22 遅すぎた助け
「ああっ! もうっ!!。
ファー、怪我人の治療と状況の報告、誰がコーネリアを連れ戻して来て」
コーネリアが消えた方向を見ながら、マリエルは叫んだ。
ファーは、マリエルの声に直ぐに反応していた。
「既に動いています。
各自松明の準備中です、怪我が無い者は二人」
二人人の女性が前に出る。
コーネリアの近くに居た、ナナという子と。もう一人の女性の名前はしらないが、移動中は荷物を持っていたのを見ている。
「ナナ、シンシア。
相手もプロです、気をつけて」
「ミントもいくのだっ」
体から白い煙を出しているミントが前に出る。
「わかりました、ミント副隊長、二人のサポートをお願いします。
敵の戦力がわかりません、せんめつよりも情報をお願いします」
三人が、コーネリアより遅れて敵の後を追いかけに行った。
先頭の一人がファーの篭手と自らの篭手を軽く合わせ直ぐに森の中へ消えていった。残った二人もそれに続く。
普段おちゃらけにしているようなマリエルは、今は真剣な眼差しに変わっていた。
他の隊員を守ったのだろう。
腕や足に刺さっている矢を、無理やり引き抜いた。
マリエルの体からも白く煙が上がり始めた。。
「ファー、ごめん。
やっぱ私も、行く」
マリエルが、少しふら付きながらもファーへと顔を向けた。
「ダメですっ!。
第七部隊はマリエルが居て初めて機能する部隊です。
副隊長までの隊員なら代わりは出来ます、でも……」
ガウウウアアアアアアアアアアッ!
森の中に叫び声が聞こえた。
甲高い女性の声であるが、獣のような叫び声。
「今のは……ミント……?。
ごめん、ファー。
私に何かあったら隊長になって隊を頼むわよっ」
マリエルが森へと駆け出した。
それを止め様としたファーは、地面へと膝をつく。
近くにいた別の隊員が、ファーの腕を押さえた。
「ファーランス副隊長、今の戦闘で傷を負った者の治りが遅い」
「ありがとうチナ。
毒ですね……。
敵は私達が聖騎士なのを先に確認した。
対聖騎士の罠でしたね。
傷の治りが遅いのも、その影響でしょう……」
ファーは顔を上げると、周りを確認する。
僕と視線があった。
こんな状況でも、僕を見て微笑む。
その目は、あなたは大丈夫ですよと、聖騎士の義務は守りますからと。
「こんな状況になりごめんなさい、ヴェルさん。
それとコーネリアを助けてくれて代理ですけどお礼を言います。
今は少し立て込んでいるので、テントの中に避難してください」
部外者は、黙って下がっていてくださいと、いう意味もあるのだろう。
落ちている石付きロープや、投げナイフなど、周りからそれを集めて、ファーが先端を調べている。
「微量でありますが、やはりいくつかは毒が塗られています。
混ぜて使い、こちらの油断を誘ったのでしょう。
準備が出来次第、全員で移動します」
準備が出来次第……。
何時できるんだ。
僕は言われた通りに離れて、テントの付近で隊全体をみる。
彼女達はいくら傷が治るからと言っても、まだ治りきっていない隊員もいる。
僕も背中や腕に刺さった矢を無理やりに引き抜く。
激痛が襲い、息が止まりそうなった。
ゆっくりと深呼吸をすると痛みも消えてきた。
黒篭手を触る、傷を最初から無かった事にしたのだろう。
また僕は守られるのか?。
マリエル達を追いかけたい、いやなぜ?。
追いかけてどうする。
『ヴェルってば、本当は感情的な子なのに、感情を押さえようとする。時には、感情のままに動いてもいいともうよ。だからヴェルとわたしで規制事実を――――』
フローレンスお嬢様との思い出がよみがえる。
途中から話が変な方向に行ったまで思い出した。
ファーや隊員は僕の方を向いていない。
今なら黙っていけるんじゃないだろうか、隙を付いて僕は森の中へ走り出した。
自分でも信じられないぐらいの速さで、森の中を走っていく。
草木の匂いに混じって血生臭い匂いが鼻に付く。
敵の死体がいくつも転がっている。
中には、まだ息のある者もいるが、構ってられないし、自業自得だ。
助ける義理はない。
少し開けた所で、マリエルが木の幹へと寄りかかっていた。
その前方には胴を両断された男の死体がある。
「マリエルっ!」
僕の声を聞いて、無理やり立つと剣を構えた。
片手は、腹を押さえており上半身が殆ど裸である。
押さえた手からは血が出ている。
「え、ヴェル……?」
敵じゃないとわかったのか、そのまま尻餅を付く。
「傷がっ」
「ああ、大丈夫、大丈夫よ。
生きてるから、それより何でここに」
何で? と言われると、答えにくい。
心配だから来てはいるけど、マリエルにとって僕は護衛対象。
下手したら逃亡したと思われても仕方がない。
実際、ファーが居る本隊からは逃走になっている。
「僕もよくわかりません」
「ぷっ、なによそれ。
助けに来てくれたのね、ありがと。
ヴェルのそういう所好きよ」
マリエルが小さく笑う。
あまりに自然に言うので僕は耳を疑った。
もう一度聞き返そうと思った時、僕が走ってきた森と反対の方向から、人が出て来た。
「あ、ヴェルにいなのだ……」
僕を見て、無理やり笑顔を作ろうとしているミント。
目が充血している。
他にも、コーネリアの親友のナナと赤毛の女性でありシンシアという隊員が、ミントと共に出て来た。
「まりえるたいちょー、準備出来たのだ」
「ミントありがと。
ヴェル、ファー達は?」
「準備が出来しだい来ると思うけど……。
ごめん、僕だけ何も言わずに先に来た、そのせいで遅れるかもしれない」
「そう」
マリエルは短く返事をすると、力の内声で僕に話す。
「今出来る事は、終わった。
少しだけ寝かせて」
マリエルは傷口を押さえたまま目を閉じる。
お腹の部分からはシューと音を立てて白い煙が立っていた。
「いつまで、おねーさまを見ているんですがっ!
薄汚い目でおねーさまの裸を見ないでください、それ以上見るのでしたら、あなたが何者であろうと首を落とします」
怒鳴られて振り向く。
ナナが、目を充血しながら僕を睨みつけている。
「ごめん、別に裸を見たいとかじゃなくて」
「おねーさまに特別扱いされているからって、勘違いしないでっ!。
今の戦いにも全く役に立たなかったクズの癖に。
そうよ、あんたがついて来たから、やる事が多くなって……。
あんたさえ来なければ、コ、コーネリアも死なないですんだのに……」
ナナが、その場で泣き崩れた。
シンシアが、ナナの背中に手をあてた。
「なっちゃん、泣いたらダメなのだ……。
ヴェルにいのせいじゃないのだ……」
「ミント副隊長。
知ってます、知ってますけど」
ああ、そうか。
コーネリアが、今ここに居ないのに全部終わったというのは……。
そういう事だったんだ。
どこかで、わかっていた事である。
その事実を認識しないようにしていた僕が居た。




