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88 力比べ Ⅰ

 聖騎士達の休日という事で、色々な話は明後日以降になるらしい。

 僕は一階の食堂で夕飯を取る。

 部屋で食べても良かったんだけど……、マリエルの顔が怖い。

 じゃぁ、下で食べましょうという案に乗ったのだ。 


 同じ席にはマリエルとフローレンスお嬢様。

 気になるのだろう、残っている聖騎士達が僕らの方をチラチラと見てくる。


「もてもてじゃないー」

「珍しいだけと思いますよ」


 マリエルの言葉を適当に流す。


「あの、マリエルはどこまで知っているんですか?」

「どこまでっても……、ヴェルが村で襲われカーヴェまで一緒だった事と、その次の世界ではヴェルが村からでて帝国へ行ったぐらい。

 でも、最初の世界はちょっと怪しいわね。

 霧が掛かったようになってきて毎日何が起こったまでは覚えてないわよ」

「え……、なんで前々の世界の事を」


 いくら篭手をつけたからと言って一週目は僕の記憶だ。

 マリエルが思い出すのがおかしい。


「オ……、篭手の管理人というわね。

 その人が言うには繋がりが深い人記憶が混ざるらしいのよ。

 他にも、私たちと関係なしに、記憶が戻る人もいるって、占い師などもそういう類の人が居るらしいわよ」


 繋がりか……。

 それはやっぱアレだろうか……。

 フローレンスお嬢様がマリエルをジッと見る。


「なーに? フローレンスちゃん」

「あたし、その前の記憶っての無いんですけどー」

「残念だったわねー、ほら私はき、ず、な、があるからー」


 マリエルはお腹を摩りながら言う。

 いやいやいやいやいやいや、絆ってそっち? いや、その……。


「ええっ! マリエルさんヴェルとっ! こ、子供がっ」


 食堂がざわつく。

 注目を浴びたマリエルは、涼しい顔で、

「やーねー、恥ずかしくていえないわよー」

 という。


「冗談はやめてください……」


 背後から殺気が飛んでくる、たしか後ろの席には、マリエルの事が好きなナナがいたような……。

 話題を変えないと、刺されるかもしれない。


「何をする気は知りませんが帝国の協力者というのは、もう会ったりは無理ですよね」

「そこよね、私は彼らを知っていても、彼らは私達をしらない」


 彼らか……。

 という事は、男性だ。


「あ、ヴェルちょっと不機嫌になった?」

「なってません」


 食事を終えた隊員が僕らの席へよってくる。

 コーネリアとナナだ。


「フローレンスさーん、食べ終わりました?」

「ナナ、そう急がせなくても」

「マリエルお姉さま! お土産買ってきますから!!

 ぜーったい、部屋にいてくださいねっ!」

「はいはい」


 ナナは僕を睨みながら言うと、フローレンスお嬢様を見る。

 僕の疑問に答えてくれた。


「買い物、美味しいデザート屋さんがあるんだって、いまたふぇるふぁっててへ」


 弾む声は嬉しそうだし、仲は良好なのかな。

 残っていた食事を一気に食べている姿は、とても品はない……。

 注意しようかと思ったけど、村を出る時に正式に仕事を辞めた。

 もう、召使い……というか執事みたいに口煩くいう事も無いだろう。


「じゃ、行って来るわねっ!」

「お二人とも、フローレンスお嬢様はわがままですので、よろしくお願いします」

「だーれが、わがまっ!。

 ヴェル、私は普通ですよ」


 後ろの二人が小さく笑う。

 三人で店から出て行った。


「さてと……私たちもいきましょうか」

「どこに?」


 思わず聞き返す。

 僕としては、自室へと篭るだけである。


「二人で汗まみれの良い事しましょう!」


 どうどうと変態ちっくな事をいうマリエルの頭にファーが手で叩く。


「いったーい」

「力はこめてません」

「あ、ファー……」


 マリエルの隣へと座ると僕を見る。


「実は、ヴェルさんが寝ている間に試合の申し込みがありまして……」

「試合?」

「ええ、そのヴェルさんの力ですね、マリエル隊長は私より強いわよーって言うのですが、本当にそうだったら色々と考えないといけないのです。

 その、気分を悪くされては困るのですけど、逃亡とか……」


 ああ、確かにマリエルと同じ強さで途中で逃げたら追う方は大変だ。


「もちろん、手を抜く事はできますけど、あからさまに抜いたとなると拘束します」

「ええっと……仮に勝った場合は……?」

「人数にもよりますけど、ヴェルさんが我々が思ったよりも強かった場合は、どうしようもないので拘束はしません。

 逃げた場合は捕まえるのでなく、処罰の対象になります」


 微笑をわすれないファーの意見を聞いた。

 なるほど、その場合は死か……前も聞いた気がする。

 僕の記憶ではミントにボコボコにされた……。


「わかりました」

「わるいわね」


 マリエルが適当な声で謝る。

 既に暗くなりつつあるけど、しょうがないといえばしょうがない。

 逃げないけど、僕が夜中に逃げたら困るからだろう。


 残った聖騎士と共に以前訪れた、平野へと来た。

 一応休日なので、別に参加や見物は強制的ではないらしい。

 でも、第七部隊十三名中六名が着いて来た。


 マリエル、ミント、ファー、アデーレ、チナ、クレイ。

 

 アデーレは、確か弓使い。

 チナは大柄な女性で大剣使い。

 クレイはチナと同期で二本の片手斧を使う女性だ。


 かがり火が付けられる。

 辺りが明るくなった。


「じゃ、ミントよろしく」

「ふえ? ミントは戦わないのだ」

「え?」


 前回の力比べでミントと戦った。

 僕はファーを見る。


「ちょ、なんでこっちをみないのよ!」


 マリエルが文句を言っているが、多分こういう仕事はファーの仕事だから、当然そっち見るよね。


「いい判断です、思わず好きになりそうですよ。

 ミント副隊長は保険のようなものです。

 クレイさんとチナさん、このお二人は第七部隊の中でも、いえ私達よりも先輩です。

 まずはそのお二人から」


 大柄なチナと、手斧チェックをしているクレイがよって来る。


「先輩なんて聞こえはいいが、それだけ芽のでない二人って事よ」

「同感、かませ犬でも簡単に負けるわけには行かないからね」


 僕はマリエルから聖騎士の剣を借りた、もちろん殺し合いではないし、僕の傷修復能力も小さな傷をつけて確認した。

 そして、ファーの合図で試合が始まった。

 二対一、こっちが不利であるけど……。


 チナが大きな剣をもって突進してきた。

 彼女の戦いは、前の世界の賊との戦いで見た、あの時は動きも早く……。

 僕はチナの剣を剣で受け止めた。


 僕の死角である左右から何かか飛んでくる。

 引けばチナが来るし、左右にはさけれない。

 だったらっ!


 僕はチナの剣を弾き飛ばす。

 驚くチナの腹へ剣の柄を叩き込む。

 飛んでくる二つの手斧を確認すると、剣で叩き落した。

 

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