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81 城内の異変

 広場まで来ると、見物人が思ったよりも多くなっていた。

 リングの上では顔無しと、帝国の兵隊長と審判が既に待っていた。

 マリエルと僕は直ぐにリングの上へと上る。


「お待たせー」

「すみません、遅れました」


 僕らの謝罪に、大丈夫ですよと言ってくれる中年の兵隊長と、審判。

 顔無しだけは相変わらず無言だ。

 最後の抽選は箱から飛び出ている四本の棒を引く。

 色つきが二本、色無しが二本。

 これで準決勝が決まる仕組みだ。


 全員がそれぞれの棒を選び一斉に引く。

 僕の棒には赤色の印があった。

 マリエルのほうをみると、彼女の棒には印がない。


 となると……。


「これも一つの縁だな」


 珍しく顔無しが喋る。

 手には色付きの棒を持っていた。

 奇遇にも僕も同じ事を思った。


「じゃ、ヴェル。

 決勝戦で会いましょう」

「…………努力だけはします」


 他の人たちがリングから降りて行く。

 僕のセコンドはアデーレだ。

 いつもならフローレンスお嬢様がしていたけど、特別席とやらで見ているのだろう。

 ぐるりと見物人や城の建造物を見てもお嬢様の顔は見当たらない。 


 審判と顔無し以外リングから降りた。

 そして試合開始の旗が上げられた。


 僕は練習用の剣を真っ直ぐに構える。

 顔無しも同じく練習用の剣を構えた。

 違うのは僕は両手で構えるのに対し、顔無しは片手で構えている所か。


 僕も顔無しも動かない。

 見えないはずの顔無しが笑ったような気がした。


 ドンッ!


 …………。

 ………………。


 世界が止まったようなきがした。

 顔無しが動いた。

 お互いの剣がぶつかり合った。


「ほう……やはり付いてくるか」

「どういう意味だい?」


 力を抜いたらこのまま斬られそうだ。

 僕の問いかけには答えてくれる気配は全くない。

 顔無しが空いている手で僕の黒篭手を掴む、そのまま僕の体を強引に投げ飛ばした。

 

 景色がぐるぐると回る。

 リングの上で転がり、止まった時に棄権用のタオルを持っているアデーレと目があった。


「後ろですっ」

「っ!」


 僕はそこから、さらに体を回した。

 先ほどまで僕が居た場所には練習用の剣が刺さった。

 何とか立ち上がった時には、顔無しは直ぐ目の前に居た。

 突然伸びてくる腕に、僕の首が絞まる。

 

「ぐふっ!」


 片腕で僕を持ち上げる。

 喉が締め付けられてチカチカとなっていく。

 こうまで力の差があるのは悲しい、まさに一方的な試合。

 本調子ならといい訳はしない……。


「殺しはしない、場外へと運ぶだけだ。

 本来なら、お前の負ける所をフローレンスへ見せたかったか今日は居ないようだな」


 まて、今なんて?。

 本来なら、お前の負ける所をフローレンスへと――――、違うそこじゃない。


 今日はいないようだな……。

 頭痛がする頭で、顔無しの言葉を繰り返す。

 ありえない、顔無しは昨日のうちに招待状をだしている。

 

 僕は喉を押さえている顔無しの腕を掴む。


「無駄だ、はがれない」


 普通に外そうとしたらそうだろう。

 顔無しは実力差から僕を下にみている、それと試合だからといって手を抜いているのかわかる

 顔無しの小指を掴むとそれを折った。

 一瞬だけ力が弱まった時に腕へとけりを入れて顔無しから離れる。


「がは……っ! はぁはぁっ!! はあっ……!」


 酸素が体の中に一気に入ってくる。

 足音が近づくのが聞こえた。


「ま、まて」

「命乞いか?」

「違うっ! フローレンスお嬢様の事だ」


 顔無しの動きが止まった。


「言え」

「昨日の夜、特別席へと招待状を送ったんじゃないのか……?」

「…………何の話だ?」

「あんたが、フローレンスちゃんに試合を見せ付けたいからって、態々飲んでいる場所に手紙寄越したんでしょうかっ!」


 リングの外で話を聞いていたマリエルが叫ぶ。

 顔無しが数歩下がる。

 ぐるりと見回しているという事はフローレンスお嬢様を探しているのだろう。

 僕の眼を仮面越しに見てきた。


「そんな話はしらん……」

「じゃぁ、フローレンスちゃんは誰に誘われたのよ……」


 顔無しが審判のほうへ顔を向けた。


「審判、俺の負けでいい」


 短くいうと、直ぐにリングを降りて走っていった。

 僕の横にマリエルとコーネリアが寄ってきた。


「ヴェルさん、顔が青いです」

「大丈夫ヴェル?」

「僕らも行きましょう、何かかおかしいです」


 立ち上がろうとすると、膝が崩れた。


「ちょっ!」


 直ぐにマリエルが支えてくれる。


「ここで休んでいなさいっ! 私達が行くから。

 審判っ! 次の試合、私も負けでいいわっ。

 コーネリア、アデーレ」

「「はいっ」」


 三人が走って消えていく。

 残った帝国兵はあっけに取られてどうしていいかわからないようだ。

 僕も行かなくては……。

 無理やりに立ち上がる。


「何やら大変そうだね」

「ヒメヒナさん……」

「フローレンスというのは、いつもいる小さいけど胸の大きな子だろ?。 

 いないようだなと思っていたな。どれ、私もさがし――――」


 ヒメヒナさんの腕が引っ張られた。

 みると、審判や中年の部隊長のがヒメヒナさんへと詰め寄る。


「現場からにげないで下さい。

 ヒメヒナ様は現場監督の役割も」

「試合のほうはどうしたら……」

「いやはや、私が可愛いからといってそう詰め寄られても……」


 ヒメヒナさんは動けそうにもない。

 僕は城内へと戻った。

 僕らが動ける場所は決まっている。

 フローレンスお嬢様の部屋へいこうとすると、マリエル達が戻ってきた。


「ヴェルっ! 寝てないとっ」

「いえ、それより……」


 マリエルは黙って首を振る。


「参ったわね……、部外者である私達が動けるとなると」

「隊長、あれはオーフェンじゃないか?」


 アデーレが言うと護衛もつけていないオーフェンが松葉杖で歩いている。

 僕達を見ると驚いた顔をしていた。


「あれ、ヴェルに……、可愛い聖騎士の皆様集まってどうした?」

「オーフェンこそなんでここに?」

「いやー……、そのなんだ。

 汗を流しに」


 オーフェンの体から香水の匂いがしている。

 オーフェンが歩いてきた方向からメイドさんが歩いてくる、僕らを見て一瞬驚いた顔をしたけど、一礼して通り過ぎようとしていた。

 そのメイドからオーフェンと同じ香水の匂いがした……、深くは突っ込まないようにしよう。


 僕らはいきさつを軽く伝えた。

 話を聞くと、オーフェンの顔色が変わっていく。


「わかった、ミニッツには俺が伝えよう。

 四人はこれを」


 小さいカードを三枚取り出した。


「王子の客人としてのパスだ。

 宝物庫と、武器庫、あと王の寝室以外は入れる。

 ただ、入れたとしても……」

「わかってる、騒ぎ立てないし、フローレンスお嬢様を探すだけに使う。

 終わったら返すよ」


 僕とマリエルは単独、アデーレとコーネリアはセットでそのカードを受け取り別れた。


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