66 ヒミツの取引 Ⅰ
身なりともに綺麗になった僕達は部屋を見渡す。
僕の衣服は服は宿の主人にいって乾かしてもらった。
宿を出るときに、にいちゃん頑張れよっ! と肩を叩かれたけどどう何を頑張れば……。
とりあえず、お礼を言っておく。
「さーて、食事もすんだし馬でも買いましょうか」
そういうのはマリエルだ。
移動手段の確保。
五人で旅をするのに徒歩はつらい、ましてやフローレンスお嬢様は一般人だ。
本当は馬車がいいけど、高い。
「そうですね……僕もそれがいいと思います」
問題はお金ですかね、僕の手持ちを渡します」
残ったお金をマリエルに渡す。
「わ、わたしも出すっ!」
フローレンスお嬢様が小さい袋をマリエルへの前へと出した。
「二人ともありがと、正直財政は苦しいけど大丈夫よ。
帝都まで行けば、帰りの分は送金されると思うし」
「ファーランス副隊長へ手紙を出してある」
「アデーレの言うとおり、打診はしてるから。
ファーなら送ってくれる! はず……たぶん」
段々と語尾が弱くなるマリエル。
その横ではコーネリアが小さくなっていく。
「すみません、役に立たなくて路銀を使わせてばかり……」
「何言ってるのっ。
アデーレも、コーネリアも私を信じて付いてくれたんだもん、居るだけで嬉しいわ」
マリエルはコーネリアの背後から首へと手を回す。
表情の変化は少ないが、褒められたアデーレも少し嬉しそうだ。
僕の足元に赤い小石が転がってきた。
思わず拾うのに体を屈んだ。
低くなった目線の先に、先日あった女性が僕をみて手招きしている。
「ばっ!」
驚き声がでてしまった。
四人の目線が僕へと向けられる。
「どうしたのヴェル?」
「ヴェルー汗すごいよー?」
「あの、医術の心得も少しはあるのでっ! お、おくすり作りますっ!」
「コーネリアのは良く効く、貰ってはどうだろう?」
それぞれに心配されるが、そういう問題じゃなかった。
取り合えず抜け出す事を考えなくては。
「すみません、この町にいる間に会って置きたい人がいるので、少し時間をもらえませんでしょうか?」
「いいわよ別に」
「ねぇ、ヴェルっ! わたしも行くっ!」
フローレンスお嬢様についてこられても困る、というか全員付いてこられると困る。
「はいはい、おこちゃまは私達が預かるわよ。
詳細を言わないって事は、私達が居たら不味いんでしょ」
この辺の察しかたは流石マリエルだ。
「いや、ええっと……」
「別にいいわよ、じゃぁ西側にある馬屋付近で待っているから別行動って事で」
マリエル達が居なくなって僕は細路地へと入った。
誰も居ない。
そして直ぐに足元に赤い小石が転がってくる。
そして僕は飛んできたほうへと行き、また足元に小石が飛んでくる。
何度か繰り返すと少女の前へと来た。
「やぁ、またあったね少年。
偶然かな?」
「……呼んだんですよね、ヒメヒナさん」
ヒメヒナ、帝国の強硬派と呼ばれる人で赤い髪をした外見は少女の人間。
いや、オオヒナはヒバリ同様人間では無いと言っていた。
僕から見たら敵よりの人間。
人懐っこい顔でさっぱりした口調、とても悪い人には見えない。
「君、こういうのは女性に合わせるべきだよ。
とはいえ、呼んだ。
しかし、これが罠だったら君はどうするんだい? 城に行くんだろ?。
仲間の尾行も無いようだし、君一人で私に勝てると?。
すまないが、こう見えても多少は抵抗させて貰うよ?」
「あのー……こっそりと呼ばれたから来たんですけど。
用が無ければ帰ります」
調子が狂う。
「あるから呼んだ。
悪いね、つい説教みたくなってしまった。
歳は取りたくないもんだ、さて立ち話もなんだしそこの店でも入ろう。
なに、おごりだ。
君も私から色々聞きたいから着いてきたんだろ?」
僕とヒメヒナさんは高そうな飲食店へと入った。
顔パスなのか、三階の個室へと通され、そこには料理が既に並べられていた。
メイド姿の女性が礼をして部屋から出て行く。
「本当はコース料理で順番に出すのだけど、無理行って全部最初に持ってきてもらった。
遠慮は要らない、好きに食べたまえ」
「話をしたい、オーフェンは無事? それになぜ、フローレンスお嬢様を」
「早漏は嫌われるぞ、だからといって遅漏もどうかとはおもうが」
「そういう事を……」
まぁまぁといいながら、椅子にすわるヒナヒメさん。
立っているのも変な感じなので僕も座った。
「所で、今日は黒篭手をもっているんだね、おかけで見つけやすかったよ」
「!!」
外し忘れていた。
というか、オオヒナの警告もなかった。
「私が君に言う案は簡単な事だ。
その篭手を売らないか?」
「これを……?」
「ああ、君が持っていても使い道はないだろう。
その篭手は私の師が作った失敗作でね」
ヒメヒナさんの目が僕を真っ直ぐみている。
「それは人が使っていい道具ではない、言い値で買い取ろう。
とはいっても国家予算を超えると困る、せいぜいこの町が一つ買える分ぐらいは出そう」
な……。
この町が買えるって、商業都市。
その町は広く、とてもじゃないけど全部は周りきれていない。それを一つ丸々買える金額ってとんでもない事だ。
「正直桁が多すぎて……。この篭手はそんなに大事なんですか?」
「この国はどう思う?」
「え? いい国と思いますよ……?」
突然言われて、思った事を言う。
「ありがとう、師も喜ぶと思う。
この世界もゆっくりであるけど文明レベルが上がってきている。
知っているかい? 別の国では魔力に頼らず鉄道の試作機もあるんだよ」
鉄道? なんだが歩くと痛そうな道だ。
鉄が敷き詰められているのかな。
「文明の進歩には大きな事故が良くおきる。
私が開発中の道具と、その黒篭手があれば防ぐ事が出来るんだ」
なんともいえない。
僕自身が過去の悲劇を無かった事して使ったからだ。
でも、何か引っかかる……。




