066 自称魔王
「ま……おう?」
魔王――って、あの?
意味不明が一周まわって、逆に冷静になってきた。
いや、違う。
深く、考えるのをやめていた。
目前の相手から情報を掻き集めようと必死になっている本能が、そこに労力を割くのを嫌がったのだ。
「では、次は卿の番だ。名乗るといい」
魔王を名乗る男は、そんな俺の驚きをよそに名を促した。
「……アルマだ。アンタのことは、魔王とでも呼んでおけばいいか?」
「親しい者からは陛下などと呼ばれてはいるが、生憎とそんなキャラではないのでね。好きに呼べばいいさ。ロイとでも、あるいはシオンとでも。なんなら、曙光でも構わんが」
「じゃあ、ロイって呼ばせてもらうぜ」
「いいだろう。気に入った」
そして、自称魔王ロイ・エルシオンは再び踵を返すと、闘技場の入り口へ向かっていく。
「気に入ったぞ、卿。武闘祭が終わるまで、この俺の側にいるといい。飽きさせはせんぞ」
「………」
きっと、いや……多分。
おそらく、あいつもボッチなのだろう。
そんな予感がした。
「――アルマ、あの人……誰?」
「……さあ?」
様子を伺っていたルキウスがやってきて、怪訝な顔でロイの後ろ姿を見送る。
「おかしな人間ね。あなた、やっぱり変人に好かれるみたいよ」
「やだな、僕は変人じゃないよ?」
「——ホモ! デス!! 先輩に近寄らないでください! デス!!」
カティアの言葉を否定したルキウスへ、間髪入れずシャルルがツッコミを入れた。
「あいつ、めちゃくちゃ強いぞ。よくわからないヤツだったが、得体の知れなさで言うと過去一かもしれない」
「ふーん? そんなに強そうなんだぁ? 僕は何も感じなかったけど」
「………」
それの異質さを、理解していないのか?
ルキウスだけでなく、カティアも、シャルルでさえも、
「あーくん。大丈夫、少し尖ってる方がおもしろいわ」
「エルの姐さんは尖りすぎて逆に微妙なキャラ――ぐぐぐッ!!?」
エルメェスも、レイジも、少しクセのある変人に絡まれた程度の認識しか持っていない。
この場で、俺だけがそいつの異質さを感じ取っているようだった。
「よお。変なのに絡まれちまったな」
「あーくん。助けて」
「おいおいおい。おいおいおいおいおい、まだ声かけてねえだろがエルちゃんよぉ」
二日前、エルメェスに壁ドンを極めていたチャラ男のアズレトが葉巻を燻らせながらやってきた。
きょうも、二日前と同じく着崩したスーツの上に外套を羽織っている。
「ま、きょうはよろしく頼むぜ? 互いに頑張ろうや。ンで、賞金をかわいい女の子の店でパーっとやろうぜ? それが礼儀ってもンだろ? わかってくれるよな?」
「い、いや……」
「何を言っているの。あなたみたいな軽薄な男の考えなんて共感できるワケないじゃない」
俺を引き剥がすようにカティアが辛辣にそう言った。
しかし、アズレトはそれもまた良いようで、
「うん。お嬢ちゃんみたいな強気な女の子も俺、大好きよ。全然イケる。むしろこういう女の子って無理やりされるのとか好きそう」
「殺すわよ。仕合の前に」
「ならせめて一発ヤら――」
「殺すわよ」
「……なあ、旦那。よくこんなおっかねえ女と付き合ってられるな。俺、無理」
首筋に剣を突きつけられたアズレトが、震えた声で前言撤回した。
「と、とりあえずさ……中入らない? なんか言いたげだった帝国側の連中も、諦めて中に入っちゃったし。多分、もうそろ時間だよ」
ルキウスの言葉にハッとした俺たちは、周囲を見渡した。
帝国の参加者どころか、さっきまで賑わっていた闘技場周辺に人影がなくなっていた。
代わりに、闘技場内から熱気と歓声が立ち込めている。
「……行こうか」
「不戦敗とか洒落にならねえぜ」
「危なかったわ」
「シャルたちは観客席で応援してるデス! 先輩、カティアさん、がんばってくださいデス!」
「あれ、僕は?」
「俺も俺も」
「死ね、デス」
「「………」」
冷たく、というか嫌悪を溢れんばかりの宣告をいただいた二人は、真顔で俺をみた。
「どういう教育してるの、アルマのハーレム」
「ハーレムじゃあねえし」
「尋常じゃねえ精神だぜ、旦那。バケモノ二匹も飼ってるなんて。エルたんだけが天使か。エルたんしか勝たんわ」
「たんって呼ぶな。顔引きつってるだろ」
こうして、俺たちは闘技場内へと足を踏み入れた。
いよいよ、獣神武闘祭が始まる——
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