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51 擬似一家だんらん

 夕暮れになり、僕は母屋と呼ばれる場所で食器を並べていた。

 台所では、フランが包丁をリズムカルに動かしている。


「ただいまー」

「ママただいまー」

「おなか減ったー」


 玄関から三人の声が重なる。

 三人というのは、オーフェン、トモ、ミアだ。


「三人とももうすぐさかえ」

「フラン姐の手料理が食べえるとはっ!」

「よくいうわえ、今までも散々食べたやろ」


 僕としては、直ぐに話を聞きたかったけど、ボロボロの小屋で話す事でもないえと、フランが呟く。

 壊れた小屋は、オーフェンとトモミア兄妹が直す事になった。

 その間に僕らは食事の用意をしていたのだ。


「さて、たべようかえ」


 フランは、大きい鉄鍋をテーブルへと置く。

 鍋である、乾燥した昆布で出しを取り、肉や野菜を入れたやつである。

 いただきますと、四人が言う。

 僕だけ言わないのも変なので、一つ遅れてからいただきますを、言う。


「トモ、肉ばかりじゃなくて野菜をたべえ。

 ミアは食べれるだけでいいですえ。

 オーフェン、あんたは食べたら鍋に具をいれなしい。

 ヴェルえ、あんさんははやく食べえし」

「そうだぞ、フランの手料理なんて金を払っても言いぐあいだ」

「そなえ? じゃ、オーフェンだけ金貨三十枚置いていってなえ」

「なっ、高級店の日替わりでさえ金貨二枚……」

「さっきの慰謝料込みやで、イヤなら――」

「わかりました」


 別に僕は食べてないわけじゃなく、勢いにまけてる感じである。


「で、ヴェルといったっけ。

 知りたいのはいいだけどよ、なんていうか仕事の話で……」

「かまいまへんえ、しゃべりーさえ」

「ふーん……、まぁフラン姐が言うなら。

 神具ってわかるか? 村にあったらしくてな。

 帝国の上の奴が欲しがっていてなぁ……。

 とはいえ、王国だろ? 一応協定もあるしな……村にいったのは強硬派だ」


 やはり帝国が発端だったのか……。

 でも、なぜ。

 いや、わかりきっている、この篭手の力だろう。


「作戦は失敗したんですよね、だって……」


 僕が【偶然に】フェイシモ村周辺で怪しい集団を見つけた。

 突然に襲われ撃退したものの、村の人間に捕まった。

 そして、聖騎士に疑われ討伐されそうになった所、川へと落ちたと、説明した。

 力に関しては、数日前から突然目覚めたと言っておいた。

 これは王国内でもたまにあるらしいのを聞いた事がある。


 僕が祭具をつけているなどは言わない。


「はああああああああ、よく生きていたな。

 お前の戦った奴は不動のジンと言って、帝国でもトップクラスだぞ」

「どうも……。

 で、過程はどうあれ撤退したはずです」

「いやな、別な命令を受けたらしく箱と箱をあける娘をさらって行った」

「ごめん、もう一度」

「いやだからな……」


 箱を開けると娘というとフローレンスお嬢様しかありえない。

 たしかに、最初の時も封印をあけるのは血筋の者と知っていた。


「なんだ、知り合いか」

「そうですね……、おそらく家族同様に接してくれた人と思います」

「そうか……、悪かったな変な話を聞かせて。

 でもまぁ、王国の事は忘れるんだな。

 帝国はいいぞう、そりゃ悪い所もあるが自由がある」

「そのさらわれた少女はどうなるでしょうか」

「どうって……」

「殺されるとかは」


 色々知ってはいそうなオーフェンだけど、その眼はフランを見ている。

 喋っていいのか判断しているのだろう。


「フラン、教えてくれないかな」

「そうやねえ、殺される事はないんやないえ。

 顔無しが褒美で貰うとかとおもうんやけど」

「顔無し……?」


 かおなしー、かおなしーと、ミアとトモが口をそろえて言う。

 オーフェンが、トモの頭を撫でると教えてくれた。


「顔無しってのは、最近現れた新参者よ。

 口元以外をマスクで隠した男だな。

 名前は無しで、顔を隠しているから顔無しでも呼べばいいと、言う変な男の事だ。

 顔隠しているくせに人気なんだよ」

「直ぐに助けないとっ!」


 僕は立ち上がろうとすると、フランに止められた。


「ジンにすらかてへえんのに?」

「うっ……」

「その顔無しは、ジンにすら勝った事あるっていわれてるねえ。

 ま、帝都までは安全や、ここにいる誰かと違ってジンは女には興味ないし、部下も徹底してるさかいえ」

「ちょ、フラン姐。

 それじゃ俺が安全じゃないみたいな」

「何時だったが、護衛しにいった少女が、もう離れたくありません! ってオーフェンにしがみ付いた事なかったかえ?」

「いや、あれは……あの子が夜寂しいって言うから」

「ほうほう、その前の子は」

「ええっと、夜が怖いって言うから、寂しくないように」


 やっぱり最低な男である。


「おい、ヴェルっていったな。

 わかるだろ? 震えている子が居たらそっと肩を、後は自然な流れで」

「すみません、わかりません」

「ま、馬鹿はほうっておいてなえ。

 万が一助けに行くなら帝都に着く時がええやろうね」


 だったら早いほうがいいだろう。

 本当は直ぐにでも駆け出したいけど、まだ走る事もままならない。


「さてあらかた食べ終わったし今日はもうお開きにしよかー」


 気づくと鍋の中は殆ど空でトモとミアもごちそうさまをしていた。

 外は既に暗くなっている。


「ママ、トイレ行ってくる」

「ミアもー」

「はいはい、きーつけてえ。

 オーフェン町まで行って、この手紙出してきい。

 ついでに手紙受け取ってきいえ」

「ういー。

 おいヴェルっ! 直ぐに戻るからフラン姐に手を出すんじゃないぞっ!」

「だしません」

「ウチが出していたらどうするんえ?」

「それはそれで、覗こうかなって、最近ネトラレってのに興味が……。

 ちょフラン姐鍋を振りますのは怖い、行って来ますっ!」


 母屋には二人きりになった。

 フランは後姿だけで食べ終わった食器を手早く片付けていた。

 ここ数日疑問に思っていた事を口に出して聞いてみる。


「なぜ僕にこんなに親切なんですか……」

「いやかえ」

「普通は放置しますよね」

「あんさんの意識が戻る前に、何人かの名前を言っていてねえ。

 今度は助けるってさかえ。

 自分が死にかけてるのに、変った人やえとおもってなあ。

 気まぐれさかい」


 う、変なのを聞かれたか。

 少し恥ずかしい。

 

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