話を最期まで聞こうか
北の領地は、寒い。
珍しく四季がある地域だ。
ただ、秋と冬の期間が長い。領地は大きな都市ではあるが
雪が多い地域なこともあり、石で造られた家が多い。
一番驚かれるのは、民の8割は魔力がある。
さらに国内から魔力持ちが集まり、試験に合格すれば
無償で領主が運営する魔術学園で学習することが出来る。
毎年、人数が限られているわけでなく、
魔力装置で魔力が決められた量以上あり、魔術が多少なりとも
使いこなせて、国語・数学の試験と常識、歴史テストが6割と面接官を
認めさせるだけで入学出来る。
ただし、認められ合格する者は、毎年100名がせいぜい。
11歳から5年間学ぶ。
学校には、都合で辞めるという以外に
およそ500人の生徒が学んでいる計算になる。
毎年100人弱の卒業生がいて、優秀な生徒は王都へ行く。
街は、大勢の魔力持ちが住んでいるので、魔法道具の店が多いし
魔術師に近い力を持っている者や、街で仕事をする魔術師も多く
存在する。
国内の他の領地からは、魔力持ちの民と魔術師が多く脅威と
されている。
領主 アレクシア・カールナーは、一族を束ねる女性だ。
威厳に満ちて、厳しい言葉が多いが、1度認めると、信頼を置いてくれる
話を最期まで聞かない、勘違いで突っ走ることが多いという
それでもそれがなければ良い領主だろう。
『返事はまだ来ないのかい?領主直々の手紙だというのに』
彼女は、1か月も前に王都の書記官へ質問状を出してから
その返答を今か今か今かと待っている。
『ご主人様、あちらも忙しいのでしょう。隣国ナトクが怪しい動きを
しているとかで、戦争の準備を始めるという連絡が先に来たくらいです』
『ああ、ナトクか。しかしだ。私の息子は国内全土に捜索願いを
出していたのにだ。真実を伝えないとは』
バンバンと机を叩く。
側近達は、いつもの事なので平然としている。
『ご主人様。ですが、本人が捜索するなという話しを
伝えていたのでしたら、効力がないと思われます』
ぎろりと目が側近のひとりに向けられた。
『トゥーレ自身がか。あのバカ息子め。せっかくの宮廷魔術師長の座を
勝手に降りるとは』
既に20年も前の話しだが、母親としては納得していない。
トゥーレは、アレクシアのひとり息子で
彼女は、トゥーレ1人しか子供がいない。
だからこそ、領主の息子の跡継ぎになる前に
宮廷魔術師長をして威厳と風格を持ってして
この北の地の領主にさせようと計画していたのだ。
『私達の寿命はおよそ300歳。平均は280歳。
私自身、後100年生きられるかどうかなのに。あのバカ、いつまで
放浪しているつもりなんだか』
怒りでバンバンと机を叩くので、最近机がギシギシ音を立て始めている。
『あ、あの・・あまりに返答が遅いので、こちらから調査しましたところ。
どうやらトゥーレ様は、結婚し、子供がいるという話があります』
別の側近が、恐る恐る話を告げると、彼女は鬼の形相でその側近に
近づいた。
『まことか?結婚だと?私や親族の知らぬ間に。どこの馬の骨だ。
子供はどうしている』
あまりの恐ろしさに、側近は腰を抜かしてひっくり返った。
『ひいい・・』
『そこまでは分からなかったのか?』
『は、はい。どうやら隠されている様子で、トゥーレ様の住まいも
奥方とお子の消息が突き止められないようになっています』
『誰かが情報操作しているということね。ナトクの事もあるから
1度私が王都へ行きましょう。後の事は、貴方お願い出来ます?』
アレクシアが隣りの机で、仕事をしている男性に声を掛けると
彼は苦笑する。
『アレクシア、また暴走するとトゥーレに嫌われるぞ。
もっと相手の話を聞いて、言葉を受け止めないと。君はあわてん坊過ぎる』
『でも貴方』
彼女の夫は、椅子から立ち上がると、妻を抱きしめた。
彼女の耳元で囁くように
『いいかい?20年以上も息子が消息を絶った時の事を思い出して。
二の舞にならないよう、会えたらまず謝罪だよ』
彼女が好む声で伝えれば、彼女は大人しくなる。
側近達の英雄であり、領主を唯一止められる存在の夫
副領主 バーナード・カールナーは、側近達を見て微笑む。
側近達は、副領主の笑みに何度も頷いた。
その場は一応丸く収まったが、3日後にはすっかり忘れたのか
王都へと慌ただしく出掛けた領主アレクシア。
夫と留守番の側近数人は、護衛の魔術師達に
『くれぐれも主の暴走は止めてくれ』
『命令が出たとしても、よく考えてから行動してくれ。
国問題とか王を愚弄するとか、揉め事になる場合は、必ず
お前たちで吟味してからだ』
『こ、心得ました』
と、頼んでいた。
馬車を見送った後、側近達は夫である副領主に
泣きそうな顔で綴った。
『バーナード様、大事になったら、どうしましょう』
『ご子息に会えたとして、その地を半壊するようなことに』
最悪な事態ばかりが浮かぶらしく、一緒に見送りに来ていた侍医に
胃薬を全員が貰っていた。
『まあ、どうなるかは分かりませんが、在人様には連絡して
おきましょうか』
バーナードが静かに微笑むと、周囲全員が涙目で頷いた。
『在人様は、面白い方だから。過去私の他にアレクシアを止めたのは
彼ひとり。どうしてもダメということなら、トゥーレが私を召喚するだろうね』
青空を見上げながら、彼は楽しそうにまた微笑んだ。




