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73 VS聖騎士弓使いアデーレ

 冗談じゃないっ!

 僕は特設リングの上で転がる。

 

 ドン!

 ドン!

 ドン!!


 先ほどまでいた場所には演習用の矢が三本刺さっている。

 あれ、あたったら絶対に大怪我だ。


 前を見ると、練習用の矢を三本同時に指に挟んだアデーレが見えた。

 くっ!

 僕はさらに走り出す。


「ヴェルーがんばー」

「ちょっと、ヴェルにそんな飛び道具使うだなんて反則よっ!」


 二人の黄色い声援、さらに帝国側からも、


「ほう、あれが瞬速の矢か」

「仮に銃でも対抗できるのか、弾を込めるよりも早いな……」


 など、声が聞こえてくる。

 

 本来は交流試合だ。

 そこそこに戦い、お互いに本気を見せない。

 それに、ここは敵国でもある、手の内を相手の兵士に見せる事もないはずなんだけど……。


 朝のくじ引き僕が七番、アデーレが八番だった。

 他の試合が終わり僕とアデーレがリングへ立つ。

 そして試合開始の合図でコレである。


 どうする。

 一、真正面から戦う。 

 二、矢切れを待つ。


 二だろう、アデーレの得意は遠距離からの攻撃。

 逃げ回れば勝機はあるはずだ。

 アデーレが僕の顔をみて口を開く。


「私の矢切れならご心配なく」


 アデーレは僕を威嚇しながら歩くと、先ほどリングに刺さっている矢を回収し始める。

 選択肢が一つ消えた。

 今日の僕のセコンドはフローレンスお嬢様である。

 僕自身は降参する気は無いけど、万が一があれば試合を止めてくれるはず、手には降参用の白いタオルが握られて……、あ、ないな。

 よく見るとフローレンスお嬢様の足元に落ちている。


「ヴェルー! 死んでも勝つのよおお!」


 死んだら勝てません。

 ドン!

 ドン!


「よそみ」


 声とともに僕の左右に矢が飛んできて、左右の逃げ道をふさがれる。

 時間差で飛んできた矢を僕は練習用の剣で弾いた。

 アデーレが一気に間合いをつめてくる。


 練習用の剣を逆手にもち切り上げるスタイルだ。

 僕は叩きつけるように上から押さえ込む。

 アデーレの斬り上がる力が思ったよりもある。


「っ!! 以外です。

 力もあるんですね」

「それは僕の台詞。

 ちょっとでも力を抜いたら斬られそうだ」


 そこから剣と剣の打ち合いが始まる。

 下から僕の剣を弾くと、そのまま斬りつけようとするアデーレと、それを無理やり押さえ込む僕。

 練習用の剣であれ、当れば骨の数本。

 いやそれで済めばいいほうで、下手したら死ぬ。

 それを防止するために審判やセコンドがいるんだけど……、試合が止まる様子は無い。


「はぁっ! はぁっ……。

 これも無理ですか……」


 息を弾ませるアデーレは死角からの蹴りを放つ。

 剣の柄で受け止めると僕との距離を取った。

 アデーレは両肩を弾ませるほどに息を吐いている。


「コーネリアっ!」

「は、はいっ!」


 アデーレは、アデーレのセコンドにつくコーネリアへと合図を送った。

 新しい矢筒が投げ込まれる。

 それを片手でキャッチすると直ぐに足元へ置いた。


「え?」

「悪いね……ヴェルさん……。

 セコンドが武器の追加を渡す。

 ルール的には問題は無いんだ」


 マリエルを見ると、慌てて僕の剣をもってフローレンスお嬢様へと手渡そうとしている。

 でも、重くてフローレンスお嬢様はそれを落とした。


「一応言うけど交流試合だってわかっているよね」

「はぁはぁ……、好きなんです……」


 唐突の告白に僕を始め、周りの空気が止まる。

 アデーレの後ろにいるコーネリアは口を手で押さえてるし、他の帝国兵士も突然の公開告白で目を丸くしている。


「私達聖騎士は、訓練はあれど全力を出す機会はほぼないです。

 こうギリギリの戦い、素晴らしいとおもいませんか?

 だからこそ、短期決戦に持ち込みたかった……」


 少しの沈黙の後、何人もの帝国兵が頷くのが見えた。

 

 ああ、そう。

 そうだよね、異性としての好きではない。

 当たり前じゃないか。


「ですが、実は体力も限界です。

 立っているのもやっとで……次で最後です……」


 矢筒から弓を取り出す。

 今度は三本ではなく五本だ。

 

 普段感情を表に出さないアデーレが静かに笑う。

 上空へと五本の弓を放つ、矢筒を振り向きもせず直ぐに次の五本を上空へと放った。

 それを五回。

 系二十五本の矢が空に打たれる。


 最後に一本、僕に目掛けて弓を構えていた。

 前後左右に矢が落ちてくる。

 これでは、左右に走って逃げようにも無い。

 

 だったら……っ!。

 練習用の剣を握り締め僕はアデーレへと突進する。

 弓の弦を切る、それがアデーレに対する僕の気持ちだ。


 僕の顔目掛けて矢が飛んでくる。

 剣で弾こうとするも、その勢いで一瞬体が止まった。


「さっきより、重いっ!」

「さすがです」


 既にアデーレは構えていた。

 そして放つ。


 力任せに二本目も弾く。

 腕や肩に空から降ってきた矢が落ち当っている。

 これだったらギリギリで間に合う。


「なっ!」


 二本目の影に隠れるように三本目の矢。

 狙いは体だ。

 当る。

 かわせば……。

 

 いや、だめだ。

 僕の背後にはフローレンスお嬢様やマリエルがいる。

 

 かわしきれないっ!。

 景色がスローモーションになった。

 僕だけが時の流れから外れたように。

 剣を握っていない腕で矢の起動を変えれば!。

 フローレンスお嬢様の事はマリエルに任せよう、少しでも起動が外れれば何とかしてくれるはず。


 衣服と腕の皮が引き裂かれていく。

 アデーレとの距離を詰め、僕はアデーレの持つ弓の弦を切った。


 はぁ……はぁ……はぁ……。


「降参です」

「え?」


 足元から声がする。

 長身のアデーレがいつの間にか座り込んでいた。

 突然に音が戻ってきた。


「審判、降参ですといったんです。

 もう立つ体力もありません」


 アデーレがもう一度いうと、帝国の審判が慌てて赤の旗を揚げた。

 周りの帝国兵から沢山の拍手が鳴り響く。

 僕は後ろをむくと、マリエルがフローレンスお嬢様より少し離れていて、最後に飛んで行った矢をキャッチしていた。

 ほっとしたのだろう、急に力が入らなくなり僕もその場に膝を付いた。


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