85 忘れぬ日々をもう一度
村を守った、オオヒナの力で過去に戻った僕は帝国兵を蹴散らした。
でも、その現場をフローレンスお嬢様や村人に見られた僕は牢へと入れられた。
当然と思っているし弁解もしない。
問題はどうやってマリエル達を助けるか。
前の世界ではマキシムと帝国の一部が手を組んで殺されたと、ファーから聞いた。
頼みの綱のオオヒナは、魔力切れといって沈黙している。
扉を開ける音が聞こえた。
聞きなれた女性の鼻歌が聞こえ僕の牢の前で止まる。
数度鍵穴の音が聞こえると鉄の扉が開く。
「やー少年、気分はどうかな」
場違いな声、肩までの短い金髪、細く力強い瞳。
そして懐かしさも感じるマリエルの声とともに顔が牢屋内を見渡してきた。
「ん? 私の顔に何か付いてる?」
「い、いえ……。
その、綺麗だったので」
「あははは、少年は出世するよ」
マリエルは照れたのか、鉄格子を叩く。
鉄格子が、音を立てて曲がった。
会いたかった……、でも、前の世界で僕はマリエルが好きでした。
そう言っても変人扱いだ。
軽い雑談のあと僕は取り調べ室へと連れて行かれる。
そして今回の事を伝えた。
怪しい集団を見つけ撃退した事。
聖騎士の力は力は突然目覚めた事。
人を殺した事に反論はない事。
マリエルは素直に伝える僕に、唇をすぼめはじめる。
んーーと、声をだした。
「随分素直なのね」
「結果は結果ですから」
「うんうん。
まぁ、私としては過程も大事なんだけどね。
えーっとあとは、そうそうその篭手つけてるとハグレと間違われるわよ。
っても解らないか。
要は私みたいな聖騎士の真似をするのはいいけど。
別の聖騎士にいちゃもん付けられる事もあるわよって事」
ハグレか……。
僕の右腕に嵌められている黒篭手を指差す。
色々と縁がある黒篭手、元凶でもあり、これがなかったら過去にも戻れなかった。
「えーっと、その外れないんです」
僕の答えに眉を潜めると腕を出してみてと命令される。
言われたとおりに机の上に腕をおくとマリエルは篭手をさわり一部分を押す。
「外れるじゃない」
僕の右腕から、あっさりと腕から篭手を外すマリエル。
驚きのあまり声が出ない。
「あれ、どうしたの?」
「いえ、あの……ずーっと外れなかったので」
魔力がなくなったから? オオヒナが寝ているからかもしれない。
「何処かひっかかってのかもね」
マリエルは黒篭手を調べている。
内側をなぞったり、空いている左腕につけたりと、問題が何もないのかテーブルへと置く。
一瞬であるけど、マリエルの姿が二重に見えたきがした。
「こういう仕組みだったとはねヴェル……」
それまで少年と呼んでいたマリエルが、僕の名前を突然喋った。
それも、親しげで、ついこないだまでのマリエルな感じがする。
「助けるわよ、ヴェルもフローレンスちゃんも、ヴェルも私も」
力強くいうマリエルに、何を反応していいかわからなかった。
「え……?」
「あ、黒篭手返すわね」
「はぁ……」
僕へと篭手を返してくれる。
外が騒がしくなる、男性と女性の喧嘩する声が聞こえた。
僕とマリエルは顔を見合わせて、声のするほうを見る。
取調べ室が開け放たれ、フローレンスお嬢様が飛び込んでくる。
フローレンスお嬢様は、僕とマリエルを交互に見ると、マリエルの事を指を指す。
「ヴェルを殺したらダメっ! 出てってよ、このオバサンっ」
マリエルはその言葉で怒る事もなく、フローレンスお嬢様を見て微笑む。
「な、何笑っているのよっ!」
「べつにー……、ほらここおいで」
「なんで、オバサン膝の上にいかないとだめなんですかっ!」
「まぁそれもそうね。
さてっと……」
取調べ室の扉が丁寧にノックされた。
「どうぞ」
マリエルが事務的に答えると、扉が開く。
人を安心させるような微笑を作り出す女性。
髪は茶色く少しウエーブの付いた長い髪。
レンズの小さい眼鏡をかけた顔が部屋を見渡している。
「こんばんわ、フローレンスさんとヴェルさんですね。
村長さんから大体の事は聞いています。
ファーランス、名前は言いにくいと思いますのでファーとお呼び下さい」
「いやー。
休みの所ごめんね、それと背中を押してくれてありがとう」
ファーは眉を少しだけ動かした。
「よくわかりませんけど……」
「いいのいいの」
「とりあえずヴェルさんの話を聞きたいのですが、フローレンスさんは部屋からでたほうがいいですね」
僕もファーの提案に賛成だ。
事情聴取とは言え血生臭い話を聞くことになる。
マリエルが手を叩いて場を仕切る。
「第二五二回、緊急会議ー」
「「「はい?」」」
突然の緊急会議という言葉に、三人の声がはもる。
恐らく数字は適当で、でも話の内容は結構重要だったりする会議だ。
「後から他の隊員達にも話すけど、私聖騎士辞めるわね」
「「「えええ」」」
もう何から突っ込めばいいのかわからなく、ほんろうされっぱなしであった。




