020 募集
後に——
「――えと、はい。そうなんです……その、急に服を脱ぎはじめて、すごい肉体でした。……それから雰囲気っていうか……ギルド内の空気? が一気に変わりまして……そうです。その後にすぐ、あの乱闘が始まったんです」
冒険者ギルド、メラク支部勤務……受付嬢サレン・ショパールは、後にその前代未聞の顛末を、こう語った。
「まさに、武神の再来――圧倒的って、こういうことなんだなぁと……初めて理解りました」
*
「――ん……まあ、いい運動にはなったよ」
荒れ果てた冒険者ギルドの中央で、額の汗を拭った。
久々に大暴れしてスッキリした。
やっぱりストレス解消には運動が一番だ。
「しかし、俺もまだまだだな……圧勝ってワケにはいかなかった」
素のスペックでAランクパーティの連携を捌くには骨が折れた。
付与魔術を使わずに制圧したかったのだが、流石にそうも言っていられず、《剛体強化》・伍段階で対応した。
そこからはもはや、勝負にはならなかったが……大したものだ。俺に、伍段階を使わせたのだから。
ともあれ、俺は心からこいつらを賞賛したい。
勝てないと分かって尚、抗う気概。
それでこそ、俺の追い求める冒険者の理想像だ。
「なかなか骨のある連中もいたし、定期的に行いたいんだが……どうかな?」
「だ……だめですよ、アルマさま……こんなの、最悪ギルドから追放とかもあり得る話で……!」
「そうなったらサレン、おまえも道連れだからな」
「え……?」
「だっておまえ、見てみぬフリしたじゃん」
「ぅぅ……申し訳ございません」
「ダメだね」
「そ、そこをなんとか……!」
「いいよ」
涙目のサレンに手を差し出して、握手。
これでチャラにしてやろう。
「ぅぅぅ……アルマさま、これが友情というヤツなんですね……! サレン、感激です……! サレンは友達が少ないですから……! こういうのは初めてです……ッ」
「俺の周囲の女ってなンで友達少ないンだろうな」
「もしアルマさまが追放されたら、私も一緒に出て行きます……アルマさまの付き人に転職します……!」
大袈裟に俺の手を上下に振るサレンから視線を逸らして、「まあ大丈夫じゃないかな」と呟いた。
「そ、それはどういう……?」
「いやさ、こンだけ大暴れしても、エクセリーヌさん出てこないじゃん」
二階の最奥――そこからうっすらと感じるエクセリーヌさんの妖艶な気配に、俺は寒気を感じた。
「……あのひとが問題ないって判断した結果だ。だから大丈夫。咎められないし、何かあったら俺が守ってやっから」
「――――きゅん」
「なんかあっても土下座すれば…………どうした、サレン。顔がキモイぞ」
「ふぁ!?」
到底、女子がしてはいけないような顔をしていたが……大丈夫だろうか。
「——アルマ。いい加減、服を着なさい」
と、背後から俺の服が飛んできた。
「悪りぃな、カティ」
「タオルも、貸してあげるわ」
「おお、あンがと」
「……喉、乾いてない?」
「いただきます――ていうか、どうした? 至れり尽くせりだな」
妙に優しい態度のカティアが、ツンとした表情でそっぽを向いた。
「いいから……服、着なさいよ。目のやり場に困るの」
「……見てもいいんだぞ? じっくりと、舐め回すように」
「いいわよ、もうじっくり見つめたから」
「……」
「あれぇ? アルマさま、照れてます? もしかしなくとも、照れてますよね?」
下卑た笑みで口角を緩めるサレンが、「ねえ、ねえ」としつこく俺を覗き込んできたので、俺もじっくりサレンのちいさな胸を覗き込んでやった。
「大胸筋鍛えると胸も大きくなるらしいぞ」
「――っ、ち、ちっちゃくないです平均サイズですっ!」
「嫌いじゃないぞ、そういうサイズも」
「み、見下さないでくださいっ! 慰めないでくださいっ!!」
胸を抱いて後退るサレンを、今度は俺が下卑た笑みで見返す。
瞬間、脛に激痛が走った。
「……アルマ」
「な……なんだ? なに怒ってんだ? ていうか、結構本気で蹴ったろ今……ッ」
「……用件、忘れてない?」
「おっと……すっかり忘れてた」
そういえば、ここに来た目的はパーティを募集するためだった。
だからって蹴ることはないと思うんだが……まあかわいいからいいや。
「サレン、パーティメンバーを募集したいんだが、どうすればいい?」
「あ、はい……えと、こちらの用紙に諸々記入いただいて、できましたらこちらの方で貼り出します。もし応募者がいましたら、こちらで仲介させていただく形になりますので、また後日か数時間経って再度お越しください」
「ン、了解」
羊皮紙とペンを借りた俺は、気絶した冒険者の肉体を数回跨いで、カティアの元に戻ってきた。
生き残っていたテーブルと椅子を二つ持ってきて、早速記入する。
「んーと、まずAランク以上で……犯罪歴がなくって……強いヤツっと」
「ねえ、アルマ」
「ん?」
「……ありがとう」
「……何が?」
「わたしのために怒ってくれて。うれしかった」
「さっきまでツンツンしてたくせに、急に素直になりやがって……なんか良いことでもあったか?」
テーブルに肘をついて、穏やかな笑みを浮かべるカティア。
ベースが無愛想の無表情だから、そのわずかな感情の機微が、とても新鮮で……
「なあ……家と宿、どっち派?」
「……? できれば、家を持ちたいと考えているけれど……それが何?」
「いや……俺も、でっかい屋敷建てたいなあって……考えてた。子供がいっぱいいてもいいように」
「……そう。それがなに? もしかして、家持ちってことも条件につける気?」
「まさか。ダンジョン踏破に関係ねえだろ」
「じゃあなんの意図があっての質問なの?」
「……単純に、気になっただけ」
「ふぅん」
納得した様子で、カティアは「じゃあ」と言った。
「アルマはどんな女の子がタイプ?」
「………………」
「アルマ? 聞いてる?」
ああ、こいつ。
やっぱり、女子会感覚で……。
きっと、なんも考えずに、女子ならこういう会話しそうだなとか思って、言ってんだろうな。
「もしかして、アルマは男色?」
「ンなわけあるか」
「じゃあ教えて」
「……強いていうなら」
おまえだよ。なんて、口が裂けても言えなかったから。
「ブロンドで距離感の近い女、かな。あと無愛想」
「ふぅん」
そんな反応で頷いて、カティアは自分の髪を梳いた。
「おもしろかった!」
「続きが気になる!」
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