第39話 吸血鬼の女王様は、死霊達の女王様からお仕置きされる
王都にある貴族屋敷の一室で、エロイーズはカタカタと震えていた。
辺境伯領にいるはずのマヤが、いきなり目の前に現れたから。
ゼロサレッキの空間魔法で、遠路はるばるワープしてきたのだ。
「さて、エロイーズ。素直に反省してお仕置きを受けるなら、罰を軽くしてあげてもいいわよ?」
マヤは空間魔法で、木製の一本鞭を取り出した。
ひと振りすると、ヒュンと風を切る物騒な音がする。
【死霊術士】様の迫力に、エロイーズだけでなく彼女の眷属達も震え上がった。
ここでエロイーズは、判断ミスを犯す。
逃亡を試みたのだ。
背中から蝙蝠のような翼を生やし、窓へと向かって走り出す。
しかし――
「どこへ行こうというのかしら?」
「あっ! うっ! ……動けませんわ!」
エロイーズは全身の自由を奪われ、硬直した。
【死霊術士】が持つ権能のひとつ、【不死者支配】である。
対象不死者の自由を奪うだけでなく、操り人形のように操ることも可能だ。
「逃亡しようとした分、罰は追加ね。壁に手をついて胸を張り、お尻を突き出しなさい」
「か……体が勝手にぃ~」
屈辱的なポーズだが、エロイーズに拒否権はない。
大きなお尻が、プリンと突き出される。
彼女のボンデージ風衣装は、臀部がTバック形状になっていた。
「貴女の服は、いいわね。お尻を剥く手間が、省けるわ」
吸血鬼の女王の尻たぶにピタピタと鞭を当てながら、眼鏡をキラリと光らせるマヤ。
どう見ても、女王様なのはマヤの方だ。
「ごめんなさい~、ご主人様~。もうしません~」
「もう、遅いわ」
マヤは勢いよく、一本鞭を振り下ろした。
パァン! という破裂音と共に鞭が食い込み、エロイーズの巨尻が波打つ。
「あひぃいい~!」と悲鳴が上がるが、マヤは2発、3発と連打していく。
エロイーズの眷属達は部屋の隅で固まり、怯えた様子でお仕置きを見守っていた。
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20分後。
マヤは椅子に座っていた。
尻を真っ赤に腫らしたエロイーズによる、人間椅子である。
吸血鬼の女王としての威厳もへったくれもない。
彼女は涙とヨダレを垂らしながら、「はあ♡ はあ♡」と喘いでいた。
どうやら途中から、お仕置きが快感になってきてしまったらしい。
本当に、どうしようもない変態である。
「それじゃ、王宮関係者の眷属化は進んでいるのね?」
「それは、滞りなく♡ 文官にも軍部にも、かなりの数の眷属がおります♡」
「宰相や将軍などの要職を、押さえていないのはなぜ?」
「だってえ~。宰相はジジイだし、将軍はブ男なんですもの。いまいち、血を吸ってやろうという気が……きゃん♡」
マヤは平手で、エロイーズの尻を打ち据えた。
「選り好みしていないで、さっさと王宮を掌握しなさい。あんまりサボっていると、もう魔力をあげないわよ?」
「ええっ!? 嫌ですわ! それだけは、ご容赦を!」
マヤからのお仕置きは楽しんでいる節があるエロイーズだが、魔力をもらえなくなるのは耐えられない。
今後は真面目に王宮への工作に取り組むことを約束し、許してもらえた。
それとエロイーズの眷属達が、マヤのことを「女王様」と呼ぶようになった。
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エロイーズへの躾が済んだマヤは、再び辺境伯領の自室へと戻ってきていた。
馬車で5日の距離も、ゼロサレッキの空間魔法でワープすれば一瞬だ。
この便利なワープ魔法だが、欠点もある。
ひとつは転移先に、配下の不死者や魔導具等の目印が必要なこと。
もうひとつが――
空間の穴から出て自室の床を踏みしめた瞬間、マヤは立ち眩みを起こしてしまった。
ゼロサレッキが慌てて異空間から出現し、白骨の手で主を抱き支える。
「やはり空間転移魔法は、莫大な魔力を消費してしまうわね。短距離ならともかく、王都までの往復はキツいわ」
『申し訳ありません。お嬢様に、多大な負担をおかけして』
「いいのよ、これくらい。いつも私のために魔法を行使してくれて、助かっているわ」
『勿体なきお言葉。……しかしお嬢様。こういう時ぐらい、ソレを外してもよろしいのでは?』
「ダメよ。ここぞという時に外さないと、面白くないわ。それにこれは、旦那様から買ってもらった品ですもの」
ゼロサレッキから指差された【魔神のエンブレム】を、マヤは愛おしそうに撫でた。




