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第53話 不死女神はおもらし聖女をかっ攫う

 【暗黒の息吹(ダークブレス)】が直撃した大地では、黒い炎が燃え続けていた。




 【ソウルイーター】は完全に滅びたが、毒素と瘴気による汚染がひどい。


 長きに渡って生き物が住めないであろう、死の大地と化している。


 単に、鎮魂花(レクイエム)の花畑が失われただけでない。


 辺境伯領の生態系に、多大な悪影響を及ぼすことは確実だった。


 汚染は、近くの街道にまで及んでいる。


 これでは行商人なども、行き来できない。


 経済的な打撃も必至だ。



 マヤは(むな)しさを覚え、深く(ため)(いき)をついた。




「私は……。何も守ることができませんでした。旦那様が愛した、鎮魂花(レクイエム)の花畑も。ご両親との思い出も」


「それは違う。マヤは守ってくれたよ。この辺境伯領に生きる、住民達を。土地よりも、そこに生きる人々の(ほう)が大事だ。人が生きてさえいれば、花畑はいつか復活させられる」




 背中から、キュッと抱きしめ(なぐさ)めてくれるカイン。


 幼く見える夫だが、とても心強く感じる。


 背中に当たる鎧の感触が、ちょっとゴツゴツするが。




「旦那様……」


「俺達は、(おの)(おの)ができることを全てやった。拾えるものは、全部拾った。だからこれで、良しとしよう」


「そうですね。……ん? そういえば、できることを全然果たしていない者がいましたね」


「え? 誰のことだ? ……マヤ?」




 マヤの唇が、ニヤリと吊り上がる。


 いつもの妖艶な、悪役令嬢スマイルだ。




「旦那様、いいことを思いつきました。上手くいけば、花畑を短期間で蘇らせることができるかもしれません。……しっかりつかまっていてください」


「マヤ? いったい何を……うわっ!」




 マヤはドラゴンゾンビを、急加速させた。




 向かう先は、都市防壁の内側。


  ウィンサウンド市街地だ。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 時刻は(すで)に深夜だが、ウィンサウンド市内では大勢の人々がうろついていた。


 やたらうるさい【ソウルイーター】の寄声で、みんな叩き起されてしまったのだ。


 戒厳令などが出る間もなかったため、皆が情報を求めて家を飛び出し、ゴタゴタしているという状況。


 そんな最中に市街地目掛けてドラゴンゾンビが降下してくれば、当然大騒ぎになる。




 しかし巨竜の背中にマヤとカインの姿を認めると、市民達は大歓声で出迎えた。




「おおっ! カイン様! よくぞご無事で!」


「マヤ様? まさかラスティネルを普通に討伐するだけではなく、ドラゴンゾンビとして配下に加えたのですか? さすがは不死女神!」




 辺境伯領の者達が(いだ)く、毒竜ラスティネルへの恐怖心は根深い。


 だがそれ以上に、信じていた。


 無敵の不死者(アンデッド)軍団を従え、この地を守ってくれる英雄――


 不死女神、マヤ・ザネシアンを。




 ラスティネルが降り立ったのは、神聖教会ウィンサウンド支部前である。


 ()っくき毒竜ラスティネルを討伐し、ゾンビ化して支配下に置いた不死女神。


 その姿をひと目見ようと、野次馬が大勢集まってきていた。


 ドラゴンゾンビの背から降りたマヤとカインを、皆がワイワイと取り囲む。




 そこへ教会の中から、女が出てきた。


「ふわぁ~、なんですかぁ? 騒々しい。夜更かしは、美容に良くないんですぅ。キアラはこの美しいお肌を保つために、早めに寝ていたのですぅ。それを妨害するなんて、大罪ですぅ。ギルバート殿下にお願いして、処刑してもらうのですぅ」


 青い瞳を(こす)りながら登場したのは、ワンピースタイプの寝間着を着た女。


 【聖女(セイント)】、キアラ・ブリスコーだった。


 言動から察するに、最初にウィンサウンド市民を叩き起した【ソウルイーター】の(ほう)(こう)では起きなかったのだろう。


 なかなかに図太い。


 そしてノコノコ教会の外まで出てくるのは、不用心過ぎる。


 「毒竜討伐が済むまでは、隠れていろ」と、マヤから指示されていたのに。




 夢の世界に片足突っ込んだままのキアラだったが、急速に現実へと引き戻された。


 ドラゴンゾンビが(あか)く輝く(そう)(ぼう)で、自分を見下ろしていたからだ。




「あわわ……。あわあわぁなのですぅ……」


 【聖女(セイント)】様は恐怖のあまり、腰を抜かしてしまった。


 そのまま失禁し、尻の下に水たまりを作る。




「キアラ様。お迎えに上がりました」


「マヤ・ザネシアン! へっ? お迎えって、何のことなのですぅ?」


「詳しいことは、上空で話します」




 マヤはキアラを捕まえるよう、死霊術でラスティネルに指示を出した。


 ドラゴンゾンビの首が、【聖女(セイント)】に向かって伸びる。


 キアラは()いつくばりながらも、逃げようとした。


 だが後ろからスカートを(くわ)えられ、宙吊りにされてしまう。




「きゃぁああっ! やめるのですぅ! パンツ見えちゃってるのですぅ!」


「失礼。緊急時なもので」


 キアラの抗議をマヤは華麗に受け流し、再びドラゴンゾンビの背に飛び乗る。


 ラスティネルは漏らしたキアラの臭いにちょっと嫌がりつつも、翼をはためかせ始めた。




「マヤ! 俺を置いていくつもりか!?」


「旦那様は、市民達に状況の説明を。ドラゴンゾンビの姿を見て、怯えている者もいるはずです。瘴気の洞窟に置いてきたレイチェルとクレイグにも、迎えを出してください」


「わ……わかった。……マヤ!」


「何です?」


「そこの【聖女(セイント)】が言っていたように、夜更かしは美容の大敵だ。あまり遅くならないように、帰ってくるんだぞ」


「お気遣い、ありがとうごさいます」




 マヤは自然な笑顔を――地球で家族と共に過ごしていた頃と、同じ笑顔を見せた。


 そのままラスティネルを、急上昇させる。


 地上に残されたカインや野次馬達からは、あっという間に見えなくなった。






 ワンテンポ遅れて、上空から絶叫と共に【聖女(セイント)】の「聖水」がパラパラと降り注いだ。


 だが【守護者(ガーディアン)】の権能により(はじ)かれ、野次馬達は守られた。






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― 新着の感想 ―
[一言] むしろ聖水を浴びたかった野次馬もいるのでは?( ˘ω˘ )
[良い点] 草がすぎる解決方法←褒めてます 皆で一致団結して、少しずつ領地が元に戻っていく姿や、それに伴って年々咲く花が増える花畑を想像して感動した昨日の私の純情よ何処(゜Д゜) [一言] ここまで2…
[良い点] 最後の一文はさすがに草草の草でございます(笑)
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