23 聖騎士の覚悟
僕は今、木の幹に座って居る。
マリエルとは背中合わせの反対側だ。
手足を広げ大きく開いた場所には、ミントが座っていた。
ミント曰く、こうしないとヴェルにいが勝手に動くのだと、いう事。
野良犬でもないしかってに動かないよと、言いたいが、勝手に動いてここに来たので素直に応じた。
ナナは、マリエルにローブをかけて、その隣にいる。
シンシアは、ぐるぐると僕らの周りを回りながら、辺りを警戒していた。
茂みが音を立てた。
「マリエル隊長お待たせしました」
ファーが、僕らを見つけて声をかけた。
まず、寝ているマリエルを見てほっとしたのだろう。
そして、僕を見て微笑みではなくて少しキツイ顔をする。
「探しました……。
ヴェルさん、彼方は隊員ではないですが、護衛という形で私達が居ます。
勝手に動かれては困ります。
いいですか? 一人の行動が――」
「ヴェルにい怒られてるのだ……」
「別に怒っているわけじゃありません」
ミントが悲しい顔で僕を見る。
木の反対側から声だけが響く。
ナナがおねーさまと、言っているのでマリエルが起きたのだろう。
「はあ~あ。
まぁいいじゃないの、助けに来た相手に、口うるさい事言わないの。
しいて言えば、彼は隊員じゃない。
護衛するべき人間だけど、居なければ居ない様に扱う。
現にファーは、ヴェルが居ないのを気付いたけど、こっちを優先させたんでしょ」
マリエルが欠伸をしながらファーへと注意する。
なるほど、やはり重要であるけど重要ではない。
微妙な立ち位置なのを再確認した。
「それは……、規則的にそうなります。
絶対護衛しろと命令されてませんし。
ごめんなさい、隊長に、ヴェルさん。
少し言い過ぎました」
「いいの、いいの。
で、申し訳ないけど。
ファー、生きているのは、ここに居るのが全員。
コーネリアはあっちに寝かしてるから」
…………。
誰も何も、その後に喋らない。
それでも、少しの沈黙の後にファーが喋った。
「わかりました。
簡易ではありますが、ともらいをしましょう」
「そうね」
上着を着たマリエルは、森の中へ入る。
四角い穴が掘ってあり、中にはコーネリアが横たわっている。
体には血の跡がついたローブがかけられていた。
歪な形であるが四角い穴が二個掘ってあった、薄っすらと見えるその穴の中には青いマントが被せてあった。
十二名になった第七聖騎士団。
マリエルが、コーネリアの上に何かを撒く。
「彼女は、ここに眠る。
規則に従い、種を撒いたわ。
色々思う所があるかもしれないけど。
恨むなら私を恨んでください、以上」
全員が頷くと、マリエルはナナを見た。
「わかった? 誰のせいでもない、私のせい」
「え、あ……、はい……」
はー……。
ナナのあの言葉、聞こえていたのか。
他の隊員達もそれぞれに種を撒き、コーネリアに土をかけていく。
「マリエル隊長」
「ん、なに? ファー」
「騎士になった時から、死は隣り合わせにあります。
いまさら恨むもなにも、マリエル隊長が今更自分を悪役を演じても、そんなに意味はありませんよ」
他の隊員も頷きあっている。
マリエルは、辺りを見回して頭を書く。
「ありがと」
「いいえ。
では、あまり感情にひたる時間もありません。
いくつかの敵側の死体を調べます。
シンシアとナナは、荷物を持つので少し休んでいてください。
ミントは――――」
次々に命令を飛ばしてくる。
最後に僕の顔を見た。
「ヴェルさんは、動かずに居てくれると助かります」
笑みは笑みなんだけど、目が怖い。
とはいえ、自分だけ休んで居るのも気が引けるというか。
「良かったら、僕も死体を調べるのを手伝おうか」
死体だったら、過去の盗賊時代に何度も見た。
それこそ、男女共にだ。
相手が賊であれば、何か判る事があるかもしれない。
何人かの隊員が、僕の顔を見て直ぐにファーから受けた命令に戻る。
僕の言葉を聞いていたマリエルが、呆れた声になった。
「物好きねー、普通の人なら死体なんて見たくもないし触りたくも無い。
なんだったら発狂してもいい環境なのに」
あ……。
その辺の事を考えてなかった。
自分は元盗賊だと言う事は全員が知らないはず。
村長だって村人以外には盗賊に監禁されていた子供として説明している。
「きっと、心が壊れているんでしょう」
苦し紛れの言い訳であり、真実でもある言葉を言う。
「情熱的なのに。
ま、いいわ。
過去は詮索しないであげる、って事でファー」
「わかりました、ではヴェルさんもお願いします」
適当に、誰も見ていない敵の死体へと近寄る。
腕や胸を切られており、誰が斬ったのかわかる。
ズボンのポケットを軽く叩き、中に危険な物が無いか確認しながら裏返しにしてまわる。
銀貨が数枚、小型のナイフや食べかけのパンなどが出て来た。
上半身の上着などを見て、何かマークが無いかなどを調べたりする。
大きな団であれば、ご丁寧に共通のマークがあったりする。
イレズミであったり服に縫い物をしたり、僕が調べている死体には手がかりはない。
あれだけ統制が取れているから、何かありそうではあるんだけどな。
「どの死体もこれといった特徴はないですね」
「えっ」
顔を上げ、声の主を見た。
ファーだ。
松明をもっており、敵の顔を照らす。
手配されている人間か、確認しているんだろう。
何を話していいか戸惑い、傷を凄さをファーへと伝えた。
「これほどの傷を付けれるマリエルが、苦戦する相手」
「二人から聞いたのですが、既にコーネリアは捕まっており、ミント達も手が出せない状況でした。
コーネリアを捕まえていた男は、コーネリアに毒を投与し、毒を直して欲しかったらと聖騎士同士を戦わせる。
ミントもマリエルも反撃はせずに、味方に剣を刺される。
いくら傷が治るからと言っても無茶苦茶です」
なんとも言えない。
「ナナとシンシアは隙を付いて、コーネリアを助けるはずでしたが……。
コーネリアを斬り逃走。
ボロボロになったマリエルは、無理やり走って敵を両断です」
なるほど……。
マリエルらしい、いや、マリエルの全部を知っているわけじゃない。
僕を助けに来た時も、自分の命は投げ捨てても僕を逃がそうとした。
「だから、決してマリエルが弱いとか思わないでくださいね」
「ああ、ごめん。
弱いとは思っていない、ありがとう」
「あのば……ごほん。
マリエルは本当突進的というか、もう少し隊長としての自覚がほしいです」
あの、馬鹿と言おうとしたファーは、笑顔を向けてくる。
「二人は付き合いが長いの?」
「そうですね……。
小さい頃からお互いに知っています。
知らなくて良い事までですね。
例えばマリエルがいくつまでオネショしていたかとか……、知りたいですか?」
なっ。
そんな事僕が聞いてもいいのだろうか。
「はいはい、ヴェルに変な事吹き込まないように」
僕の背後からマリエルの声が聞こえた。
僕は慌てて立ち上がる。
「それに、子供の時よ子供の時。
私の姿が見えて、わざと、ヴェルをからかったんでしょ」
「当たり前です。
今でもしていたら騎士の恥です」
「で、ヴェル」
僕に用事があったのか。
「なんでしょう」
「剣は使えるわよね」
「ある程度は……」
小さな留め具が外れる音が聞こえると革製のベルトを手渡してきた。ベルトには様々な物を引っ掛けられるように穴が空いており、今は一振りの剣が鞘事付いていた。
「はいこれ。
なるべく、守るけど。
一応持っておいて」
「え?」
自分でも間抜けだなと思う声と共に、剣を受け取る。
僕がマリエルのを貰ったら、マリエルはどうするんだ……。
マリエルと、ベルト付きの剣を交互に見る。
「マリエル隊長。
恐らくヴェルさんは、マリエル隊長の装備をもらって、隊長はどうするんだって事を聞いているのと思います」
「あっ、ごめんごめん。
剣もベルトも大きさは違えと支給品だから、流石に剣の予備はもうないから、コーネリアが使っていた奴を持っていくけど。
ベルトの予備ならまだ数本あるわよ」
だったら、素直に貰っておこう。
「本来は護衛は、護衛として守られて欲しいですけど。
賊のアジトを放置するわけには行けませんし、その無茶な単独行動は控えてくださいね」
ファーに釘をさされ、恐縮するしかない。
受け取ったベルト腰に付けるとずっしりと重いのが伝わる。
剣を抜いてみてと言われたので軽く構える。
マリエルが謎の拍手をする。
多少重いけど扱えない事もない、ただし実践で使えるかは置いておこう。
日が開け始めた頃、敵の死体を放置したまま、アジトへと進む事にした。




