83 番外 聖騎士達の事故処理
私が現場に来た時は、顔無しは居なかった。
フローレンスちゃんが見つかった、そう兵士が言った場所へいくと既に上級兵士と言われる人物が警備をしていた。
その中にミニッツ王子とオーフェンの姿もみえる。
嫌な予感がする。
記憶の中での出来事、カーヴェの町で次々に仲間が死んだ時と同じ空気が私にまとわり付く。
「フローレンスちゃんはどこ!?」
「あ、マリエルさんか、入らないほうがいい。
いま医療班とヒナヒメが入っている、その……すまん」
「何が?」
私は自分でも驚くほど冷静に返事をした。
オーフェンは黙ったままになる。
「…………」
「…………」
私も他の人も無言だ。
「隊長ー!」
「隊長っ!」
後ろからアデーレとコーネリアの声が聞こえてきた。
二人とも話を聞いたのだろう。
周りの兵士達の声が聞こえる。
少女の遺体はどこだと。
顔なしも消えたらしいぞと。
外交問題になるんじゃないかと……。
物置から数人の兵士とヒメヒナ様がでてきた。
兵士は担架を持っていて白い布がかけられている。
直ぐにフローレンスちゃんじゃないとはわかった。
女性特有の胸のふくらみが無いし、顔はみえないが布から見える頭の部分は黒髪だ……。
それに垂れ下がった腕には見慣れた黒篭手がみえ、それは無残にも破壊されていた。
次に乗せられて来たのは、太った豚。
いや、豚に失礼とおもう、豚以下の畜生だった物。
「隊長……」
気付くとコーネリアが私の服を摘んでいる。
「大丈夫よ」
軽く頭を撫でる。
昔から仲間の死は見てきた、涙はでない。
ヒメヒナさんが私達をみて顔をゆがませた。
「いきましょう」
「え? ど、どこにです」
「馬鹿ね、宿に決まってるわよ。
私達がここに居ても出来る事はないわ」
「で、でもっ!」
「コーネリア、隊長の命令だ」
「ア、アデーレさん……。
わかりました、申し訳ありません……」
「別に怒ってないわ、この調子じゃ試合所じゃないでしょうし、私も負け宣言してきたから……、後はお土産でも買って帰るだけ。
オーフェンに、ミニッツ王子こちらも報告書を作りたいので明日にでも説明お願いします」
「わかった……」
城下町の宿に着く。
二人とも無言だ。
並べられた食事をしながら私は話す。
「ほらほら、出会いがあれば別れもある。
私達は聖騎士なんだから、覚悟はしておく事。
だからこそ、好きな人が出来たら後悔しないようにね」
うーん……、アデーレは何時もの事としてコーネリアが暗い。
お通夜のような、実際お通夜なんだけど食事を終えて自室へと戻る。
最近は私が一人部屋で、コーネリアとアデーレが二人部屋だった。
ベッドの上で大の字になった。
しみだらけの天井が見えた。
「なんで、先に死ぬのよ……馬鹿ね」
…………。
………………。
「隊長、朝です」
「へ?」
目を開けるとアデーレの顔がある。
「あちゃー……着替えもしないままねちゃったわ。
報告書も書いてないし……」
「帝国の城から使いが来ています」
「はあああ」
大きな欠伸をして話を聞く。
だって眠いんだもん。
「身だしなみを直す時間はなさそうね」
「はい」
「じゃ、いきましょうか」
部屋をでるとコーネリアが赤い目をしていた。
寝ときなさいよと軽く頭をこつく。
迎えに来た馬車へと乗って城へとついた。
招かれた部屋へはいると、ヒメヒナ様にミニッツ王子、松葉杖のオーフェンが居た。
「顔無しさんは?」
さん付けはもちろん嫌味も入っている。
彼が第一発見者と聞いているからだ。
「手厳しいな、その辺も俺が含めて説明しよう」
ミニッツ王子の言葉である。
私達は空いている椅子へと座った。
「とはいえ、何から話そうか……」
「好きに話せばいい、顔無しの上司的な私から話そうか?」
ヒメヒナさんだ。
でも、ミニッツ王子はそれを手で遮った。
「いや、俺が喋らなければ……――――」
説明が終わった。
私としては、納得は出来ないけど納得できる対応説明だった。
「ひどいです!」
そう声をだすのはコーネリア。
彼女にとってはちがうんだろうなぁ……。
ミニッツ王子の説明は簡単だった。
今回の騒ぎは王国側のマキシム聖騎士第三部隊隊長が、帝国城内で行われた交流試合の選手の知人を殺した。
交流試合に参加した選手は逆上し、マキシム第三部隊隊長へ詰め寄り刺し違える。
帝国側は城内で起きた殺人であるが、犯人それに加害者は帝国に関連した人でなく、さらにマキシム第三部隊長が城内を勝手に動いた事を非難した。
それを不問にするという書状を王国へ送ったと話した。
「コーネリア落ち着きなさい」
「で、でも! 手紙を届けに来たのは帝国兵でした!」
「コーネリアっ!」
「す、すみませんでした……」
「ああ、もうそんな怒ってないわよー」
コーネリアの頭優しく包む。
「言いたい事はわかる。
帝国内も一枚岩じゃないんだ、そこに居るヒナヒメさんと俺達が意見あわないのもある」
「はっはっは、君達は強硬派と私を呼ぶが、帝国の今の意見はどれもこれも保身に回る。
こんな腐った国なら一度ゼロにしてもいいと思わないかい?」
「「…………」」
オーフェンとミニッツ王子は、ヒメヒナ様の言葉を言い返すことが出来ない。
パンパン。
私は手を複数回叩く。
「別に帝国内情には興味ないわ、で。
顔無しと私達の今後は?」
「ああ、すまない脱線した。
顔無しは、フローレンス嬢の遺体と共に消えた。
ヒメヒナ様がいうにはもう戻ってこないだろうと、元から彼は帝国の特別客人で帝国との契約は無いんだ。
で、その交流試合所じゃなくなってね」
「そうね……、私たちは元からフローレンスちゃんの捜索と護衛、そして今後の見守りが任務だった、でも全部失敗……」
小さな部屋が重苦しくなる。
「そうだ、マリエルさん。
ヴェルが付けていた剣と篭手もって行ってくれ」
オーフェンが古い聖騎士の剣と四つに分断された黒篭手を私の前に差し出す。
「元々、俺達はヒメヒナ様とコレを狙って対立していた」
「変な噂は君の女性関係だけにしてもらおう。
昨日も女性の使用人が数人入れ替わり立ち代り、媚薬を求めてきて、君と使うんだとお金を置いていったよ」
「ああ、ヒメヒナ様の作る媚薬は一級品でなって、誤解される様な事は!」
「なら使用もしてないと?」
全員の白い眼がオーフェンへと向けられる。
「さて……その話は置いておいて」
否定もしないという事は、本当なんだろう。
場の空気が少しだけ和らいだ。




