79 酔っ払い達とだます為の準備
ベロベロに酔ったフローレンスお嬢様を、台車に乗せて僕とマリエルは城へと向かう。
すれ違う人々が何事かとみている。
そりゃそうだろうな……、後ろに乗っているフローレンスお嬢様は上機嫌だ。
「もっと、もっと早くよ!」
「危ないですから暴れないで下さい」
「ぶー」
文句を言うフローレンスお嬢様に、一緒に引いているマリエルがさっきの事を訪ねた。
「で、手紙にはなんて?」
手紙とは、先ほど僕達が飲んでいる場所に帝国兵が来た。
顔無しがフローレンスお嬢様に用があったらしく、手紙を渡して帰っていった。
その内容の事を知りたいという。
「あの、一応手紙ですし内容を聞くような事じゃないとおもうんですけど……」
「馬鹿ね、酔ってる今が聞き出すチャンスじゃないのよ! あの無言の仮面男が、フローレンスちゃんに何を手紙で書くのか興味ないの? 私はあるっ!」
あ、マリエルもこれお酒抜けてないな……。
「ええっとね、明日の試合は特別席で見せるから部屋で待ってろだって」
「うわー……、それって自分の勝利をいい席で見て欲しいって事よね、がんばってねヴェル」
「なんで僕なんですか、くじ引きだし違う人にあたる可能性もあります」
三分の一だ。
そう都合よく行くはずがないだろう。
「さて、城も見えてきましたよ」
「「はーい」」
どうやらマリエルも一緒に泊まるらしく城へと入っていった。
ヴェルもベッド空いてるし来る? と言われたけど丁重に断る。
宿に戻り一人部屋へとはいった。
一応鍵を確認する。
「かかってる」
思わず、ふうと、ため息をついてベッドへと腰掛けた。
鞄から一つの包みを出して僕は、黒篭手を取り出す。
そして、あいている腕へと、もう一つの黒篭手を腕へとはめた。
体中にビリっと痺れがはしる。
ベッドへと横たわった。
意識が遠のく感じがする。
「ごくろうじゃったな」
そういうのはオオヒナだ。
「全員驚いた顔をしていたよ」
「じゃろうな……」
「でも、ばれないかな?」
「ばれるだろうのう、しかし、わがはいの魔力をお主の体を通して今移しておる。
ちょっとやそっとじゃばれんはずじゃ。
簡単に言えばわがはいの居ない小さい世界をもう一つ作っておる」
皆に見せた黒篭手は偽者。
これはオオヒナの案で、僕がフランへと頼んだ偽の黒篭手。
僕はそれを二つに割り、それぞれに送る。
ばれるまえに国外へとにげるつもりだ。
「お主はわがはいを封印したいみたいな考えがあるようじゃが」
ドキっとした。
そう思ってはいたけど、さすがにオオヒナには伝えてない。
「そんな事はない」
「嘘が下手じゃのう。
じゃが、ヒバリにもヒメヒナにも渡すのは不安だと、相談してくれたんじゃ協力はするのじゃ」
「消去法だよ、どちらに渡しても篭手がどうなるかわからないし。
ヒバリに手渡すとヒメヒナさんが奪おうとするでしょ」
「そういう事にしておこうかのうなのじゃ」
「あっ」
僕は突然思い出す。
もしかしたらあれもオオヒナが助けてくれたのかと。
世界がスローモーションになった、そのおかけで僕はアデーレに勝てた。
「なんじゃ?」
僕はアデーレとの戦いの事を聞く。
ふむふむと、オオヒナは頷くと僕を見た。
「わがはいの力でもあるが、お主の力でもある。
わがはいの力を勝手に使い、周りの時間を遅くしたのじゃろ。
お主がわがはいに力を貸した時、ジンに勝てたのもその力のせいじゃ」
そういえば、そんな事もあったような気がする。
一番最初に聞いたオオヒナの声と力。
【ふむふむ、わがはいを作った主様の世界では、こういう時に使うと聞いてな、ではわがはいの魔力をお主に送る、もって三十秒じゃ】
と確かに言っていた。
「あの時はわがはいが無理やり力を与えた。
今回はお主がわがはいから無理やり力を奪った。
ま、そんな所じゃのう」
「じゃ、今度から自由に周りの時間を……」
「戻せると思うか?」
呆れた声を出すオオヒナ。
やっぱり無理か。
「だったらいいなと思っただけです」
「お主の魔力とわがはいの魔力が寸分変わりなく交じり合えばいけるかもしれんのう」
できるのか。
でも口ぶりからすると何年、何十年とかかりそうだ。
黒篭手の精神世界というのに、欠伸が出てきた。
「あれ、なんで」
「魔力を移しておるからのう、この世界にも影響は出るのじゃ。
おかけでこーひーもだせん」
あの苦い奴か。
僕はあまり好きではない。
「それはごめん」
「きにするな、ゲーム機も出せないし、音楽も聴くことが出来し、城以外の世界を作り出すことも出来なく、寝たら魔力の移動も出来ないし、この小さな部屋で何度も読んだ本をぼーっと読むしかないけど、きにするなのじゃ」
…………。
凄く気にするんだけどと、突っ込み居れたかったけど我慢しよう。
「明日の試合のために少し寝ておきたいかな……」
「はー……、恨み言をいう相手もいなくなるとはのう……」
「元はオオヒナを、渡したら不味いと思っての作戦で、そんなに文句を言われても……」
それまで愚痴を言っていたオオヒナの顔が明るくなる。
「しっとる。
ちょっとからかっただけじゃ。
大方事実じゃが、暇つぶしをするほど暇ではない。
お主の言うとおりに朝までに偽造の篭手に魔力を送るのに集中しないといけんからのう、さて現実に返してやろう」
「ありがとう」
僕の体が浮き上がる。
毎回思うけど違う方法で帰る事はできないのかな。
壁をすり抜け、空が見える。
丸みを帯びた地面が真下に見えた頃に現実へと意識が戻った。
部屋の中が暗い。
まだ夜中なのだろう……。
そして酷くだるい、吐き気もしてきた。
寝付けないままに朝を迎えた。




