025 勧誘⑤
「――あーくんとダンジョン?」
司書に静かにしてくれと睨まれ、逃げるように外へ出た俺たちは、エルメェスに事の経緯を説明した。
「そうです。なんと無職から職持ちにレベルアップ付きですよ、先輩。今こそ、あなたの実力を遺憾なく発揮する時だと俺は思います」
「ふむぅ……じゃあ、婚姻届書く?」
「書きません」
「けち」
「お菓子いる? みたいな軽いノリで書くものじゃないでしょ、それ」
「ふむぅ」
唇をかわいらしく尖らせるエルメェス。
シャルルといい彼女といい、どうしてこう……恋愛方面にもつれるのだろうか。
「わたしは認めないわ。シャルルといい、この人といい……危険なダンジョン下で、安心して背中を預けられない」
不機嫌そうに顔を歪めるカティアの意見に、俺も同意だった。
「シャルル? あの子もいるの?」
「は、はい。先輩は確か仲良かったですよね……?」
そうだったはずだと、半ば祈るように俺は訊いた。
エルメェスは、
「それはちがうよ。利用し合う関係なだけ」
「りよ……え、どういうことですか……?」
「決着が着かなかったから、あの子と。私はただ、生きていくための最低限度のお金を支援してくれればそれでいいから……正妻は譲った」
「すみません、まったく理解できません」
「あなたの愛人。子供を身籠れば、養育費を出してくれる」
「俺の知らないところでそんな話をしてたンですね。率直に言ってドン引きです」
頭に美がつく超有能な女たちなのに、残念過ぎる。
「あーくんはいいの? 私が欲望丸出しの醜男に犯されても。長い時間、積み重ねるように調教されて、快楽堕ちする私を放っておける? きっと数ヶ月後にあられもない姿でダブルピースする私の写真が送られてきても、あなたは後悔しない? 下卑た表情の醜男に『体にわからせ完了』とか『懲らしめ完了』とか言われて見下ろされてる姿を想像して、あーくんは我慢できる?」
「知ってますよ、それ全部先輩の性癖だって」
「とんだ変態女ね。胸焼けがするわ」
「あん」
「無表情で喘がないでください」
*
「――まあ結局、あんな人でも優秀だからパーティに入れるんだけどさ」
「やっぱりもう少し、ギルドで待ってみるべきだと思うわ。あの二人を迎えたとしても、きっとダンジョン内であなたは殺されるわよ」
「おまえも殺されそうだな」
「ないとは言えないわね」
夜。エルメェスと約束をこじつけた俺は、カティアと共に高級海鮮料理の店に来ていた。
一応、先輩も誘ってみたが、
『無職ニートの私が外食していると視線が気になってたべられない』
と言われ断られた。
相当精神的にやられているみたいだった。
「まあ何にせよ、実力は確かだし……俺ががんばって飼い慣らすから。いや、飼い慣らしてみせる」
「もうあの二人の夫気取りかしら?」
「どちらかというとご主人だろ。飼い慣らすって言葉からどうして夫が出てくるんだよ」
「そう。あの二人を奴隷にしたいのね。なら危害を加えられないし、好きに命令できるもの。――それよ」
「名案思いつきました、みたいな感じでドヤるな。苦楽を共にした先輩と後輩を奴隷にして飼い慣らす主人公がどこの世界にいるんだよ」
「あら? この物語の主役はわたしで、それ以外の全員はわたしを際立たせる舞台装置だったわよね?」
「今はそうでも、ダンジョン踏破したら一旦サブに格下げされるぞ?」
……しかし、そうなったら後輩か先輩がメインの話がいずれやってくるということか……?
もしそうなるとしたら、あの二人の中身を良い方向に改ざんしていきたいが……可能だろうか。
「あなた、ストイックですみたいな顔して存外娯楽に耽ってるのね。見る目が変わるわ」
「ついて来られるおまえもだいぶ好きだろ。漫画とか」
それと、漫画を読むのも鍛錬の一つだから。
ただただ時間を浪費しているワケじゃないから。
「村には娯楽が少ないのよ。最近は、滅多にそういうのを読んでいないけれど」
ふと、懐かしそうに目を細めたカティア。
そういえば、カティアは俺とおなじ村人出身だったことを思い出す。
「カティはよ……なんで冒険者になろうと思ったんだ?」
俺の言葉に、カティアは微笑んだ。
明確な意思をその双眸に宿して。
「自分より強い人間がいるなんて許せない――そう思ったからよ」
「おもしろかった!」
「続きが気になる!」
「早く読みたい!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いします!
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、どんなものでも泣いて喜びます!
ブックマークもいただけると最高にうれしいです!
何卒、よろしくお願いします!




