表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/57

第48話 サスペンス劇場とかの犯人って、なんでいつも最後にはペラペラ自供してくれるのかしらね?

 マヤ・ザネシアンは悠然とした足取りで、オズウェル・オズボーンの前へと歩み出た。


 彼の周囲で護衛している、10数体の改造ゾンビ達。


 その背後でドラゴンゾンビへと生まれ変わろうとしている、毒竜ラスティネル。


 オズウェルが従える恐ろしい不死者(アンデッド)達を、マヤは全く意に介していない。




「オズウェル様。貴方(あなた)が最近辺境伯領で暗躍している【死霊術士(ネクロマンサー)】だということは、薄々気付いておりました」


「ほう……?」




 いつも()()の香水で誤魔化しているが、(かす)かに(ただよ)う死臭。


 不死者(アンデッド)スライムの死骸を、回収したがっていたこと。


 怪しいと思っていたが決定的な証拠がないので、マヤはオズウェルを討伐隊に入れたのだ。


 毒竜討伐の中で、尻尾を出すに違いないと。




 (あん)(じょう)、オズウェルは尻尾を出した。


 道中で、彼がマヤに勧めてきた水薬(ポーション)


 あれは、魔力回復薬などではない。


 服用した者を、不死者(アンデッド)化する薬だ。


 (こな)(ぐすり)水薬(ポーション)の違いがあるとはいえ、【ゾンビパウダー】と同種のものである。


 【死霊術士(ネクロマンサー)】であるマヤは、すぐ看破することができた。


 オズウェルは、こう考えていたのだろう。


 不死者(アンデッド)化してしまえば、マヤ・ザネシアンを死霊術で自分のモノにできる――と。




「他にいくつか質問があるのですが、よろしいでしょうか?」


「構いませんよ。これから妻になる女性には、私のことを知ってもらいたい」


「まずはこのザネシアン辺境伯領で暴れていた、多数の改造ゾンビ達について。全部貴方が、個人で改造したのですか? オズ商会の力を使ったにしても、計画規模が大きすぎます。民間の力だけでは、足りないはず。ひょっとして……」


「ご明察です。改造ゾンビを作って兵器とするこの計画(プロジェクト)には、国家が絡んでいます。ただし、王国ではありません。お隣の帝国です」


 大商人というのは、仮の姿。


 正体は帝国のスパイだと、オズウェルは自供したのである。




「以前、(おっしゃ)っていましたものね。『生まれは遠く』だと」


「まあ実際の距離は、国境沿いにあるこのザネシアン領と近いのですがね。国が違うので、気持ちの問題です」


「近くにあるザネシアン領の大森林は、帝国の生体兵器である改造ゾンビ達の実験場として最適だったと?」


「その通りです。魔物討伐で大森林に踏み込んだ冒険者や傭兵、辺境伯軍相手に、実戦テストがし放題。殺してしまっても、普通に魔物からやられたとしか思われない。狼型不死者(アンデッド)やスカラベゾンビ達が、大規模テストで辺境伯軍から返り討ちにされたのは想定外でしたが」




 聞いていたカインとクレイグは、怒りで拳を握り締めた。


 彼らは日頃から、心を痛めていたのだ。


 大森林の魔物討伐で、戦士達が犠牲になることに。




「毒竜ラスティネルを欲しがったのは、なぜです? 野生のドラゴンをゾンビ化して使役するより、ドラゴンじみた改造ゾンビを作る(ほう)が帝国の理念に合っていそうですが」


「野生のものではないのですよ、毒竜ラスティネルは。先程は売ってくれと言いましたが、元々帝国の所有物なのです」




 オズウェルは語った。


 ラスティネルは、帝国が卵から育てたドラゴンであることを。


 生体兵器とするべく幼竜の頃から毒に漬け、毒竜へと改造してきたのだ。


 幼い頃より毒に苦しめられていたラスティネルは、それゆえに攻撃的な性格に育ってしまったのである。


 生体兵器として実験飼育されることにうんざりした毒竜は、2年半前に帝国の研究所を破壊し、脱走した。




「今となっては古い計画(プロジェクト)ですが、かなりの時間と予算がかかっておりましてね。帝国のお偉いさん(がた)から、ラスティネルを回収するよう指令がきていたのです。もっとも……」




 オズウェルの背後で、ラスティネルが上体を起こした。


 途中だったドラゴンゾンビ化が、完了したのだ。




「毒竜ラスティネルはもう、帝国の所有物ではありません。死霊の王たる、【死霊術士(ネクロマンサー)】オズウェル・オズボーンのものです!」


 オズウェルの宣言に同意するかのように、ラスティネルは(ほう)(こう)を上げた。


 聞くだけで生命力を削られるような、恐ろしい叫び。


 若いカインはおろか、【剣鬼】クレイグすらもよろめいてしまう。




「ドラゴンゾンビ! 素晴らしい力だ! これがあれば、王国も帝国も敵ではない! 大陸全土が、この私に(ひざまず)くのだ!」




 力に酔いしれているかのように、高笑いするオズウェル。


 そんな彼を前にしても、平然としている者がいた。


 ドラゴンゾンビの咆哮にも、眉ひとつ動かさなかったマヤ・ザネシアンである。




「なるほど。貴方の目的は、分かりました。では、最後の質問です」




  マヤは片手を、ラスティネルに向かってかざした。


 するとそこから黒い魔力の波動が(ほとばし)り、ドラゴンゾンビの巨体に絡みつく。


 上体を起こしていたラスティネルは、再び地に伏せてしまった。


 


 【死霊術士(ネクロマンサー)】が持つ権能のひとつ、【不死者(アンデッド)支配】だ。






「なぜその程度の魔力で、私に勝てると思ったのですか?」






お読みくださり、ありがとうございます。

もし本作を気に入っていただけたら、ブックマーク登録・評価をいただけると執筆の励みになります。

広告下のフォームを、ポチっとするだけです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓他にはこのような作品を書いています↓

異世界に召喚され損なったオッサンが、チート能力だけ地球に持ち帰って現金無双
【女神のログインボーナスで毎日大金が振り込まれるんだがどうすればいい?】~無実の罪で職場を追放されたオッサンによる財力無双。非合法女子高生メイドと合法ロリ弁護士に挟まれながら送る夢のゴージャスライフ~

異世界で魔神討伐をして得た超人的な力で、高校野球界を蹂躙せよ!
【異世界帰りの勇者パーティによる高校野球蹂躙劇】~野球辞めろと言ってきた先輩も無能監督も見下してきた野球エリートもまとめてチートな投球でねじ伏せます。球速115km/h? 今はMAXマッハ7ですよ?~

格闘と怪力で、巨大ドラゴンをフルボッコにする聖女の恋愛と冒険譚
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

近未来異世界で繰り広げられる、異世界転生したレーサーの成り上がり物語
ユグドラシルが呼んでいる~転生レーサーのリスタート~

ファンタジー異世界の戦場で、ロボヲタが無双する
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~

幽閉されし王女が護衛の女騎士(♂)から攫われて、隣国で幸せになる話
【緑の魔女】と蔑まれし幽閉王女が、美貌の女騎士から溺愛されて幸せになるまで ※なお女騎士の正体は女装した隣国の皇子であるとする

― 新着の感想 ―
[一言] ラスティネルもかわいそうに…… そりゃ荒れるわなと同情ひとしきりです。 そしてマヤちゃん、さすが! 次回が楽しみです!
[良い点] なるほど。お隣の国も絡んでの人体実験だったわけですね。いいですね。人を人と思わないその所業。帝国もまとめて、ぶっ潰したくなる感じですね(超笑顔) [一言] オズウェルはなんとなくド三流臭が…
[良い点] タイトル笑いましたw そんでマヤつっよ∑(゜Д゜) [一言] オズウェルくん奥の手でもあるのか、それとも何にも考えてなかったのか……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ