第48話 サスペンス劇場とかの犯人って、なんでいつも最後にはペラペラ自供してくれるのかしらね?
マヤ・ザネシアンは悠然とした足取りで、オズウェル・オズボーンの前へと歩み出た。
彼の周囲で護衛している、10数体の改造ゾンビ達。
その背後でドラゴンゾンビへと生まれ変わろうとしている、毒竜ラスティネル。
オズウェルが従える恐ろしい不死者達を、マヤは全く意に介していない。
「オズウェル様。貴方が最近辺境伯領で暗躍している【死霊術士】だということは、薄々気付いておりました」
「ほう……?」
いつも薔薇の香水で誤魔化しているが、微かに漂う死臭。
不死者スライムの死骸を、回収したがっていたこと。
怪しいと思っていたが決定的な証拠がないので、マヤはオズウェルを討伐隊に入れたのだ。
毒竜討伐の中で、尻尾を出すに違いないと。
案の定、オズウェルは尻尾を出した。
道中で、彼がマヤに勧めてきた水薬。
あれは、魔力回復薬などではない。
服用した者を、不死者化する薬だ。
粉薬と水薬の違いがあるとはいえ、【ゾンビパウダー】と同種のものである。
【死霊術士】であるマヤは、すぐ看破することができた。
オズウェルは、こう考えていたのだろう。
不死者化してしまえば、マヤ・ザネシアンを死霊術で自分のモノにできる――と。
「他にいくつか質問があるのですが、よろしいでしょうか?」
「構いませんよ。これから妻になる女性には、私のことを知ってもらいたい」
「まずはこのザネシアン辺境伯領で暴れていた、多数の改造ゾンビ達について。全部貴方が、個人で改造したのですか? オズ商会の力を使ったにしても、計画規模が大きすぎます。民間の力だけでは、足りないはず。ひょっとして……」
「ご明察です。改造ゾンビを作って兵器とするこの計画には、国家が絡んでいます。ただし、王国ではありません。お隣の帝国です」
大商人というのは、仮の姿。
正体は帝国のスパイだと、オズウェルは自供したのである。
「以前、仰っていましたものね。『生まれは遠く』だと」
「まあ実際の距離は、国境沿いにあるこのザネシアン領と近いのですがね。国が違うので、気持ちの問題です」
「近くにあるザネシアン領の大森林は、帝国の生体兵器である改造ゾンビ達の実験場として最適だったと?」
「その通りです。魔物討伐で大森林に踏み込んだ冒険者や傭兵、辺境伯軍相手に、実戦テストがし放題。殺してしまっても、普通に魔物からやられたとしか思われない。狼型不死者やスカラベゾンビ達が、大規模テストで辺境伯軍から返り討ちにされたのは想定外でしたが」
聞いていたカインとクレイグは、怒りで拳を握り締めた。
彼らは日頃から、心を痛めていたのだ。
大森林の魔物討伐で、戦士達が犠牲になることに。
「毒竜ラスティネルを欲しがったのは、なぜです? 野生のドラゴンをゾンビ化して使役するより、ドラゴンじみた改造ゾンビを作る方が帝国の理念に合っていそうですが」
「野生のものではないのですよ、毒竜ラスティネルは。先程は売ってくれと言いましたが、元々帝国の所有物なのです」
オズウェルは語った。
ラスティネルは、帝国が卵から育てたドラゴンであることを。
生体兵器とするべく幼竜の頃から毒に漬け、毒竜へと改造してきたのだ。
幼い頃より毒に苦しめられていたラスティネルは、それゆえに攻撃的な性格に育ってしまったのである。
生体兵器として実験飼育されることにうんざりした毒竜は、2年半前に帝国の研究所を破壊し、脱走した。
「今となっては古い計画ですが、かなりの時間と予算がかかっておりましてね。帝国のお偉いさん方から、ラスティネルを回収するよう指令がきていたのです。もっとも……」
オズウェルの背後で、ラスティネルが上体を起こした。
途中だったドラゴンゾンビ化が、完了したのだ。
「毒竜ラスティネルはもう、帝国の所有物ではありません。死霊の王たる、【死霊術士】オズウェル・オズボーンのものです!」
オズウェルの宣言に同意するかのように、ラスティネルは咆哮を上げた。
聞くだけで生命力を削られるような、恐ろしい叫び。
若いカインはおろか、【剣鬼】クレイグすらもよろめいてしまう。
「ドラゴンゾンビ! 素晴らしい力だ! これがあれば、王国も帝国も敵ではない! 大陸全土が、この私に跪くのだ!」
力に酔いしれているかのように、高笑いするオズウェル。
そんな彼を前にしても、平然としている者がいた。
ドラゴンゾンビの咆哮にも、眉ひとつ動かさなかったマヤ・ザネシアンである。
「なるほど。貴方の目的は、分かりました。では、最後の質問です」
マヤは片手を、ラスティネルに向かってかざした。
するとそこから黒い魔力の波動が迸り、ドラゴンゾンビの巨体に絡みつく。
上体を起こしていたラスティネルは、再び地に伏せてしまった。
【死霊術士】が持つ権能のひとつ、【不死者支配】だ。
「なぜその程度の魔力で、私に勝てると思ったのですか?」
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