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37 人をダメにするホテル

 城下町の中をゆっくりと歩く。

 護身用ナイフ、携帯食料や旅へ道具などを、交渉に交渉を得て格安で仕入れる。

 それでも僕の居た村の物価でいうと数倍はした。

 いくらお見舞金を貰ったとしても、手持ちのお金は適当に遊んで居たら二年ぐらいしか生活できないのがわかった。

 逆に言えば二年は遊んで暮らせる。


「どうするべきか」


 気付くと公園に立っており、そこから遠くに海が見える。

 大小様々な帆が付いており、風を受けて海上を走らせるのだろう。


「いっそ国を捨てるのも、いいかも」


 僕の問いに応える者は居なく、潮風が肌に当った。

 黙って考えていてもお腹はすく。

 軽い食事を取って今日はもう休もうと決めた。

 明日の事は明日考えよう。

 フローレンスお嬢様には、よく先延ばはだめですと、怒っていたけど、そういう時もある。


 メリーアンヌさん、いや女王陛下から頂いた招待状を確認し宿へと向かった。

 五泊六日泊まれるらしく、王都観光をゆっくりしてという心遣いなんだろうけど。

 書かれた地図の場所へと向かう。

 赤レンガで豪華な三階立て、窓は吹き抜けではなく城でも見たことない色ガラスがはめ込まれている窓。

 入り口への小さい階段には赤い布が引かれてる。

 強面の男性が二人立っており一人が僕の顔をみると、やさしい笑みで近づいてくる。


「旦那様、ホテルへご利用でしょうか」


 旦那様と言われる年齢ではないが、これは確認だろう。

 お客なら歓迎する。

 しかし、冷やかしならさっさと帰れの意味。

 鞄から紹介状を取り出し手渡した。

 紹介状と僕を交互にみ、もう一人の男性も近くによって来た。

 二人は頷くと、低姿勢になり僕をエスコートしはじめる。


「「こちらへどうぞ」」


 周りにた数人のギャラリーが僕の事をひそひそと話しているのがわかる。


 そりゃそうだろう。

 何処にでもいるような村人が、場違いの宿に案内されるんだ。

 逆の立場だったら足を止めてみる。


 案内されるままに五階へ案内された。

 なんていうか、五階部分が全部で一室になっているらしく呆れて声が出ない。

 室内に入るとメイド姿の女性が待っており、部屋の説明をしてくれる。

 表情は少なく事務的な女性。

 でも、顔つきはとても綺麗だ。

 

 天幕付きのベッドがある寝室。

 火を使えるキッチン。

 お湯が絶え間なく出る浴室。

 ダーツや、びりやーど? という遊びが出来る遊戯室。

 本がびっしりと並んでいる図書室。

 運動が出来る部屋までも。

 周りの細かい品物も凄い。

 城で見た物より高級そうなじゅうたんや、調度品。


「宿は嬉しいけど此処まで来ると逆に拷問だよ……」

「何か足りない物などはおありでしょうか?」


 メイドさんが僕に聞いてくる。


「ない、全く無い」

「では、欲しい物をお願いします」


 勘違いしたメイドさんがメモを取ろうとしている。


「ちがう、足りない物は全く無いって意味。

 何もかも揃っていて怖い」

「ご要望でしたら、夜のサービスもうけたまわっています」


 メイドさんが、自らのスカートをたくし上げる。

 下着が見えそうで見えない場所まで上げると、微笑み、ゆっくりと下げた。


「プレイルームは、別室になります」

「だ、だいじょうぶっ!」

「では、お食事のご用意をさせてもらいますので。

 途中で気が変るという事もありますので、その時は言っていただけるか。

 もしくは、こちらのピンクの紙を扉へと貼っておいてください。

 人数は一人から五人までご用意できます」


 メイドさんが出て行く。

 色々と考え頭をふった、雑念はダメだ。

 ためしにソファーへ座ってみた。


「沈む、体が沈むっ!」


 やっとの事で抜ける。


「こんな所に五泊六日もいたら、その反動が怖いし、欲望のままに過ごしたら人をダメにする部屋だ。

 ご褒美じゃなくて絶対これ拷問だよ」


 再度そう思う。


 座ってはいけない気がして僕は床に直接座る。

 それですら長い毛のじゅうたんが引かれており肌さわりは最高である。

 室内にノックが響く。

 慌てて開けると、さっきのメイドさんが料理を運んで来る。

 僕が床に座っていた後をみたのだろう、訳を聞いてきた。


「いや、どれもこれも汚したら悪いと思って」

「なるほど、我ホテルのコンセプトは、楽園です」

「はぁ……」


 メイドさんが料理をもって部屋を移動する。

 白いシーツが張られているベッドに料理をぶちまける。

 それ以外にも花瓶や調度品を無造作に叩き壊した。


「なっ!」

「このように汚れたとしても」


 メイドさんが、笛を口にくわえた。


 ピッ。

 ピッ。

 ピッー。

 三回ほど鳴らした。

 直ぐに大勢のメイドさんが部屋へなだれ込んでくると、汚れた部分を全部綺麗にしていった。

 床に引いてある奴は、根こそぎ取替えだ。

 あっという間である。


「ご覧の通り、綺麗になりますのでご安心を。

 それでは料理の説明をさせて頂きます。此方は今朝取れた――」


 何を食べたのかわからない。

 いや、色々あり過ぎてわからないが美味しかったと素直な感想を伝えると、メイドは深くお辞儀をする。


「いや、そこまでしなくても」

「いいえ、私はメイドとして、いえホテルのメイドマスターという仕事に誇りを持っています。

 ヴェル様が、満足した言葉をおかけになり、ほっとしているのです。

 それでは、失礼します」


 これがマリエルだったら、じゃぁもっと注文つけようかしらと、元気よく返事をしただろう。

 気疲れとはこういう事なのか。

 豪華すぎるベッドに一度寝てみた。

 体が沈み寝付けない。

 いくらお金かかるのか謎な浴室でシャワーだけ浴びて、ソファーで寝る事にした。


 どれぐらいだったのだろう、部屋をノックする音が聞こえた。

 小さな声で、ヴェル様と名前を呼ぶ声で目が覚める。

 扉を隔てた一枚先から僕の名前確認するメイド。


「夜分申し訳ありません、ヴェル様。

 ファーランス様という女性が面会に来ているのですがどの様に致しましょう。

 もし迷惑であれば追い返しますし、ホテルや部屋を変え隠れる事も出来ます」


 僕は急いで扉を開けた。

 驚きもせずに立っているメイドに声をかける。


「会う、その知り合いなんだ」

「畏まりました。

 ではお部屋の中でお待ちをお願いします」


 部屋のランプを付け直し。

 勝手に飲んでいいといわれた保令箱からワインを取り出す。

 用件はわからないがファーの、いや彼女達の顔は見れるのは何だか嬉しい。

 ファーが居るという事はマリエルも近くにいるのだろう。

 部屋がノックされた。


「ヴェルさん、夜分に失礼しますね。

 此方に泊まっているのと聞いたので」


 部屋に入ってくるファーは、片腕を無くし同じく右目は包帯を巻いて僕の知っているファーとは、同じであり別人であった。


「そして、最後の別れとなります」


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