表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/75

042 篝火/魔人①

「美味しくいただいてください。さいっこうに甘々なデザートを」



 恍惚と嗤うシャルル。

 円形に切り抜かれ、落下し続ける地面は底知れず――既に三〇階層は下に落ちていた。

 


 どこに向かっている?

 わからない。だが、最下層は近い。

 それを証明するかのように、視線()が――迸る闘気の螺旋が、身を焦がす。



「―――」



 俺たちがこれから向かう先に、このダンジョンの主がいる。

 シャルルはデザートといった。

 極上のデザート。

 ならば、それは必然として、最強の――俺に見合うに値する強敵に他ならない。



 シャルルは俺に与えてくれているのだ。

 超新星にも劣らぬ神々しい愛を呪いへと変えて。

 


「――ははッ」



 下層へ近づくにつれて、全身の毛穴に針を穿たれていくような威圧感(プレッシャー)が増す。

 『剣の迷宮』最終フロアボス、バフォメットの変異種(オルタ)なんかとは比較にならないレベルの気配。

 


 まるでディゼルを前にした時のような――文句のつけどころのない、強者(ツワモノ)であるという()()()




「嬉しいぜ……シャル。こんなに先輩想いの後輩がいてくれて、俺は嬉しいよ」




 湧き出る闘志に比例して、笑みが深くふかく溢れる。



「おまえの呪い(アイ)、全力でぶっ潰()してやる」


「それでこそ先輩デスっ!!」



 微笑み合う俺たちを引き裂かんとする特大の炎威。

 轟く火炎の砲撃が地面を穿ち――四方へ粉砕した。



「――風よ」



 足場を無くし宙へ身を投げ出された俺たち――しかし、エルメェスが瞬時に構築した風系統の魔術が五十メートル下の地面を叩きつけ、跳ね返るように上昇する気流により着地に成功した。



「みんな、怪我は?」


「大丈夫よ。でも――」


「ああ。絶体絶命だ」



 言葉とは裏腹に、表情は喜びに満ち溢れていた。

 それはカティアも同様で、頬をわずかに引き攣らせながらも笑っている。

 


「……やるの? 逃げた方がいいんじゃない?」


「まさか、先輩。ここまで来て逃げるって選択肢、あるワケないじゃあないですか」


「あーくん……一応、説明してあげる」



 メガネの奥でスッと双眸を細めたエルメェス。

 先輩は、目前で悠然とたたずむアレを、知っているようだ。



「フレア・イグニス――――かつて、勇者アムルタートが封印した神霊。最悪の焔。その伊吹で一国を燃やし尽くすと謳われる超火力は、アムルタートの聖剣に匹敵する。……まさか、この地に封印されているとは思わなかった」



 アムルタートが封印、ね。

 討伐ではなくって、封印。

 いい響きじゃあねえか。

 


「つまりはアレだろ? アムルタートが倒せなかったバケモンが今、俺らの目の前にいるってことだろ。最高じゃあねえか」



 シャルルを一瞥する。

 シャルルは、これから起こるであろう戦闘を幻視して、目を潤していた。 

 この中で、誰よりも愉しんでいるのはシャルルで、誰よりもシャルルが興奮していた。



「あーくん、無理よ」


「無理でも嫌でも、俺はやるっていったら退きませんよ。——このアルマ()には、退けない理由がある」



 なんていったって、かわいい後輩からの贈り物だ。

 逃げるわけにはいかないし、彼女には屈しないという証明を魅せ続けなければならない。

 


「それでもダメ。あーくん、あなたは強い。私が見てきた人間の中で、あなたより強い人は見たことがない。でも、アレは……レベルも格も違う。そもそも――神霊とは、人間が戦って勝てる相手じゃないの」



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――。


 そう付け加えたエルメェスの肩をどかして、俺は前に出た。



「先輩、アイツ……どうして俺たちに攻撃を仕掛けてこないと思う?」


「え……?」


「――舐めてるからだよ。俺の方が強いって確信してやがる。俺を見て、真正面から勝てると思い込んでやがるから、堂々と俺たちを待ってるンだ」


「……なら、今のうちにでも――」




「舐められたままで終われねえンだよッ!!」




「……っ!?」


「先輩、アンタもだ。俺を舐めるなよ」


「……あー、くん……」



 そう、ここで終われない。

 アイツが強い? そりゃ見りゃわかるよ。ずっとひしひしと感じていた。

 だからって逃げる? それこそないだろ。

 


「あんなに美味しそうなデザートを前にして、のこのこ逃げるなんてもったいねえ……」



 フレア・イグニス――長身の男を模した黄金の焦熱。

 その歪んだ背景には、地平線を埋め尽くす炎の荒野が幻視()えていた。

 天も地も等しく燃やし焦がす黄金炎。



 いったい、コイツはどれほどの命を燃やしてきたのだろう。


 いったい、コイツはどれほどの猛者を喰らってきたのだろう。

 


 俺は、コイツを相手にどこまで通用するのだろうか。

 かの勇者アムルタートが封印するしかなかったあの神霊を。


 俺は――



「想像するだけで武者振るいがとまらねえ。だから先輩……悪いけど、俺の我儘に付き合ってくれ」


「……ばか」



 エルメェスのちいさな拳が俺の肩を叩いた。

 その反対側からも、拳が打たれる。



「一人でやらせないわ。知ってるでしょう? わたしだって強いヤツには目がないの」



 明確な闘気を瞳に宿らせたカティアが強気に微笑んだ。

 


「招いたシャルが言うのもあれデスけど」



 シャルルが俺の背中に手を置く。

 それが意図することはつまり、この場のどこにも、安全域が存在しないことの証明で。



「こんな燃える状況で、傍観なんてしてやらないデス。先輩に微力ながらもお力を……ってやつデス」



 なんて、白々しくコイツは言い放って。

 だが、三人の想いを打ち砕くように、俺は首を縦に降らなかった。




「アレは俺一人にやらせてください。――三人の相手は、アレじゃない」




 俺の言葉を肯定するかのように、頭上の壁に穴が開いた。

 荒々しく瓦礫を爆ぜさせ、木端も残さず溶かし尽くす岩漿(マグマ)の化身。

 道中、四度に渡って俺たちに喰いついてきた、もはや因縁とも言える魔物。



「アレもどうやら、仲間外れは嫌いなタチらしい」


「イフリート……っ」


『■■■―――ッッ!!!』



 轟々と燃え猛る炎の巨人がフロアに着地し、咆える。

 さながら、イグニスに飼われた愛玩動物のように、あるいは主人を守護する騎士のように。

 フレア・イグニスの二倍はある背丈()をさざなみの如く揺らして、地を蹴った。



 それだけで生じる衝撃に発火という特性を帯びさせて、周囲の瓦礫、空気すらも爆ぜさせ迫る。



「イフリートは任せたぞ」


「……ええ。任されたわ」


「仕方ない」


「先輩、シャルが見てるデスよ」



 振り上げる掌底が、秒瞬まで俺たちがいた地面を叩き潰す。

 四方に散った俺たちは、各々の標的に向かって駆け出した。





「おもしろかった!」


「続きが気になる!」


「早く読みたい!」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いします!


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、どんなものでも泣いて喜びます!


ブックマークもいただけると最高にうれしいです!


何卒、よろしくお願いします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ