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46 追うものと追われるもの

 村の外れまで連れて行かれた。

 ここで少し待つわよと、言われ、僕といえば二人に挟まれたままで立っている。

 黒篭手は返しそびれたし、色々オオヒナに聞きたい事もあるので僕が左腕につけている。


「あの、マリエル……さん」

「なーに? 少年」

「なぜ少年という呼び方なんでしょう? 自己紹介は忘れましたけどヴェルと言います」


 マリエルに聞いてみた。

 自己紹介はしそびれた、けどこっちの名前は知らないわけじゃないだろうし、ファーは僕の名前を知っている。


「んー、今後の事を考えると、少年と接点少ないほうが良かっただけ。

 ごめんなさいね、で。ヴェルは私達に何かいう事ある?」

「えっ?」


 もちろん沢山ある。

 カーヴェの町での出来事や、聖騎士の力を中和する毒など。

 でも信じるのか?。 


 考えていると、アルマ村長が松明片手に歩いてくるのが見えた。

 他には見当たらない。

 僕の側へとくると、いきなり謝りだす。


「ヴェル……すまなかった」

「あの、何のことで――」


 隣にいるファーが説明してくれる。


「私はマリエル隊長の指示で、ヴェルさんが始末した人達を川へ潜って調べました」

「ごめんって潜らせて。

 それに夏だからそんなに寒く無かったでしょ」

「ええ、まぁ……」


 途中でマリエルがファーに謝っている。

 終わった所でファーが更に喋り続けた。


「そして、調べた所。

 殺された人間は盗賊の部類と判明しました。

 ヴェルさんは相手が普通の人じゃないと知っていましたね」


 どきりとする一言である。

 確かに知っていた。

 

「ええっと、突然襲われて。

 ただ、村に入れては駄目と思って」


 僕自身、歯切れの悪い返事をするしかない。


「ワシらはヴェルをただの人殺しと言ってしまった。

 それに対する謝りだ、不当に理由も聞かず捕まえてしまって、せめて理由をっ言ってくれれば」

「いえ、いいんです。

 同じ村に殺人者が居ればこうなるのは当然ですし、僕もそうします。

 理由はあれ……殺した事実は変わりませんから」

「で少年。

 頭の良さそうな少年ならこの結果がわかると思うんだけど」


 マリエルが僕に向い微笑む。

 なるほど……。

 村長は小さな鞄を持っている、その一つを僕へとつき出す。


「国外、いえ。

 この場合は村を追放ですか」

「すまんヴェル。

 聖騎士様達と他の村民とも話し合った結果、ヴェルは村を守ってくれた英雄であるが、他の人間を殺したのも事実。

 怖いと思うのが普通なんだ……。

 一人で動くのでは無く、せめて直ぐに訳を言ってくれれば」


 確かに僕は何でも一人で行動する癖があるかもしれない。


「いや、今更言っても遅いな。

 この決定はワシ個人での決定ではない、娘や理由をしったクルースなどは村に残れるように説得をしたが……、おそらく今でも説得しようとしてるはずだ」

「いえ、お気持ちだけで大丈夫です」


 鞄を受け取るとずっしりと重い。

 手切れ金って所か。


 アルマ村長がもう一度謝る。

 僕が村を追放、僕の事を家族として接してくれた村長夫妻やフローレンスお嬢様が生きているならそれでいい。

 本気でそう思える、あとはマリエル達の事だけだ。

 タチアナがどこかで別れるだろうし、直ぐに手紙かな。


「タチアナの町までは私達が護衛します、村長さんも、もういいかな」

「わかりました。

 ヴェル、直ぐには無理かも知れん、落ち着いたら手紙をよこすんだ。

 なるべく早く戻ってくれるように手配しよう」

「ありがとうございます」


 まぁまず戻ってこれるなんて、ないだろう。

 僕は手を握り合いその手を離す。

 数歩先に歩くファーを追うように歩くと、最後にマリエルも歩き出した。

 以前は馬で通った道をゆっくりと歩く。ふいにマリエルが不満な声で喋り始める。


「あーあー今回も、此処のお祭り見れなかった……」


 その声に反応するようにファーが振り返りマリエルを見て微笑む。


「あら隊長、ここの祭事は十年置きと聞きました、以前もって事は十年前来た事あるんですか?」

「あるわけないじゃない。

 アレ、そういえばなんで今回もって思ったのかしら……」


 暫くは特に話す事も無く歩く。

 村から離れ、北東にあるタチアナの町までは後半分ぐらいだろう。

 山を切り取った道はでこぼこしていて、馬車は通りにくい。

 左右は森に囲まれていて、東のほうが高くなり、暫く行けば川がありその先は帝国領である。


 ファーが突然立ち止まる。

 自然にマリエルも止まるので、僕も止まらざる終えない。

 休憩だろうか。


「この辺でしょうか隊長」

「そうだね。いやーファーもごめんね。

 毎回イヤな仕事ばかり頼んで」

「何を今更です。

 で今回もやるんですか……」


 何をするのかファーが嫌そうな顔をしている。

 誰にでも微笑むのにマリエルに対しては表情を変えるのをみると、なんだか微笑ましい。


「もちっ、少年……いいや、ヴェルちょっとそこに立ってて貰えるかな」

「はぁ」


 僕の前後を数十人分開けて、マリエルとファーが動き、そして止まる。

 待てと言われたので僕は二人を立って見てるだけだ。


「ヴェルー聞こえるー?」

「聞こえます」

「一応半日まったし、根は悪くないみたいだから色々まったんだけど……」

  

 笑顔だったマリエルが瞳をゆっくりと閉じた、次に開いた時は僕を睨みつける目だった。

 彼女が静かに喋る。


「聖騎士第七部隊隊長マリエル。

 王国に害を成す者を切るっ」


 口上をのべると、真っ直ぐに僕へと走ってくる。

 腰の剣は既に抜かれていた。

 背後からも走ってくる音が聞こえた。

 恐らく、いやファーしかありえない。


 下から切り上げてくる剣を黒篭手で受け流し、背後からくるファーの上から下に切りつける剣をギリギリで回避する。

 剣の軌道をかわされたマリエルの舌打ちが聞こえた。

  

 交差しながら再び距離を取る二人。

 二撃目の構えを取り始める。


「ま、まってくださいっ、なんでっ」


 左右を見て僕は困惑する。

 両手に剣をもち胸元で構えたファーへと向く、何時もの笑顔と違い、その笑みは消えている。


「そっくりお返ししますヴェルさん。

 確かに貴方の殺した相手は盗賊でした、いえ盗賊ではありませんね、持ち物から言うと帝国の者でしょうか。

 死体の状況から傷口や骨の粉砕具合、普通の人には出来ません。

 まるでハグレが仲間を殺したようにも見受けられます」


 言葉を止め真っ直ぐに僕を見て、さらに口を開く。


「不明な点が多すぎるのです。

 せめて素直に喋って貰えれば良かったのですが……。

 ヴェルさんは相手の正体を知っていた、にも関わらず我々には何も話さない。

 残念ですが帝国のスパイとして対処させて頂きます」

「と、言うわけ……。

 恨むならいくら恨んでもいい」


 マリエルが反対側から声をかけると、ファーの静かな声が僕の耳に届く。


「聖騎士第七部隊副隊長ファーランス、本気で行かせて貰います」


 掛け声と共に僕を殺すべく二人が迫ってくる、冗談じゃない僕はとっさに山へと走り出した。

 直ぐ背後から僕を追う、二人の声が響く。

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