表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/75

035 ダンジョン攻略前夜デート②

「こんな風に……デートとしてこの街を歩くなんて、新鮮ね……」



 九時過ぎの目貫通り(メインストリート)を並んで歩く。

 初めて歩くわけではないし、何度も通った道だ。



 けれど、デートという単語を念頭に、ふたりっきりでこうして歩くというのは、初めてのことだった。

 いやに緊張する。

 さっきから手汗が止まらない。



「そ、そうだな……。い、いつもの数倍はかわいく見えるぞ、カティ」


「……口説いてる?」


「そ、率直な感想……です」



 おかしいな。師匠から借りパクした漫画のデート回では、とにかく褒めろと書いてあったはずなんだが……訝しげに睨まれたぞ。



「まあいいわ。……どこがかわいいのか言ってみなさいよ」


「だ、大胆に露出したお腹がとてもかわいいです」


「感想がキモいわ」


「自覚してるわッ!! でも仕方ないだろ、デートは初めてなんだよ……俺」


「……わたしも、初めてよ」


「……」


「……」



 二人して照れながら、あてもなく歩く。

 何もしていなくても楽しいぞ、デート。

 


「つ、続き……どこがかわいいのか、しっかり教えて」


「ほ、欲しがりだな……」


「いいでしょ。こんなこと、あなたにしか言わないわ」


「……っ! ……あー、えと……きょうは化粧してるよな。すっぴんも美少女だけど、きょうはなんか別人みたいで、新鮮だ」


「ほ……褒めてる?」


「精一杯褒めてます……!」



 なんだが周囲の視線がこそばゆい。

 平日の朝からやってんなー、みたいな目線だ。エプロン姿のおばさんたちにもクスクス笑われている。



 気を取り直して、褒め殺す勢いで視線をカティアに定めた。



「か、肩……! 肩から胸にかけて露出してるブラウス……すごいタイプです」


「も、もっとこう、言葉を選びなさいよ。……うれしいけど」


「わ、わかった! ――髪、結ぶと大人っぽくていいな。ポニーテールっていうんだっけ? に、似合ってるよ」


「そ、そう……? ありがとう……っ」



 お? 今の褒め方はいい感じかもしれない。

 カティアも満更でもなさそうに唇を緩ませている。

 この調子で褒め殺してやる!



「丈の短い黒色のパンツも、ゆったりしててさ…………えと、上の服といい感じに合ってるぞ!」


「う、うん……?」


「あー……えー……――靴下! かわいい!」


「……ん?」


「く、靴もかわいい!」


「……」



 俺の語彙力が死んだ。同時に、カティアの穏やかな瞳も死んだ。



「……ふん。まあいいわ。あなたにしては上出来よ」


「お、おう……」



 褒めるのって大変なんだな、ということを初めて知った十九歳の夏。



「……あなたも、カッコいいわ」


「え?」


「スーツ。似合ってる」


「え、あ、あンがと……。し、師匠がさ、デートにはスーツ着て行けって……だから」


「……いい師匠ね。それにセンスもいいわ。紺色のネクタイも上品だし、靴もよく磨かれてる。スーツは皺ひとつないし……全部、あなたが選んだの?」


「い、いや……えと……」



 コーディネート含めて全部店員さんに選んでもらったなんて、そんなの恥ずかしくって言えるワケがない。

 靴を磨いてくれたのもアイロンをかけてくれたのもシャルルだし……。

 俺はただ、スーツを着ただけなのだ。



「じ、実は……俺は……俺は…………クソッ」



 やっぱり言えない……!

 カティアにそんな恥ずかしいこと、言えない……ッ!



「あ、アルマ……!? どうしたのよ、今にも血を吐き出しそうな顔をして……!? す、少し休憩しましょう? そこの喫茶店にでも入りましょうっ」


「す、すまん……」



 地べたに四つん這いとなった俺を起き上がらせ、カティアに肩を組まれた俺は情けなく喫茶店へと入った。

 黙っておこう。

 心苦しいが、俺の矮小な善良心が痛むけれど。

 俺の沽券のために、黙っておこう。





「――あなたに、聞いてみたいことがあったの」



 注文したコーヒーを一口啜ってから、カティアは言った。



「アルマはどうして冒険者になったの?」



 それは、いつの日だったか。俺がカティアに訊いた質問だった。



「俺は……別に崇高な理由なんてないよ。ただ、うまくいけば稼ぎがよくって、自由で、何者にも縛られずに生きていける――だから、当初は勇者パーティに入ったんだ。スカウトされてな」


「勇者パーティを抜けて、今のあなたはどうなの? 普通に働いても手に入らないだけのお金を手に入れて、自由を手に入れて。何か、変わった?」


「変わったよ。色々と。冒険者を続ける理由も増えた。師匠との約束もあるし、それを果たすには冒険者が手っ取り早いとさえ思ってる」


「師を越える……だったわよね?」


「おう。偉大な師だ。生半可な事じゃ果たせないし、今の俺じゃ到底手を伸ばしても届かない頂にいる。そんな師匠を越える」



 いくつ伝説があるのかわからない。

 かの勇者アムルタートを、作り上げた伝説の量でなら上回る……そう自負できるほどに、ディゼルの成した偉業はこの世に溢れている。



「だからもっと強くなりたい。師匠を越えて、俺が最強なんだと胸を張って言いたい。戦うことすらバカらしいと思われるぐらいには、強くなってみたい」



 そんな幼稚で阿呆らしい子ども染みた願望を、カティアは穏やかに笑って否定した。



「それは無理よ。わたしが最強だから。あなたには負けない」



 余裕と自信と、そして慈愛の込められた微笑。

 思わず息を止めて、俺は彼女に魅入っていた。



「あなただけには負けてやらない。もちろん他の誰にも負けるつもりはない。剣を持ったら並び立つ者がいないって、そんな風に後世語り継がれるような剣士になるの」



「俺が……」


「……?」


「俺が、おまえを守るっていうのは……ダメかな?」


 

 無意識に漏れた言葉に、カティアは固まった。

 それから数秒経って、複雑そうに顔をコロコロ変えて。

 最後には、不敵に笑った。



「あなたにはまだ早いわ。まだ守られてあげないんだから――」



 バチン、とカティアの指先が俺の額を優しく弾いた。



「おもしろかった!」


「続きが気になる!」


「早く読みたい!」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いします!


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、どんなものでも泣いて喜びます!


ブックマークもいただけると最高にうれしいです!


何卒、よろしくお願いします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ