異世界召喚者
その日の夜、父と魔術の特訓をしながら、
昼間のエーヴェルトが教えてくれた手紙の内容について相談することにした。
ギルド長から話をつけておいたギルドの訓練場を借りて
魔法の授業が始まった。
「本は、どこまで読めたんだ?」
ギルドの訓練所内で、突然魔方陣が展開し
その中からこちらの世界での本来の姿で父が登場。
「朝、休憩中と空いている時間に少しづつだから。
1冊目の100Pまで」
息子であるマチは、慣れたもの。3回目なので普通に対応。
「100Pの中で、聞きたいことは?」
弟子という話しだったが、親子で仲良く訓練と言ったところだ。
「あ、聞きたいところは伏せんを貼っておいたんだ」
テキストを取り出し、その場所を開いて、質問し、父が返答しながら、
その場で質問の解答を試すので
マチは感嘆の声を何度かあげながら、感想と呪文を自分の本へ書き足していく。
「書き込めたら、試してみろ。魔力を込めながら、イメージだ」
突然出来るはずもないが、親子なので、なんとなく言いたいことが
伝わる。それを父子は気付かず、なんとなくで魔術の授業を進めていく。
「おう。頭の中でイメージしながら、水分を集めて・・」
父が魔術で取り寄せた、目の前に置かれた桶を指さす。
「水を桶へ注ぐ」
空中の水分が集まり、水として桶に注がれていく。
丁度8割で水が止まる。
「そうそう。イメージが大切」
水に対する簡単な魔術から、徐々に難しい魔術へ変わっていく。
それがどういうことなのかもお互い何とも思わず。次から次へと。
「水を展開させて」
「こう?」
「そうだ。魔方陣のように丸く大きく広げて盾にする」
「こう?」
「よし。そのままこちらから火の攻撃をするから防げ」
「え・」
「火の矢よ、行け」
ただそれだけの短い詠唱で、父親は火の矢を作りだし、マチへ放つ。
(父さんが凄いと言われるのは、詠唱が短く、この威力だからか?)
水の防壁が崩れかけるが、なんとか水飛沫が上がりながらも
巨大な火の矢を鎮火。
次々と大小様々な火の矢が撃ち込まれるが、10回目で水が蒸発して
魔方陣のような水の防壁が消える。
「はあはあはあ」
初日から、魔力を保つという暴挙をこなしたことで、マチは息切れを起こした。
「結構、保てたな」
「はあはあ、そうなんだ?疲れる・・父さん、容赦ないよね」
火の矢を連続で放っていた父は、平然としている。
「ま、このくらい朝飯前」
「はあ、流石父さんだよ」
「防衛に関しては、今日はここまで。じゃ、次は水の攻撃魔法だ」
「イメージで、水の攻撃か」
水の攻撃は何があったかをテキストを捲りながら
想いを巡らす。
「氷に変えてみろよ。水は大量に出して水責めもいいが、やはり氷の方が
威力が大きい」
「氷かあ」
「イメージしてみろ」
魔力を使う際、水を凍らせて矢のように放つ。
「氷になる温度を思い浮かべてみろ」
「氷になる温度」
水は集まるが、ぼた雪がぼとぼと放たれる。
「おお、可愛らしい攻撃だ」
「ああ、これじゃあ雪か。上手く調節するの難しいな」
「ああ、雪。確かに」
「あ、氷の前に吹雪はどうだろ」
思いついた途端、雪女のイメージで、周囲の温度を下げる。
水を凍らせていく感じなので、スモークが炊かれているように
辺りが霧で見えなくなっていく。
「おお、マチこれは?」
「雪女のイメージ」
「雪女?」
「そ。雪女は雪を降らせて、吹雪を起こす」
両手を左右に振ると、雪がちらつき、さらに右、左と大きく振る。
上空から風が起こり、雪が大量に舞い、猛吹雪が繰り出される。
「おわ」
父は慌てて自分の周囲にバリヤ的な物を作って防ぐが
効果は絶大のようだ。
「うわ~、寒い。あ、この状態なら氷が作りやすくないか?」
「ああ、そうか。氷の矢」
手から氷の矢が作られていく。
「あ、そうか。周囲がこれだけ寒いと作りやすいな」
そのまま思い切り父のバリヤに向けて投げると、バリヤが飛散。
「うわ。マチ」
「あ、父さん大丈夫か?」
「バリヤが凍って、攻撃されたらガラスのように割れた?」
「科学の実験だな」
ふと思い浮かんだのは、マイナスの世界でバラの花を1本持ち込んだら、
バラの花びらは凍り、触れると、パラパラと壊れる。
「ああ、そういえばTVで見たことがあるな」
「父さんも見た?」
「科学の実験の番組で、芸人がやっていたやつだぞ」
「あははは、そうそう」
そうして1時間オーバーして、お開き。
「また明日来る」
「了解」
ああ、疲れたなとギルドの宿舎に戻り、お風呂に入って
ベッドに入って、寝る前にテキストを読み始める。
(分厚いからな。1冊読むのに、3日は掛かるな)
それでも読破しておかないと、戦えない。
マチの部屋は、夜遅くまで灯りがついていた。
次の日、ギルド長と朝食を頂いていると、ギルド職員が慌てて
食堂に入って来た。
思い切りドアを開けたものだから、近くにいたメイドが悲鳴を上げている。
『ギルド長、大変です』
『朝早くから、慌ただしい』
『隣国ナトクが、異世界から救世主を召喚したと報告が来ました』
『は?召喚?何故また』
食堂にいた職員達も慌てて入って来た職員に注目している。
『諜報部からは、異世界から召喚した者は魔力が高く。戦争をさせる為に
呼んだものと』
聞いていたマチは、驚いた。
(ええ~、異世界召喚?マジ?どこの異世界なんだろ。
もし、地球からで同じ時代からだったら、直ぐに帰してあげられるけど)
「その異世界から来た人って、どこの異世界までか分からないかな」
『あ、マチさん。いえ、そこまでは。ただ、このまま戦争に
向かっていきそうな勢いだと報告が来ています』
『海もあり内陸もあり、特産物もあるこの国は、南の内陸の国からは
欲しいものなのだろうな』
「行ったことがないですが、南の隣国はナトクという国ですよね」
『ああ、そうだが』
「内陸で温かい気候なら、果実が豊富で、それを生かした特産を
作ればいいのに」
いろいろアイデアが出れば、作れるとマチは考える。
だが、この世界ではアイデアは中々難しいもの。
マチの世界での機械も必要になるアイデアもあるので、作ること自体
難しいこともありえる。
『だから、在人を欲しがっている。ついでに戦争で勝てば、在人も
この国も手に入ると考えるだろう』
『マチさん、国が相手国を欲しがるのは、国を広げることと
元々ある相手国の利益を自分達の物にすることですよ』
思いがけない言葉に、マチは絶句。
ギルド長は頷きながらも、直ぐに食事を終え、呼びに来た職員と
執務室へ急いだ。
残されたマチは、メイドや近くで食事をしていた者達から
『ホテルへも連絡を入れておいた方がいいですよ』
と、心配そうに伝えられる。
「そうだな」
部屋に戻って、急いで携帯で連絡を入れてみる。
祖父は、直ぐに電話に出てくれた。
「今、ギルド長に連絡があったんだけど、爺ちゃんの方は?」
「ん?まだ何も来てないなあ。ところで何の連絡だ?」
ホテルは、あの例の会議から多少持ち直して、
平穏を保っている様子だ。
「隣りの国ナトクが、異世界召喚したんだ。どこの異世界から
呼ばれたのか分からないけど。この国との戦争をする為だとか。
今、戦争の準備をしているそうだよ」
携帯の向うから、大きくため息が聞こえる。
(戦争だもんな。爺ちゃんも嫌だろうな)
「そうか。ナトクは、あの会議では何も響くものがなかったとみえるな。
それよりもトーイ君が姿を現したことで、脅威を感じたから
召喚をしたということかな」
「爺ちゃん」
マチは心配になる。
今まで住んでいた世界では、戦争なんて経験はない。
他国では今尚あるかもしれないが、平和な島国に住んでいた。
「王から連絡があると思う。お前は、今は勉強に力を入れておきなさい。
いざという時、マチの魔術に頼らないといけないかもしれない」
「あ、うん」
後はこちらでも会議をすると言って、祖父は電話を切った。
その頃、王都の城では謁見の間で諜報部の数人から、
国王がナトク国の現状報告を聞いていたところだ。
『王、異世界召喚者は、魔力は上級レベル。
訓練の場に居合わせましたが
魔物大型クラスが放たれたところ、その者火急魔術で2回の詠唱で
倒しました。威力は凄く、魔物が炭になり骨のみ』
『トゥーレ・カールナー対策だろう。それに北の領地、カールナー一族に
対する牽制か』
王は顔を顰め、携帯をポケットから徐に取り出した。
『異世界召喚者か。どうするか』
隣国
南に位置する ナトク国
温かい国だが、海はなく陸。特産物が果実くらい。
特に何も目立ったものはない。
ナトクからは北にあるアルセイル国は、西側が海に面していて、内陸では
いろいろな農業(在人による)が盛んで、手に入れたいと考えている。




