偶然なのか、必然なのか
『我が国は、ここです。そして敵国は我が国から見て北側になります』
アルセイル国から見て、この国ナトク国は南に位置する。
南という土地柄、温かい温暖の土地。
雨は週1回あるかないか。
とにかく1年中常夏。
特に特産という程のものは何もなく。
どこの国でも出来る麦と果実が実るというだけ。
海産物や農産物は輸入に頼っている。
常夏という立地なので、冬が長期の国(ナトク国から東北側にある国々)
が観光旅行に来るものの
観光地としてはコレといったものが乏しく、そのままアルセイル国へ
行ってしまうことが多い。
20年前までは、あちらも特産を生かすこともせず、
ナトク国とそう変わらない感じだったはずが
突然変貌した。
密偵が観察していると、どうやら国全体で、どう自分達の土地の物を
他の土地へ広めていくには
他の土地から買いに来たいと思わせるにはどうしたらいいかを
考えたらしい。そんな指導者が存在して羨ましいと思う。
こちらは内陸。
南なのに、海もなく。
湖と川という、どこの国にもあるだけ。
魔力持ちも100人に1人いるかどうか。
その魔術師も自国以外にも門扉を広げているアルセイル国へ
留学して卒業した者が7割。
ナトクの魔術師養成学園では、中級並がせいぜい。
ナトク国が、北側に位置するアルセイル国に憧れるのは
アルセイル国は、ナトク国側からは、北に位置するが
アルセイル国自体は、ナトクの領地の3倍。
アルセイルの王都から北側は、四季という季節があり、冬は雪、
温泉もある。ついでに魔術師の学園がある。
王都の西側は海に面している。海軍とか海産物が豊富。塩が特産。
東側は、山が多く春と秋という季節があるという。
南側は、ナトク国との国境がある。季節は温暖、常夏で同じ。
果物も温暖の地の物から温暖では育たないいろいろな物があり
さらに海の幸、山の幸まで豊富。
欲しいと思わない者がいないはずがない。
『我が国ナトクは、異世界から召喚した貴女にぜひ、この戦いで
勝利に導いて頂きたい』
地図を広げて自国と敵国の説明をしていた
ナトクの将軍職の男性にそう言われて、
嬢子は普通に頭が真っ白になった。
「え?戦い?」
彼女が零した言葉に、将軍は盾に振る。
『ええ、貴女様が魔術師としての力を十分に発揮出来るように
なったら、直ぐにでも』
「・・・・」
嬢子としては、まさか自分が他国との戦争に駆りだされるとは
思っていなくて、衝撃を受けた。
その夜、自分が勇者として召喚されて魔族とか魔王退治に行くと
思っていただけに、体が震えだした。
(だって、魔物とか魔王とかは、人間ではないから、倒しても
何ともないと思う。でも、相手が人間となると、
私人殺しになってしまうじゃない。そんなこと)
学校の授業、社会で戦争をしている国、戦争でどのようになっているか
過去の戦争の話を映像や写真で見た時の怖いと思う記憶が流れてくる。
『1度、どんな国か見に行きましょう』
侍女と女性騎士に言われ、国王の許可の下、商人としてキャラバン隊に
紛れて行くことになった。
通常のキャラバン隊に10人。
嬢子、侍女オルガ、女性騎士ララと男性騎士4人、ギルドから傭兵3人。
嬢子が何かを言う前に、話しはどんどん進んでしまう。
断りたいのに、異世界に来ている身なので、逃げ出したとしても
どうしていいのか分からない自分。
1人きりになると、涙を流すという状況に陥っていた。
温暖の地を馬に引かれて馬車がゆっくりと進む。
ナトクの王都から、アルセイル国との国境まで3日。
魔物と遭遇しないよう騎士や傭兵が交代で見張り、馬車で2泊。
食事は、外で川の近くでキャラバン隊の人達と和やかに採る。
彼らは、ナトクの10人の詳細は知らされず
(知っているのは、お金のやり取りをしたキャラバンの頭のみ)
後の商人達やその従僕達には知らされていない。
それぞれの商隊で火を囲み、食事を採り、それぞれの馬車かテントを
張って就寝。
夕食の時だけは、あちこち声を掛け合い、話をする。
嬢子は、初めての経験だが、女性達や子供達と旅の話を聞けて
楽しい時間となった。
国境を無事超えると、それぞれの小隊に別れて、また機会があれば
合流して別の国へ行こうとなる。
しばらく馬車に揺られて行くと、小さな村や町を通り過ぎる。
そこで商売を始める隊とは別れ、嬢子達の馬車はそのまま王都へ
目指した。
荒地を通り、1泊野宿をし、また道を進み、夕刻になった頃
大きなホテルが左側に見えた。
「ホテルがある」
自分の世界にありそうな建物の外観が見えてきて嬢子は感嘆した。
『まあ、あれが有名なホテル キノシマ』
『え?あ、大きいなあ。城かと思った』
侍女や騎士が見惚れていると、利用したことがある傭兵達が
『え?あのホテル泊まるのか?あのホテルの料理、上手いんだぜ』
と、騒ぎ出した。
「え?泊まれるの?」
侍女は笑顔で頷く。
『はい。ギルドで申し込んでおきました』
そのまま馬車が門前に到着すると、門番が2人出てきた。
『どちら様ですか?』
『予約したオルガ・ソーテです。他9名』
門番の男が、紙を見て確認し、もう1人が連絡を入れている。
左側から、男性が2人と簡易馬車が1台やって来た。
その場で、騎士と傭兵は馬を預け、馬車に乗り換えるよう促された。
もちろん嬢子と侍女も簡易馬車へ誘導され
乗って来た馬車は、やって来たもう1人の男に馬車置き場へ
持って行くと告げられた。
料金の中に、馬の世話と馬車の点検も含まれているというので
嬢子は驚いた。
(へえ、小説でそんな宿聞いたことない。ここって、どんな人が泊まる
所なの?貴族だけかしら?)
そんな考えを持ちながら、簡易馬車に10人乗り込み
周囲の夕方の景色を見ながら、ホテルの入り口まで着いた。
入ると、もうそのまま自分の世界のホテルと同じ様式。
ロビーでは、お客と軍の人間がいたが楽しそうだ。
左はバーがあり、右はレストラン。
『お嬢さん、右のレストランはバイキング形式ってな。
いろいろな料理を好きなだけ食べられるんだぜ』
一緒に来ている3人の傭兵が嬉しそうに話してくれる。
「美味しいの?」
『美味いぜ。この国の料理から他国の料理までいろいろ。
特にこのホテルのオーナーの国の料理はまた格別』
「へえ・・」
まずは、受付でオルガが全てやり取りをして、部屋割りで、それぞれの
部屋へ案内される。男性達は、男性達で別の部屋へ案内がされる。
階段から全てが、どこかで見たような代物だ。
嬢子は、もしかして自分の住む世界に帰って来たのではないかと
錯覚さえしていた。
部屋の中は、3人部屋で、オルガとララと自分が使う。
シングルベッドが3つ、外側はホテルの庭が一望出来る大きな窓。
冷蔵庫もあり、自分で飲み物が飲めるようにポットまである。
「凄いわ」
『ジョーコ様、こちらには銭湯もあるそうです。
簡易バスルームというのも、こちらにありますが、
大きなお風呂は1階がお薦めだそうです』
嬢子は、口をあんぐりと開けそうになった。
(本当に、ホテルだわ)
カードキーで、3人で出るとまずは食事ねと、1階のレストランへ向かう。
階段を降りて、ロビーを歩いていると
もう既に騎士や傭兵達がバイキング式の料理を楽しんでいた。
ロビーの中央の舞台では、どこかの音楽隊が演奏をしている。
3人がレストランへ入り、いろいろな料理をプレートに採り
席を確保して食べてみると。
『美味しい』
『これ、何、美味しい』
「美味しいわ。これ。あのデザートもぜひ食べるわ」
いろいろな料理が並べてある奥に、デザートを発見した嬢子は
今までの事を忘れるくらい食事を満喫したのだった。
お腹が満たされた頃、ようやく周囲を見渡せば、いろいろな人種や
職業の人たちがいるのに気付いた。
(へえ、獣人、エルフに。あれ、傭兵もかなりいるし、子供もいる。
服装も貴族とかじゃないわね。こんなに高級感ある格式の高い外観なのに
どんな人種でも職業でも泊まれるのか)
思わず、感心してしまう。
「ねえ、ホテルって。こんな感じなものなの?」
オルガとララに尋ねると
『いいえ、我が国でも他国でもこのような設備の宿はないです。
初めて訪れましたが、貴族の屋敷かと思う外観で、内装もびっくりする
くらい高級ですが、安価で誰もが泊まりやすい宿になってました』
『物凄く待遇が良い宿で、私もびっくりです』
『灯りも凄いですよね。どういう仕組みなのか分かりませんが
もうあれから時が経ち、外はすっかり暗いのに、これだけの明るさ。
蝋燭を使用している我が国では、ありえない明るさです。
どんな魔術具なんでしょうね』
オルガとララは感激している様子。
その2人を見ながら、嬢子はその灯りに注目して絶句してしまった。
(何?ナトクは蝋燭がメインだと言っていたし、実際夜は蝋燭やカンテラを
利用していたから、これほどの明るさはなかったわ。
この明るさは、電球)
「で、電球」
(この国って、ナトクより科学が進んでいるわ。大人と子供の差を
感じるわ。戦争しても無理だと思うよ)
ナトク国
女性騎士 ララ 茶髪 金目 26歳 180センチ 第10隊 隊長




