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87 タチアナの町(二度目

 もろもろの疑惑が解消された。

 僕らは今はタチアナの町までゆっくりと移動している。

 時間は日が少し昇る前だ。

 事情を知り複雑ながらも信じたファーと、僕の知らない記憶を持っているマリエル。

 そして、半信半疑ながらもフローレンスお嬢様も話を信じ、僕達と一緒にいる。


 さすがに、聖騎士達から無罪放免と言われても村の人間の不信感は消えない。

 タチアナの町温泉でも入って一先ず落ち着きましょうという提案だ。

 よってフローレンスお嬢様は、硬い話をすると見聞を広める為にというやつだ。


 前方から土煙が見えるようなきがする。

 よくみると人だ、人が走ってくる。


「たいちょおおおおおおおおおお…………なのだ」


 あ、ミントだ。

 まだ十代に入ったか入らないかの年齢にしか見えない聖騎士第七部隊の副隊長のミント。

 その強さは、僕は身にしみて覚えている。


 急ブレーキをかけて止まる。

 すぐに僕らを見てキョロキョロとしている。


「お疲れ様ミント、こっちはヴェル、簡単にいうとハグレになりかけの人ね、どうせなら王都で聖騎士の試験を受けさせようかと」

「ごっほっ」


 思わず咳き込む。

 そんな話は聞いてない。

 マリエルに視線をおくると、いってないもんと視線で返って来た。


「聖騎士になるのだ?」

「ど、どうかな……」

「で、こっちがその妹のフローレンスちゃん。

 こっちは一般人ね」

「妹ってっ――――」

「よろしくなのだ!」


 ミントが元気良く挨拶する。


「ああ、もう……よろしくおねがいします」


 一応年下のミントにも挨拶は出来るらしい、その辺は成長したなと僕はしみじみ思う。

 フローレンスお嬢様から睨まれたけど、気のせいにしておこう。

 ミントがファーに訪ねる。


「ファーちゃん、村にいかなくていいのだ?」

「そうですね、村は当分大丈夫そうなので、ミントには悪いけどこのまま戻りましょう」

「わかったなのだ」


 これで五人だ。

 ミントが僕の右によってくると手を握ってくる。

 別に深い意味はないんだろうし、僕も握り返して歩く。


「「なっ」」


 二人の女性の声がはもった。


「じゃ、恋人の私は左側へ……」

「まった! 恋人っても前世みたいなもんでしょ? ここは、マリエルさんがいう妹みたいなわたしが繋ぐのが一番自然だと思うんですけどー」


 何時から恋人になったんだ、ってか未来、いや過去になるのかな。

 僕は一体マリエルと何をしていたんだ……。

 ってか、フローレンスお嬢様もお嬢様で、普段僕と手を繋いであるいた事はない、自然もなにも無い。


「いいえ! じゃ、じゃんけんよ!」

「一回! いや三回勝負なら!」


 ファーがそっと左側へと立つ、

「手を失礼してよろしいでしょうか?」

 と言ってくる。


「え、ああ……。

 そうですね」


 僕はファーとミントと手を繋ぎ、後ろの二人を置いて歩き出した。

 これが一番早く町へ着けそうだし。


「「ずるい!」」

「何がずるいなんですか、喧嘩の仲裁をするのも副隊長の仕事です、さていきましょう」


 無事? にタチアナの町へと付いた。

 懐かしさのある宿で他の聖騎士達と挨拶をかわした。

 丁度朝食の時間であり、宿内は狭苦しさも感じる。

 僕の立場は今回は、聖騎士候補生になるらしい、マリエルがそう皆に説明した。


 その中でアデーレとコーネリアが僕達をチラチラと見てくる。

 そのアデーレから突然話しかけられた。


「どこかであった?」

「いえ?」

「そう」


 短く言うと場所を離れていく。

 マリエルに話を聞こうかとおもったら、マリエルはナナに抱きつかれていた。

 

 唯一男性である僕は一人部屋をもらい、フローレンスお嬢様は、コーネリアとナナと一緒の部屋になった。

 どっちも聖騎士になって一年未満で歳とも近いそうなので問題はないだろうと。

 

 どっと疲れた……。

 考えたら昨日からほぼ寝てないんだし、当たり前だ。

 オオヒナにあって、色々と聞きたい所だ。

 鞄から黒篭手を出して身に付ける。


 いくら念じても、ビリっとくるような感覚は無い。

 魔力切れのままか……。


 聖騎士達は今日、明日は休みみたいだし。

 僕も寝る事にした。


 どこかの城にいた……。

 王国かとおもったけどそれもちがう、オオヒナのいる城でもなさそうだ。

 白無地の仮面の男が僕を見ていた。

 体が思うように動かない……。

 

 ため息を付いた男は僕の腕へと剣を振り下ろした。

 その瞬間仮面の男の仮面が、カランと落ちた……、その顔を僕は見た……。



「……ル……ヴェル」

「はい?」


 目が覚めると、部屋が全体的に赤い。

 どこだ、いや宿だ。

 夢…………。

 フローレンスお嬢様が僕を起してきた。


「なんでしょう?」

「もう夕方よ? 食事の用意できてるって、うわ。

 すごい寝汗……」


 驚くほど寝汗だ。


「すみません、臭いですよね」

「ううん。この匂いも素敵よ!」


 汗の匂いがいいなど、変態な事を言い出す。


「……一度医者に掛かったほうがいいと思います」

「どういう意味よ」


 バンと扉が開く。

 マリエルが手に二人分の食事をもって部屋へと入ってきた。


「あれ、フローレンスちゃん? と、起きたのヴェル」

「ええ、少し疲れていたようです。

 寝汗が凄いので着替えてから下に行きます」

「別にヴェルの匂いならいい匂いじゃないっ!」

「…………マリエルも一度医者に掛かったほうがいいと思います」

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