改修工事2
「これで壊す手間が省けたろう?各施設の建設部隊は明日到着するよう手配してある。では後の事は頼んだぞ」
食堂以外の全ての建物を破壊した魔王様はスッキリした顔をして帰って行った。
後に残された私達は瓦礫の山々を前に呆然と立ち尽くした。
「すげぇな。あれだけ立派な建物が一瞬でなくなっちまった」
「ここだけ戦争がおきたみたいね」
「まあ、破壊は創造の始まりでもある。我々の新しい工房を作ればいい」
私達は食堂に移動して今後の打ち合わせをする事にした。
シヴァがテーブルに図面を広げ、施設の大まかな位置について私達に確認を取った。
「じゃあ、工房の位置と大きさは予定通りでいいな。特にこだわるところはないか?」
「食べ物を扱うから衛生管理をしっかりしたいの。手や材料を洗うのに必要だから水回りの工事を具体的に指示したいし、あと各施設にトイレも整備したい。これだけは絶対ゆずれない」
上下水道の整備について熱く語る私に二人は若干引き気味だった。
「わかった。その辺りは水魔法を得意とする者に指示してくれ。それから明日は魔王様から賜ったローブを着るんだぞ。お前が幹部になった事を知らない者の方が多いからな」
「わかった。住む家はどうするの?」
「離れのあった場所に作る予定だ。ラーソンの家は仕込みの時に一族の助っ人が何人か来るようだから部屋が多く必要だろう。要望があったら言ってくれ」
「俺を入れて6人だ。寝室は一部屋で構わん。二段ベッドが三つ入ればいいさ。ただリビングは広い方がいいな。離れで使ってたソファを使わせてもらいたい。あと洗面所とトイレは二つずつ作ってもらおうか」
「わかった。ミホは何かないか?」
「お風呂を作って欲しい。お湯が出るように出来る?」
「ああ、可能だ。どちらにしろ排水の問題があるから基礎工事の段階で水魔法の得意な者に相談しよう。まずは住居を作って次に工房だ。明日、建設部隊に具体的に指示してくれ」
シヴァは私とラーソンの要望をどんどん聞いてサラサラと簡単な平面図を書いた。
「じゃあ、部屋の配置はこんなものか。ただ強度の問題もあるから専門の建設部隊の意見を聞いて変更する場合もあるからな。他に質問や要望は?」
私は気になってた事があったので手を挙げた。
「はい、先生。そもそも建設部隊って何者ですか?」
「戦闘時において砦や陣地の構築をする者たちの集まりだ。土魔法や水魔法に特化した者が多く仕事も早い。普通なら住居や工房なんか作らないんだが、ここは人間の動向を知る為の戦術的な拠点ということで建設部隊が派遣される事になったんだ。間近で仕事が見られる事なんて滅多にない事だぞ」
(ということは、こちらの世界の匠の技が見られるのか。ラッキー)
物を作る魔法を見た事がなくてワクワクした私にシヴァが一言言った。
「ミホは指示し終わったら離れていろ。危ないからな。工事の間に建設部隊の食事の用意を頼む」
「え〜、せっかく珍しい魔法が見られると思ったのに・・・」
「遊びじゃないぞ。これも大事な仕事だ。建設部隊は魔王軍に属している。直属の部下ではないとはいえ、お前は幹部として配下の者の面倒を見なければならない。お前に出来る事は何だ?」
「・・・食事を提供する事です」
「わかればよろしい」
(そうか。私は魔王軍の幹部になったんだ。という事は、いずれ蓮と戦う事になるの?)
シヴァに指摘されるまで自分が軍に属しているという自覚がなかった私は愕然とした。
(何が役職手当よ。馬鹿じゃないの。なんでこんな当たり前の事に気付かなかったんだろう?)
私の顔色を見て、何を考えたのかシヴァは察知したのだろう。ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でて言った。
「そんな顔をするな。魔王様がここを拠点にしたのは無用な戦闘を避ける為だ。それに考えてみろ。お前の息子の様子もわかるかもしれん。何もしないで心配するよりましだろう?」
シヴァの優しさに思わず泣きそうになった。
「・・・そうね。いつか私の作ったお菓子を蓮が食べてくれるかもしれないわよね。頑張って美味しいお菓子を焼かなくちゃ」
「その意気だ」
シヴァはポンポンと軽く背中を叩いて励ましてくれた。
「さて、とりあえず今日の寝床を確保しなきゃならないな。二人とも手伝ってくれ」
シヴァに促され、私達は離れの外に避難させたソファやベッドの所まで歩いて行った。
「まずはラーソンの方から作る。ベッドの位置を変えるからそっちを持ってくれ」
シヴァはベッドとソファの位置を決めさせると私達に離れるように指示し、自分は家具の中央に両手を広げて立った。
そのまま目を瞑って集中していたシヴァを中心に風が吹きはじめ、近くの瓦礫がふわりと空に浮き始めた。
瓦礫は円を描くようにシヴァと家具の周りに集まったかと思うと見る見るうちに固まっていき、人が一人通れる程の穴の開いたドーム型の建物になった。
シヴァは中から顔を出すととラーソンを呼んだ。
「これで一晩過ごすくらいは大丈夫だろう。ラーソン、入ってみてくれ」
「おお!俺の部屋か!」
ラーソンは嬉しそうにドームの中に入って行った。
「おお!中々いいぞ。ずっとここに住んでもいいくらいだ」
「馬鹿言え。床もなければドアもついてないんだぞ」
シヴァが笑いながら出てきた。
「さて、次は私達の分を作るか」
シヴァの魔法に感動した私は思わず拍手した。
(創造する魔法ってなんて美しいんだろう)
「すごい!さすが統括責任者!!」
「やめろ、役職で呼ぶな!褒められた気がしない」
ドームの中からラーソンの陽気な笑い声が響いた。




