26 疑惑解消と彼女の思い
ジャッカルをちらっと見てから、前を向く。
ファーと視線が合った。
「気になりましたか?」
「ミントが食事係りだったら、逃げようにも逃げれませんしね」
「なるほど、直ぐに捕まりそうです」
「初めて会った時から思っていたのですが、ヴェルさんの何処か変な理由がわかったきがします」
「えっ」
「そうだね」
今度は口数が少ないアデーレが静かに喋る。
「彼に牢を調べさせたら、副隊長の言うとおり普通に調べたよ。
普通の人だったら骸骨など丁寧に調べないからね、周りからちょっと怪しいと話が出ていたのもわかる」
「ちょっと、ファーにアデーレ。
あなた達ヴェルを疑っていたのっ」
「マリエル隊長が、ボンクラですからですよ」
「だーれが、ボンクラよっ!」
ファーは新しいスープをマリエルへ手渡す。
二人の仲だから許される言葉だろう。
マリエルは、スープを受け取ると嬉しそうに食べ始める。
「色々と不思議な点はあったんですけど。
昨夜の盗賊の死体を調べる時も、過去に似た様な事をしてないとわかりませんからね。
マリエル隊長は過去は問わないといいますけど、さすがにと」
「おねーさま、こいつも捕まえましょうっ」
ナナは僕をスプーンで指差す。
「既に捕まえられているんだけど、取り合えずは王都までは確定だし」
「ぷっ、確かにそうね」
「とは言え、あまり嬉しくはないですけど、もし必要なら縛ってもらっても大丈夫です」
今までが特別扱いだったんだし、それが無くなったと思えば多少は納得もする。
マリエルがスプーンを置いて僕を見る。
「ハグレ、盗賊、色々な悪党がいるし過去の所業によるけど。
場合によっては、ここで打ち首。
そう、死ぬ事になっても納得できるの?」
「そうですね、自ら絶ちたいとは思いませんけど、納得はします」
素直な気持ちだ、自ら絶ちたいと思わないのは以前したフローレンスお嬢様との約束。
でも盗賊時代でも、うろ覚えであるけど数人は殺している。
天国などは信じているわけじゃないが、死んでも、フローレンスお嬢様と同じ所にはいけないだろう。
小さい頃から、最後は普通な死に方はないと思っていた。
だからこそ、周りに迷惑をかける前に村を出たかったのかもしれない。
沈黙に耐えれないのかナナが、キョロキョロと慌て始めてる。
「ヴェルは、やっぱ変な子ね」
「よく言われます」
マリエルが腰の剣へ手を伸ばす。
空気が変わった、幸い気付いているのは、ここにいる五人だけ。
斬るつもりなのか、僕の腰にも同じのが付いている。
別に抵抗するきはない。
しいていえば、黒篭手だけが気がかりかなと、良くしてもらった分、もう一度オオヒナへ挨拶ぐらいはしたかった。
「こ、殺しんちゃんですか。
そりゃ、捕まえろとは言いましたけど。
何も無抵抗の人を殺すまではしなくてもそのあの……」
ナナが必死にマリエルに言うも、段々と声が小さくなって行く。
「あら、ナナの希望通りよ。
コーネリアを間接的に殺したかもしれないヴェル。
それ以外にもハグレ並の力や、過去の盗賊案件。
ここで殺せば、今後第七部隊は褒められ安泰よ」
「普通の傷では無理と思うので、一撃で首を飛ばしてくれると助かります」
篭手を指差しマリエルへ伝える。
僕の言葉を聞いて、マリエルが笑いだし、怒り出す。
「やだ、ちょっと。
私が本気で殺すと思ってるのっ」
「聖騎士なら当然かと」
「あーのーねー……」
マリエルが心底がっかりしたような顔になると、ファーが横から喋りかけてくる。
「あのですね、ヴェルさん。
聖騎士の務めは基本、王国の治安維持。
刃向かってくる集団などを殲滅、即ち殺したりもしますし、命を落とす事もありますが『アレ』や」
アレの部分で、ミントに強制的に食事を取らされているジャッカルのほうを一度だけ向いて、顔を戻す。
「ヴェルさんみたいに、特に何もしてこない相手までは罰しません。
それは各町にいる長などに委ねます。
ヴェルさんの場合は委ねるといっても村はもう無いのですし。
その篭手の事もあって色々特殊過ぎますので、改めて疑うような事をしてすみません」
ファーが僕に頭を下げてくるので、慌てて僕も謝る。
「僕の方こそ、紛らわしい事をしていてごめん。
別に隠す積もりも無かったけど、話す事でもなかったかなと」
「ヴェルさんも慌てるのだな」
アデーレが僕を見て一言喋ると、食べ終わったのか食器を焚き火へと投げ込こんだ。
「さて、デザートを探してくる。
隊長も要るだろう」
「ありがと」
「ナナ、隊長の分はナナが探してくれ」
「そうね、ナナお願い」
むふーと興奮すると、ナナが立ち上がる。
「おねーさま、待っていてください。
沢山持ってきますのでっ!」
ナナが全力で走っていく。
アデーレがちらっと僕を見た後に微笑んだような気がした。
二人がゆっくりと輪を離れると、ファーも席を立つ。
「さて、私もミントを止めてきます。
いくらでも食べるからと言って、酒ビンの数が多すぎですし」
ジャッカルをみると、今は三本同時に酒を飲まされている。
あれで溺れなく飲んでいるのだから凄い。
気付いたら、マリエルと二人っきりになっていた。
僕もマリエルも黙ったままだ。
バチバチとスープを温めている焚き火の音だけが小さく聞こえる。
マリエルの手が僕の手さわり、握る。
「ヴェル、あなたは生きるべき」
「え…………」
まだ周りには誰もない。
マリエルの静かな声が耳に届いた。
マリエルの顔を見ると火を見たままだ。
「それって、聖騎士のお願いですか?」
「いいえ、マリエル・アム・ラミューの個人的なお願い」
背後から誰か走ってくる。
「おねーさま、どれを食べますー?」
マリエルは僕の手を離して振り返った。
「あのねー、ナナ。
いくらなんでもそんなに食べれないわよっ。
うわ、もう泣きそうな顔にならない。
わかった、わかったから食べれるだけ食べるからっ」
僕は黙って、マリエルが握ってくれた手を見つめていた。




