29 アクセサリー屋『フェアリー&フェアリー』の店員さん
今日も元気に挨拶をする、アクセサリー屋『フェアリー&フェアリー』へようこそと。
カーヴェの町のアクセサリーショップ、フェアリー&フェアリー。
そこで働く私も可愛い妖精ちゃん。
男店長が、三十路にもなって何言っているんだって顔してるけど、いいだろ、ボケ!
それに三十路になったのは昨日!
心はまだ二十代ですしっ!
無理にでもテンション上げないと休み明けは辛いのは、察して。
カランカランとベルの音。
お客様がいらっしゃったかな。
おおっとお、黒髪で可愛らしい少年じゃない。
キョロキョロと店内を見回してますね、おねーちゃんにお任せよ。
「フェアリー&フェアリーへようこそ。
贈り物ですね、当店にお任せくださいっ」
「どうも、あの。贈り物をしたいんですけど……」
「お客様、お相手様はどんな人ですが、こちらは永遠の愛をテーマにしたピアス。
あちらには、絶対に割れない黒曜石の原石がありますわ」
本当は割れる。
強い衝撃を与えたら特にだ。
ってか、先週掃除中に割ってしまって給料から保障した。
ごめんね弟のロラン、おねーちゃんまだまだ家を出れそうにないよ。
だから、来月もねーちゃんに小遣いをくれ。
「いや、そういう恋人に送る物じゃなくて」
「これから恋をささやく相手ですが、でしたら――――」
「ご、ごめん。
そういう相手でもないんだ。
えーっと、仕事上お世話になった人たちへの贈り物って事で」
なるほど、だったらアクセサリーは重たい。
私だって、取引先で挨拶程度の男性から、黒曜石の贈り物なんて貰った日には、半分に割って叩き返すわね。
悪いけど、あなたとの愛は簡単に割れるのよって。
食べ物もいいと思うけど、好みもあるでしょうし、ここは食べ物ショップではない、となると……。
「人数と予算のほうを聞いても宜しいでしょうか」
「人数は十二……、いや十三人分。
予算はこういう店は初めてで、足りるかな」
あれ、よく見たらこの子、篭手してるわね。
聖騎士が来るって噂もあったし聖騎士の人なのかな。
それに、手渡してくれた袋も重いわね。
この若さでこの稼ぎ、お客じゃなかったら唾付けたい所だわ。
やっぱり、お金は沢山入ってる……。
「そうですね、ご予算的には十分すぎるかと。
でしたらハンカチなどはどうでしょうか、当店のハンカチは全て特注。
最高品質でご用意させて頂いています」
「じゃぁそれで」
よっしゃっ!
店長みてる、おおっと、見てるわね。
これで私の今月のノルマは、余裕で達成よ。
でも、もうすこし情報がほしいわね……。
「お客様、出来れば送りたい相手のご年齢などはわかりますでしょうか?」
「年齢……」
「はい、若い人向けや、熟女の方、貴族の相手など、お勧めが違います」
「そう……ですね……。
大体が僕と同じぐらいが、少し上ぐらいです。
十代前半から二十代後半ぐらいでしょうか。
そこまで地位の高い人ではないです」
派手じゃないほうがいいわね。
赤かピンクか……、いや、ここは金の糸で細工されたシルクのハンカチがいいかな。
値段はそこそこするけど、この子が持ってきた予算ならお釣りも来る。
「では、白いハンカチがいいですね。
こちらでいいでしょうか」
私はサンプル品を少年へと見せる。
実用性もあり、もらっても邪魔にはならない。
「なるほど、良いと思います。
ではこれで」
「では贈り物ように包装してまいりますので、店内でお待ちしてください」
小走りでカウンターの裏へと回る。
話だけを聞いていたのか、店長が既に無地の白いハンカチを包装しはじめていた。
しかし、そっちじゃないんだなあ。
「店長ー、そっちじゃなくて金細工のほうあります?」
「おまえ……、そっちを勧めたのか? 高いぞ」
「そりゃだって、予算あったし」
「まぁいいけど」
普通の白いハンカチもそこそこの値段がするけど、金細工のほうが数倍も値段違う。
ハンカチとはいえ十三枚となると、高い。
「お前も、このハンカチ一枚持っていたよな」
「そういえば、あったような……、あれ、なんでだろ」
「一応俺が入社祝いに贈った奴なんだけど」
「そうでしたっけ?」
「ああ、所で誕生日来たんだよな」
店長はハンカチを数えながら丁寧に箱に詰めていく。
「おかげさまで三十になりましたよー。
店長は?」
「ん、三十二になる」
「うわ、おっさんですね」
「まぁな」
なんだろ、店長の歯切れが悪いな。
お客取られたからか、たまにはいいじゃないの。
よし、十三個出来た。
数をもう一度数えなおす。
大丈夫だ。
全てを袋にいれて、さっきの黒髪のお客様の所へ戻る。
「お待たせしました、数のご確認をお願いします」
「確かに十三個あります。
何から何まですみません」
「いいえ、お客様が居てこそのフェアリー&フェアリーですから。
よければお客様の思い人が現れた時に、次のご来店をお待ちしております」
「はは……、希望に添えるかわりませんか、約束します」
黒髪の少年が帰っていった。
ん、約束。
これで、次回もこの店に来てもらえる可能性がある。
私の名前はその時にでも伝えればいいし、固定顧客のゲットよ。
ん? ちょっとまって。
今日売ったのは、金の細工がはいった高級ハンカチ。
そして約束。
『なぁ、俺とお前が三十すぎて独身だったら結婚しないか?』
『冗談でしょ、でも案外いいわね。
じゃぁさこのハンカチ買ってよ』
『お前、ハンカチにしては高すぎないか?』
『婚約指輪の代わりにしては安いけど』
ふるーーーい、記憶がよみがえる。
私より二歳年上の男が、閉店後売り上げの計算をしている時に言った言葉だ。
あの時は二人しか居なかったし、だからこそ、二人とも飲んでたな……。
だから、店長は数日前からソワソワしてたのか。
弟のロラン、おねーちゃんはやっぱり家を出ようと思います。
あんたも早くいい人を見つけるのよ。
さて、問題は店長をどうやって、からかってあげようかね。




