ドルトからの脱出
魔王様は観葉植物と自分の身体で扉を隠すようにして見張っていた。
「ただ今戻りました」
「子供達は全員無事か?」
「はい。体力は衰えているみたいですが、魔力は取り戻せています」
私の後ろから大人しく着いてきた子供達が、魔王様の姿を見て固まった。
子供達の様子を見て魔王様は怪訝そうな顔をした。
「大丈夫、魔王様よ。ここに潜入する為に人間に化けているだけだから」
子供達が固まった理由に思い当たった魔王様は優しく言った。
「ああ、今の私は魔力が認識できないから用心しているんだろう。
人間の中に魔力感知できる者がいるかも知れないから、用心の為に対策をとっているだけだ。
他にもドワーフが一人同行している。朝になったらここから出して家に帰してやるから安心しなさい」
私は扉の鍵を閉めて、観葉植物を元の場所に戻した。
「鍵を元の場所へ返してきます。先に部屋に戻っていて下さい」
「ああ、頼む」
◇◆◇◆◇◆◇◆
私は再びキムの部屋の前に立った。
先程と同じようにノックして声をかけて部屋に入る。
地下室から戻った後なので、きらびやかな家具や調度品で埋め尽くされたこの部屋が別世界のようだった。
けれどこれらは全て子供達を犠牲にして手に入れた物だ。
子供達の涙を金に換えて私腹を肥やしているキムにムカムカと腹が立ち、一刻も早くこの部屋から立ち去りたくなった。
キムは先程と同じ姿勢のまま眠りこけていた。
私はキムの側により、鍵の束を彼のサッシュベルトに押し込んだ。
「お借りした物は確かにお返ししましたよ」
そう言い残して立ち去ろうとした時、キムの書きかけの書類が目に留まった。
「これって、もしかして顧客のスケジュール・・・?」
私はまだこの世界の文字を読み書きできない。けれどシヴァにこちらの世界の数字とアルファベット(?)を教わったので、書類の中に日付と名前らしき物が書かれている事が何となくわかった。
(そうだ。子供達を苦しめたのは他にも沢山いるんだわ)
むしろ、そんな奴らがいたからこそ、キムはあの髪の赤い男に命じて子供達を攫ったんじゃないだろうか。
混血児とはいえ、実の息子に客を取らせている父親の背中を見て育っていたのなら、魔物に対しての思いやりや良心と言った倫理観なんて持ち合わせていないだろう。
今回、子供達を無事に救出する事が出来たとしても、また同じような事が起こらないとも限らない。
どす黒い怒りが沸々と腹の底からわき上がってきた。
(何とかして、こいつらに一矢報いる事は出来ないかしら)
私は頭をフル回転させた。
(この男が一番ダメージを受ける事は何だろう?)
私はさんざん考えた挙げ句、キムの手から慎重に書類を抜き取り、小さく折り畳んでからポケットにそっとしまって部屋を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「魔王様、ただ今戻りました」
私が部屋に戻ると魔王様は一人でソファに座っており、子供達の姿はなかった。
「あれ?子供達は?私の部屋ですか?」
「いや、今私の影に潜らせて、魔力を分けてやっているところだ。個人差はあるが、ミホの言う通り体力が乏しいようだったからな」
「そうなんですね」
「夜明けまで時間がある。それまでゆっくり休め」
「はい」
魔王様のお側にいれば、子供達はひとまず安心だ。
けれど、私の中に沸き上がった怒りは収まらなかった。
二度とこんな事が出来ないようにキツく灸を据えないと、悲劇は繰り返されてしまう。
「魔王様、子供達の脱出方法について考えがあるんですが、お聞きいただけますか?」
私が思いついた作戦を話すと、魔王様はニヤリと笑った。
「面白い。いいだろう」




