第40話 おっぷぁいは凶器
マヤがエロイーズをお仕置きした、次の日のことだ。
今日はウィンサウンド城の応接室に、大商人のオズウェル・オズボーンが来ていた。
辺境伯、カイン・ザネシアンとの商談だ。
今回は、マヤも同席していた。
いつもの肥料に加えて、辺境伯軍が使う薬草や毒消し草なども大量購入する契約をする。
毒竜ラスティネルの討伐に備えてだ。
「なるほど。辺境伯閣下は、【聖女】様絡みの情報をご所望ですか」
「そうだ。些細なことでも構わない。何か、オズウェル殿の耳に入っていないか?」
「情報も商品ですからね。対価をいただきますが、よろしいでしょうか?」
「何が望みだ? 金か? それとも……」
カインは妻を、チラリと見た。
マヤとのデートでも要求されないかと、オズウェルを警戒しまくりである。
「今回いただいた、薬草や毒消し草の大量発注……。辺境伯閣下は近いうちに、強大な魔物を討伐する予定がございますね? 相手はおそらく、毒竜ラスティネル」
図星を指され、ギクリとしてしまうカイン。
隣に座っているマヤはというと、涼しい顔だ。
「私はそのラスティネル討伐に、同行したいのです」
「何だと?」
「我が商会の新製品で武装した私は、戦闘もなかなかイケるクチなのですよ。戦力になってみせます。そしてラスティネル討伐に成功した暁には、毒竜の希少部位を我が商会に売っていただきたいのです」
ドラゴンの牙や鱗は、強力な武器防具の素材に。
内臓は、高度な霊薬の原料となる。
その取引価格は、莫大なものだ。
「そういうことか……。新製品とやらを実戦の場で俺にアピールし、辺境伯軍に買わせようと。そして毒竜の希少部位を他所に取られぬよう、倒したその場で予約してしまいたいと」
肯定の意味なのだろう。
オズウェルは眼鏡のブリッジを、人差し指で押し上げた。
「旦那様。オズウェル様の同行を、了承してください」
「マヤ?」
「死霊の姫君に口添えをいただけるとは、光栄です」
「貴方が仰る、『商会の新商品』とやらに興味があります。実戦の場で、見てみたいわ」
「ほう? では、貴女も?」
「ええ。私も毒竜ラスティネルの討伐に、同行します。旦那様に、かっこいいところを見せたいので」
「なっ!? マヤ!? 何を言い出すんだ!? 危険過ぎる! 絶対に、連れていかな……むぎゅ!」
カインがワーワーと反対するが、マヤは全く聞き入れない。
美ショタ様の顔面を豊かな胸の谷間に挟み込み、黙らせてしまった。
「さあ、オズウェル様。毒竜討伐に同行したいという、貴方の要望は受け入れたのです。【聖女】キアラ・ブリスコーの情報とやらを、吐いてくださいな」
「それでは、噂で聞いたことだけですが……」
オズウェルが言うには、王都でキアラの評判が下がっているという。
マヤが起こした不死者パレードによるパニック時、あまり役に立たなかったこと。
早く王宮入りして王妃教育を始めないといけないのに、のらりくらりと逃げていること。
第1王子ギルバート以外の男性にも、粉をかけていること。
これらの理由から、「将来の王妃には相応しくない」と主張する者達も多いという。
とても真っ当な主張だ。
こんなのを妻にしたら、ギルバート王子は王に――いや、王太子にすらなれないかもしれない。
「ギルバート殿下が好意を寄せておられるので、なんとか王妃候補の座には留まり続けています。しかし反対派の意見を封殺するためには、彼女自身に何らかの実績が必要でしょう」
「なるほどね。第1王子派と神聖教会が【聖女】に箔をつけるために、毒竜討伐を命じたというわけですか。実際の討伐は、辺境伯軍に丸投げするつもりなのでしょうね」
「そんなところかと。なんとも虫のいい話です。あと【聖女】様は代々、解毒魔法の使い手だからというのもあるでしょうが……。当代の【聖女】様は、魔力の鍛え方が足りないとの評判です。戦力として、アテにはできないかと」
ハッキリ言ってお荷物なのだが、王家からの命令なので無視するわけにはいかない。
「ふーむ。キアラ様の魔力不足に関しては、私の有り余る魔力を分ければ解決するとは思いますけど。私、魔法職の定番技能である【魔力譲渡】は使えますし」
ここでようやくカインが、マヤの胸から解放された。
顔が真っ赤だが、照れによるものではなく酸欠である。
「プハァッ! 死ぬかと思った。……しかし、どうやって【聖女】を同行させる? あの女、俺が首なし騎士だと思っているのだろう? 王家からの命令とはいえ、素直についてくるか?」
顎に指をかけ思案するカインに、マヤはニッコリと微笑んだ。
「ウィンサウンドの住民達から、嘘つき呼ばわりされる【聖女】を見てスッキリしました。そろそろ彼女に、真実を教えてあげてもいいでしょう」
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