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25 大宴会

 どうやら、ジャッカルは殺されずにすむそうだ。

 そう思っていると、ナナが手を上げた。


「マリエル隊長、敵は全て殺すべきです!。

 …………こっちも死者は出ていますっ!」


 一応言葉を選んで話しているっぽい。

 彼女にとってはジャッカルは明確なカタキだ。


「お、なんだ。

 姐さん達の仲間がやられたのか? そいつはご愁傷様だな」

「ば、馬鹿にしてるのっ! あんたらがもふもごごおごもももぐううもも!」


 ナナは、背後にいたアデーレに布で口をふさがれた。

 手足をばたつかせていたが、その内力が抜けたように脱力する。

 何かの薬で、寝かされたのだ。


「えーっと、隊長の姐さん俺何か変な事いったか?」

「さてね。

 じゃ、情報を吐いてもらうわよ。

 もちろん変な事言ったらって奴。

 ここのアタマと大まかな人数、そして逃亡先や作戦指揮、目的などかしらね」

「おいおいおいおい、ずいぶんと多くね?」

「足りないぐらいよ、それともアタナの命ってもっと安いの?」

 

 あ、マリエルがジャッカルを持ち上げた。

 ジャッカルのほうも、満更でもないような顔つきになる。


「俺にそんな価値があるとはな……。

 とはいえすまねえな、そんなに知ってる事はない」


 マリエル達の質問が始まった。

 ジャッカルはその質問に答えていく。

 ここのボスであるカシラは、他の奴から傭兵上がりの噂されている、シンという中年男性だった事。

 横には何時もマスクで顔を隠した副官がいて、その副官が作戦を伝えていた事。

 二人は仲が悪いようにはみえなかった事。

 人数は、荒くれ者や、社会から外れた奴が六十名前後。

 それだけで、かなりの規模だ。

 さすがのマリエル達も驚いた顔をする。


「それだけの人数を食べさせるって、この山だけじゃだめでしょ……」


 嫌な話であるが、それだけの人数であれば小さい誘拐ぐらいじゃ暮らしていけない。

 小さい畑もあったけど、とてもじゃないけど足りない。


「マリエル隊長、この近くの町はカーヴェです。

 もしかしたら……」


 ファーが、マリエルに教えると、マリエルは納得した顔になる。


「なるほどね、カーヴェなら盗賊だろうが、聖騎士だろうが、お金さえあれば食料は簡単に手に入るわね」

「王国であって王国じゃないからな。

 ともあれ、カシラは金だけはあったからな。

 オレ達が襲った奴らの金品も一切受け取らなかった」

「あんたたち、怪しいと思わなかったの……?」


 賊なのに金品を奪わない、逆にどこからか、お金を工面して食料を与える。

 怪しすぎるけど……。


「怪しいと思っても、目の前に餌があったら食いつくのが俺達よ。

 で、見張り組が姐さん方、聖騎士を発見して報告。

 聖騎士討伐作戦を伝えたのもその二人。

 俺は、いやな予感がして途中で腹が痛いっていって戻ってきて隠れた。

 そしたら二人が居なくなった、裏切られたって大勢戻ってきてな、緊急時に使えと言われていた裏道から逃げて言った。

 俺が知っているのはこんなもんだ」

「じゃ、最後にもう一つ。

 なんで、彼方は逃げなかったの?」

「ヒ・ミ・ツ」


 ジャッカルは、最後にハートがつきそうな甘い声を出した。

 マリエルが無言で剣を引き抜くと、ジャッカルの頬をペチペチと叩く。


「ごめんなさいね、私こう見えても我慢強いほうなんだけど……」

「だー、わかった、わかったって言うの。

 別に深い理由はねえんだよ。

 いったろ? 嫌な予感がするって、六年前の盗賊団バロンが壊滅する時も、同じような不吉な予感を感じてな、あの時も襲撃の命令に従う振りして途中で逃げた。

 それだけっちゅうの」


 ジャッカルの言葉に、剣を戻すマリエル。


「最初から素直に話せばいいのに。

 とはいえ、大体はわかったわ、あとは……」


 ミントが手を上げた。

 突然の事で、全員の視線がミントに集まる。


「まりえるたいちょー、ミントお腹減ったのだ。

 空腹じゃ怒りっぽくなるのだ」


 ミントはちらっと頭を動かした、目線の先にはスヤスヤと眠らされているナナが居る。

 そういわれると、昨夜から何も食べていない。

 何人かの隊員がお腹を押さえたりもしている。


「そう……ね……。

 さすっがミント副隊長っ!

 わかったわ、貯蔵庫の報告もあったし、豪華に食べましょう。

 あと使わない物はバンバン壊して燃やす。

 半休な感じで、後は交代で眠って。

 で、ファー悪いけど……」

「はい、わかっています。

 細かい指示は私がしますので」


 ファーが、どんどん命令を飛ばしていく。

 それぞれに大鍋の用意や、貯蔵室から食料の運び出し。

 肉や野菜を切り分け、煮たり焼いたりと、ゆうに三十人前以上の食事が作られていく。

 それでも、まだまだ余っているらしいが、残しておいても腐るだけなので好きなだけ使うとの話だ。

 

「ヴェルー」

「はい?」


 僕はマリエルに呼ばれて振り向く。

 大きな鍋を火にかけている所だ。


「ヴェルはこっちで、野菜切り。

 アデーレはナナを起こして頂戴ー」

「はっ!」


 アデーレがいまだ眠るナナの耳元へ、魔法の言葉を言う。

 ナナ、隊長の手料理が食べれるぞと。

 飛び起きた。

 その勢いに、マリエルもアデーレも一歩下がった。


「どこ、どこですっ!

 おねーさまを美味しく食べれるって」

「私じゃなくて手料理よ」 

「あれ、ここ……」


 状況が読み込めないナナに、マリエルが説明する。

 納得したのか何度も頷いた。


「で、ナナ。

 あんまりヴェルに絡まないように」

「べ、別に絡んでいるわけじゃ……」


 マリエルは無言で微笑むと、ナナは小さく謝る。


「ごめんなさい」

「よろしい。

 ヴェルもこれでいい?」

「え、いや。

 僕は何も気にしてない」


 マリエルは不意に笑う。


「ほんっと変わってるよね。

 まぁいいか、さてジャンジャン食材を切って頂戴。

 調味料も使い放題よっ」


 料理が出来上がり始めた。

 他の場所でも、出来上がりの報告がマリエルの所へ飛んできた。

 スープだけでも七種類、それに飲み物や、動物の丸焼きなどなど、ちょっとしたお祭り規模だ。

 好きなように場所を周り、好きなように食べる。

 僕は少し離れて食べようかと思っていた、そのはずなんだけど……。

 周りには、マリエル、アデーレ、ナナに加えファーが座っている。

 

 マリエルは美味しそうな匂いのスープを、木製の器にいれて手渡してくれた。

 全員に手渡すといただきましょうと、いって口を付け始めた。

 

「あれ、ナナ食べないの?」

「おねーさまがよそってくれたスープ、一生の宝物にしますっ」

「腐るので食べなさい」


 突っ込みを入れられながらも、ナナは食べ始めた。

 一口食べては、さすがおねーさまですと、感動の言葉を口にする。

 味付けは僕がしたんだけど、黙っていたほうがいいだろうな。

 そういえば、あのジャッカルにも食べさせるのだろうかと辺りを探す。

 両手を縛られたジャッカルは口を開き、ミントがその口へとパンを詰め込んでいる。

 そして次は酒ビンを流し込まれていた。


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