表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/23

VS嬢子

ホテルの1階でのレストランでの食事が終わると、

ナトクの雇われ傭兵と騎士達は、楽しそうに銭湯へ行くと言いながら

ロビーの裏側へ消えて行く。

任務の事、すっかり頭から消えていそうだ。


『銭湯は、楽しみですね』

傭兵から食事の時に情報を得ているので、オルガは興味深々。

『そうそう。諜報部では、必ずホテルを利用しているのよ。

何しろ、普通の宿と同じ宿泊料なのよ。安価で料理は美味しい、

お酒も旨い、銭湯も広くて気持ち良いのよ』

ララがうっとりとしているので、『任務そっちのけですね』と

オルガは呆れ

嬢子はナトクの諜報部は一体何をしているんだろうと思った。


「銭湯か」


3人で着替えを持って、銭湯の受付へ尋ねると、老婆が

使い方の説明をしてから入室させてくれる。

『分からない時は、聞いて下さい』

「あ、はい」

中へ入ると、着替えをする更衣室、脱いで鍵付きロッカーへ着替えと

一緒に押し込む。

タオルを持ってさらに部屋を進むと、掛け湯の部屋。

掛け湯をして進むと、大きな湯船と洗い場が姿を現す。

湯気が多く、辺りが見えにくい。

何人か他の女性達も入浴中で、おしゃべりが聞こえている。

嬢子達も湯船に浸かると、39度という湯温で

丁度良い湯加減。

「気持ちいい」

(信じられないけど、旅館の温泉を思い出すわ)

『うわ~、温かい湯~』


身体が温まってから、洗い場で体を石鹸で洗うと、サッパリ。

垢が取れていくのが嬉しい。

ナトクではお風呂の習慣がなくて、湯を貰って、タオルで拭くということが

多くて、とても体臭までは落とせなかった。

男性は、水とか湯をかぶるという習慣はあるらしい。

「ずっと髪もごわごわしていたけど、シャンプーもあるなんて、ここは

凄いわ」

髪が潤い、肌も艶々。

(こんなに文化のレベルに差があるなら、軍事面も差があるのじゃないの?

私1人がどうのなんて無理な話しじゃ)


今更ながら、この世界へ来たことを思い出す。



そう、嬢子は大企業の社長令嬢。

美人だとか可愛いとか言われて、ちやほやされていたから

結構我儘に育っていると、当時から思っていた。

何しろ、兄はご子息と称えられるような感じが嫌で

親の会社の名前は友達には一言も言わなかった。

両親にも一般的な服装で、宝飾品を身につけずに来なければ

来るなと、学校の行事にはこっそりとしか参加させなかったくらいだ。

兄は、私にもよく考えて行動しないと

金目的の人間しか集まらないから気を付けろと

何度も言っていた。


よく分からなかった当時は幼児。

小学生の時に、親しくしていた友達が実は

友達の親が仲良くするように言って、無理に付き合っていたことが判明し

人間不信になったことで、兄の言葉が理解出来た。

中学は、直ぐにその子達に知らせず、別の中学へ入学し

私自身の事を誰も知らない高校に進学して

自分を取り戻しつつあった当時、高校2年16歳。

ごく普通に学校から歩いて帰宅し、

(車の送迎だと、金持ちの子供としか知り合いになれないので)

犬の散歩をしようと、庭にいるはずの犬の名を呼ぼうと

家のリビングから続く廊下で倒れた記憶しか残っていない。


気が付くと、この世界、ナトク国の医務室で目覚めた。

ナトク国が、魔術師を使って嬢子を召喚させたのだと

説明を受けた。


常夏の国で、建物のほとんどが木で出来ている。

自分の世界の常夏の国を思わせる風景だった。

服装も軽装で、薄い生地を何枚か着ている感じで

朗らかな考え方で、楽しく陽気なイメージだった。


始めは異世界小説を読んだことがあるので、興奮したし

自分は召喚されたので、魔王を倒す為の勇者なのだとか

チートになれるの?とか

バカな考えばかり浮かんで、魔術師になる訓練を受けていたのだ。


(あの時の自分をバカって詰りたいよ。こんな事に巻き込まれるなんて)


朝、オルガに起こされ、鏡を前に身だしなみを整え

支度が終わると、既に終えていた2人と朝食を採りに1階へ降りる

ことになった。

『朝は、夜バーだったところがカフェになっていて、モーニングという

食事があるそうです。レストランは朝食バイキングだそうです。

どちらにします?』

オルガが従業員からの情報を2人に説明しながら

嬉しそうに周囲を見渡している。

「そうね。私はパンケーキが食べたいな。レストランにはあるのかしら」


ロビーまで出てきて、嬢子が両方の店を見て、そう返事をしたところ

「パンケーキなら、レストランにあるぞ」

と、別の方向から言葉が返って来た。

「え?」

嬢子を始め、ララとオルガがその声がした方向に視線を向けると

銀髪でヘアスタイルは、ムービングマッシュというホワッとした短髪の

背の高い男性が佇んでいた。

かなりのイケメンで、ダンディだ。

「うわ、恰好いい」

(30代かしら?お父様と同じ年代の方かな)

『ジョーコ様』

嬢子は素直に見惚れたが、ララとオルガは違ったようだ。


何しろ、この国で銀髪は魔術師が多い。魔力も高いと言われている。

「君たちは?」

男性が質問すると、嬢子が答える前にオルガとララが嬢子の前に

立ちはだかる。嬢子は2人に守られるように彼女達の背後に。

『ナトク経由で来ました商隊ですが、貴方様は?』

ララが代表して問う。

オルガがヒソヒソ声で

『この国の貴族の服装をしています。何かに巻き込まれてはいけません』

嬢子は、小さく頷いた。


「これは申し訳ない。そんなに警戒されるとは。

俺はこのホテルの従業員だ。服装は私服で間違われやすかったね。

済まない。朝食についてだが、軽く食べたいならカフェで。

パンケーキやデザートは、レストランで食べられる。

オーナーがハワイ式の物を採用しているとか言っていたよ」

その言葉に食いついたのが、嬢子だ。

「ハワイ?」

「聞いたことあるかい?」

オルガは、我に返り嬢子を自分の背に隠す。

『有難うございます。さ、お嬢様行きましょう』

嬢子が返答する前に、彼女は嬢子の背を押し、レストランへ。

ララは男性をガン見しながら、2人の後を追った。


彼女ら3人の後ろ姿を目で追いながら、男性は背後に近づいて来た女性に

声を掛けた。

「どうやら、ナトクの者達だな。商人という話しだが、1人は騎士で

もう1人はもしかしたら異世界召喚された少女だと思う」

「そうね。ハワイで表情が変わったもの」

「どうする?」

「父に相談するわ。もしも説得出来たら、彼女をこのまま元の世界へ

帰してあげたいわ」

2人でコソコソ話をしていると、受付にいた従業員が手を振って来た。

「どうした?」

『あちらに』

2人が慌てて駆けつけると、在人とエフィルがカフェにいることを

伝えてきた。

「丁度いい」

「ええ」

2人は、カフェで寛いでお茶を飲んでいる彼らのもとへ急いだ。


「どうした?何か問題でも起きたか?トゥーレ君」

『顔色が悪いわよ、エリイ』

慌てて来たので、2人がそれぞれ心配している。

それどころではないので、トゥーレもエリイも話し半分で

いきなり自分達の話を伝え始める。

「それが、ナトクからの商隊で怪しい人物と今接触したところです」

「何」

「父さん、異世界から召喚されたらしい少女がいたのよ。

トーイが食事の話を聞いて、父さんの世界でもある国の名ハワイを

出したら、反応があったわ。異世界の少女は、彼女だと思う。

どうしよう。

私は、もし望むなら彼女を今すぐにでも、家へ帰してあげたい、

今なら直ぐにでも帰してあげられるのに」


ホテルの裏手から、あちらの世界へ通じる扉がある。

そこから帰してあげたいと思う。


ナトクの女性が2人彼女を守っているので、近づきにくいこと

ひとりになった時に、接触出来ないだろうかと。

「まず無理だろう。私も他の魔術のあるメイドから報告を受けているが

あの付き添っている女性で、騎士風でない方の女性は、魔力を持っている。

たぶん、魔術師だろうと。ひとりきりになるのは、中々ないだろう。

あの商人の一行を監視するくらいしか出来ないだろう。

一応、軍には報告している」

今現在、このホテル内には、軍が潜んでいる。

私服を着ているが、ほとんどが軍の兵士達だ。

怪しい者は、陰ながら見張っている。

もちろん、以前マチが取り付けた防犯カメラが大活躍している。


「ギルドにも連絡した。どのくらいの戦力か不明だ。傭兵に3人は

他の傭兵達から情報を得ているが、後の4人と女性2人については

様子を見て行こう」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ