お待たせするなんてありえない。
「あ、良かった」
ほっとした次郎君の声。わたしはおそるおそる顔をあげた。初めて見る、はにかんだ顔。少し照れ臭そうに髪をかきあげる次郎君に魂がもっていかれる。
ああ、かっこいい。こんな幸運なことがあっていいのだろうか。
「次郎君もお昼ご飯にする?」
瞳子さんが次郎君に尋ねながら、わたしに片目をつぶってみせる。良かったわねの意思表示。
「うん。ほっとしたら、すごくお腹空いた」
幸せを噛み締める私の向かいに次郎君が座る。はじめは戸惑いしかなかった時任教授の助手生活だったけど、いまは一緒にご飯を食べることも馴染んでしまった。
そして最終日。次郎君がわたしの彼氏だなんて。ああ、夢みたい。世界は輝いている。
わたしはすっかり冷めてしまったお味噌汁をすすった。




