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33 篭手の管理人と、まっすぐな質問

 ヒバリが僕に詰め寄ってくる。

 自分のした事に気付き、その怒りが何故か僕に来る。


「うお、テーブルがっ! これもそれもお主のせいじゃぞっ!」


 助けを求めメリーアンヌさんに、目で訴える。

 優雅にこーひーを飲みながら口を開いた。


「ヴェルさんが持ってきた黒い篭手。

 それは、ヒバリ様が何百年も探していた篭手なのです」

「そんな、何百年ってとてもそんな年齢に……」

「メリーアンヌ、そうなんでも言うのはお主の悪い癖じゃ」

「ヴェルさんは、篭手のせいで村を滅ぼされています。

 知る権利はありますわ」


 二人ともお互いに顔を見詰め合っている。

 はぁ、まったくと、言うとヒバリが折れた。


「信じるも信じないのも勝手じゃ。

 質問も受け付けん。

 わがはいは、人間ではない」


 何となくわかっていた。

 オオヒナと瓜二つの人間がそう何人も居ても困る。

 とはいえ、半分は信じられない。

 どこからどう見ても人間だ。

 ただ、姿形がオオヒナと同じすぎて残り半分は納得してるだけ。


「なんじゃ、あんまり驚かんの」

「十分驚いています」

「その顔は信じてないのう。

 まぁええ、わがはいの命令は、篭手の管理。

 この篭手だけは危険すぎるからの、封印しておきたい。

 それだけの事じゃ」

「危険だったら聖騎士の篭手も危険なんじゃ」

「ふん、自分でいうと悲しくなるのじゃが。

 わがはいのは所詮は模造品じゃ、危険度が違う。

 そうじゃな……」


 ヒバリは、壊れたテーブルに手をあてる。

 よく見たらヒバリの両腕にも篭手が対になって付いていた。

 はああああああっと、気合をいれると、元テーブルに向けて拳を振るう。

 テーブルがさらに粉砕された。

 よく見るとヒバリの腕にも、白い篭手が付いていた。


「すごいですね」


 僕が褒めると、嬉しそうだ。


「そうじゃろ、そうじゃろ。

 でもな、この黒篭手は、今の事を無かった事にする」


 無かった事。

 オオヒナも言っていた。

 傷を無かった事にする、疲れを無かった事にするなど……。


「ま、お主にはもう関係ない、忘れる事じゃな。

 お主が何故珈琲を知っているか、もう別に問わんのじゃ、面倒になってきた。

 黒篭手がこっちにある以上関係あるまいのじゃ」


 唐突にメリーアンヌさんが僕の服見て話し出す。


「あら、ヴェルさんお召し物が汚れてますわね」

「え?」


 僕は衣服をみた。

 先ほど吐いたモノが、服の一部に付いている。

 どうすればいいだろう……。

 着替えは無い。

 着替えを下さいってのは、あつかましい。

 でも、着替えないですっていうのも、汚い話である。


「あー、すみません。

 洗い場などあれば貸して頂けないでしょうか」

「ヴェルさんはその服に思い出はありますか?」


 メリーアンヌさんが微笑んでくる。

 思い出……。

 服そのものに思い入れは無い、黙って首を振る。


「では、新しい服がありますので。

 ヒバリ様、ご案内をよろしいでしょうか?」

「なぜ、わがはいなのじゃ」

「腰が痛くて……」


 メリーアンヌさんは腰をさすって、ニコニコと微笑む。

 年配の人が使う伝家の宝刀だ。

 これを言われると元気な人間は動かなくてはいけない。


「はー、こっちだ、着いてくるのじゃ」


 僕はヒバリと一緒に廊下に出る。

 廊下には誰も居なく、そのまま暫く引きずられ小さな部屋へと押し込まれた。


「その辺にある奴を全部使え、下着もついでに変えとけ」

 

 そういい残すと部屋から出て行くヒバリ。

 上着を脱ぎ、ズボンを脱ぐ、下着も変えていいという事なのでパンツを下げる。

 直ぐに扉が開いた。

 ヒバリが、裸の僕を見て一瞬固まる。

 一部分を見て鼻をフンと鳴らすと用件を述べてきた。


「汚い服は捨てるから、そのカゴに入れとけ」


 もう一度扉がしまり僕一人になる。

 行き場のない怒りが一瞬湧き起こるけど、静かに深呼吸をして押さえた。

 部屋には衣服のほかに、洗面台もあった。

 大きなタルが半分になっており水が絶え間なく流れている。

 流れた水はさらに別の場所へと流れていた。


 汚い服を、言われたとおりに隅の箱へと押し込む。

 口の中をゆすぎ、顔を洗った。

 頭がだいぶすっきりしてきた。

 オオヒナと一緒で、横柄であるけど面倒見はいい。

 着替えをし、廊下にでると、ヒバリは居なかった。

 静まり返った城内の中、僕は元の部屋へと戻る。

 

 室内には珈琲の匂いが充満していた。

 テーブルも取り替えたのか、新しいのが配置されていた。

 ヒバリはテーブルを黙って指を差す。

 こーひーが三つあり座れという合図だ。

 席に座り、少し飲む。

 今度はミルクと砂糖をいれてあるので甘みが感じられた。


「さて、篭手の回収は終わった。

 わがはいは戻る」

「わたくしは、ヴェルさんともう少しお話を」

「歳を考えろ、ばあさんになってまで男あさりか?」

「いいじゃありませんか、たまには若い精を取らないと、未亡人なんですし」

「はぁ、好きにしろ」


 ヒバリは部屋から出て行った。

 いや、ちょっと。

 男あさりって、これは誘われているのか……。

 違う、襲われるのかっ!?。

 メリーアンヌさんの見た目は五十代、顔は綺麗な人だし、国でもそこそこ偉い人と紹介されていた。


「あらあら、そう緊張しなくても冗談ですわ」

「ですよね……」

「そう、ほっとされると、悔しいんですけど」

「す、すみませんっ」


 反射的に謝る。


「年寄りの話し相手ですわ。

 明日は、堅苦しいですが謁見があります。

 そこで、お見舞金の話がありますので受け取ってくださいね。

 ヒバリ様は何も言いませんでしたけど、あの篭手は過去を変えると聞いています。

 ヴェルさん。

 ヴェルさんは、変えたい過去がおありですか?」


 部屋の扉が、大きな音を立てて開けられた。

 ヒバリが苦虫を潰した顔で立っている。


「メリーアンヌっ」

「あら、お戻りになったのかと、聞き耳はいけませんわ」

「年寄りのお主が、腰がやられたら、おぶってやろうかとおもってのう」


 メリーアンヌさんは、僕を見る。

 質問の答えは? と問いかけだ。

 変えたい過去、過去があるから今の僕がいるとしても、やっぱり――。


「そうですね。

 やっぱりあると思います」

「変えてどうするのじゃ。

 己が満足する結果が出るまで何度でもやり直すのじゃ? 

 途中で捨てられた世界はどうなるのじゃ」


 ヒバリが僕に怒鳴る。


「わかりません、それでも。

 それでも、変えたい過去というのはあると思います」

「…………、もう会う事もあるまい。

 お主が篭手に選ばれなくて心底よかったと思うのじゃ」


 部屋の扉を強引に閉めると、足音が遠ざかっていく。

 今度こそ戻ったらしい。

 メリーアンヌさんが、あらあらと微笑んでいる、その微笑を見ると少しだけ心が落ち着く。

 

「怒られたわねー、ごめんなさいね私が変な事を聞いたばかりに。

 ヒバリ様はああ言っているけど、ヒバリ様も変えたい過去はあるのよ。

 でも、人間じゃないヒバリ様は篭手の模造品は作れても篭手には選ばれない。

 あまり悪く思わないでね」

「はあ……」

「私はヴェルさんの意見は好きよ。

 それじゃお休みなさい、又明日お見舞金を渡す時に会いましょうね」


 僕の頭を優しく数回なでると、扉から出て行った。

 部屋には僕のこーひーしか置いてなかった。

 一口飲み、備え付けのベッドへと転がる。

 戻りたい過去か、僕の場合はやはりフローレンスお嬢様達だろう。

 マリエル達との接点は完全になくなるけど、元から僕とマリエルじゃ、釣り合いなんて取れない。


 結局、篭手の中でオオヒナと会った事は、誰にも喋らなかった。

 今の二人なら信じただろうし、何か知っていたかもしれない。

 でも、いまさら話す気にはならなく、僕は体を横に向けた。

 目の前には石壁がある、マリエルは今頃何をしているだろうか、僕は考えないようにして薄い毛布に包まった。

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