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第三話 元の世界に変える方法がないなんて聞いてないんですけど!?

今夜はここまで。明日からは一日一話投稿を目標に頑張ります。

この世界について説明する。

それは非常にありがたい。とても助かる。何しろ右も左もわからないから。

でもさ、さすがにこれはないんじゃないんですかねぇ!?

ソファもダイニングテーブルだってある大部屋なのに、なんだって俺は固い床に正座させられてるんですかねぇ!?


「人間が私たち女神と同じ高さに座れると思っているのかしら?」


っていうベルベティの一言のせいなんだけどな。

リアナもマリエリも助け船のひとつも出してくれないし。

まあでも、足は痛いけど、これはこれで役得だったりする。なにしろ──。


「というわけなの。わかった、遊?」

「ああ、うん。わかった。ばっちり。パーフェクト」


目の前で俺に色々と説明しているリアナが椅子に座っているからだ。

おかげでリアナが身じろぎするたびに、目の前できれいに揃えられた足が堪能出来るのに加え、時折その、チラッとね、チラッと見えそうになるし。

でも仕方ない。これは不可抗力。そんなに丈の短いスカートを穿いてるリアナが悪い!


「一回の説明で理解できるなんて、遊ってば何気に頭いいのね。感心したわ」

「『何気に』は余計だ。これでも学年一桁の成績なんだぞ、俺は」


だからこそエスカレーター進学の時だって、簡単な小論文と面接だけで通過したんだ。あんまり人を舐めないで欲しい。


「それじゃあ、遊。今、私が説明したことを本当に理解できているのか確認するわ。テストよ、テスト」

「なんでだよ……」

「そっちの方が面白そうだからよ。もちろん正解したらご褒美もあげるわ」

「ほう?」


ご褒美。親や教師から言われても打算が透けて見えて、逆にやる気がなくなる言葉だが、リアナから言われるとその限りではない。何しろとびっきりに可愛い美少女だからな!

それに俺が要求するものはもう決まっている。アレしかない。


「それじゃあ、第一問。私たち三柱の女神がなんでこの神殿にいるかを答えなさい」


随分と簡単な質問だな。リアナの説明を聞いてれば誰だって答えられる。

俺がエロい太ももばかりに気を取られていたと思うなよ!?

あ、余談だが。ベルベティとマリエリはあっちで駄弁ってる。人を床に正座させといて無視とか、女神は冷たい。


「あんたら三女神がこの神殿に留まっているのは、この世界を浄化するためだ。瘴気で侵された地表を女神の力で浄化して人が住める世界にする。それがあんたらの役目、だろ?」

「正解! ちゃーんと私の説明を聞いてたみたいね。偉いわよ、遊」


この程度、ちょろいもんだ。


「それじゃあ、第二問ね。私たち三女神はどうやってこの世界を浄化しているでしょう?」


これも簡単だ。なんだったら、第一問の回答と一緒に答えられた。


「あんたらがこの世界に存在し続ければ勝手に浄化は進む。女神の、神気って言ったか? それが徐々に広がっていき、やがてはこの世界全ての瘴気が浄化されて清浄になる。だからあんたら三女神はこの神殿に留まり続けるのが重要なんだ」


わかりやすく言えば、引きこもってればそれだけで世界をひとつ救えるってことだ。

めちゃくちゃ楽だな、女神。引きこもりが正義なんて、羨ましいことこの上ない。


「またまた正解! 遊ってば出来る子なのね。それじゃあ、いよいよ最終問題ね。どうして私たち女神は三人いるのでしょうか?」


これまた簡単な問いかけだ。いいのか? こんなにあっさりと正解しちまって。


「瘴気の原因となっている魔神が一柱しかいないからだ。魔神の汚染力に対して、あんたら女神は三柱いれば浄化能力で上回れる。そうなれば放っておいても魔神の瘴気は徐々に薄まっていき、あんたらの神気で世界は浄化されるって寸法だ」


言い方は悪いが数の暴力ってことだ。一柱の魔神対三柱の女神。絶対的なアドバンテージを誇る勝ち戦。すごいよな、引きこもってるだけで勝てる戦いなんだぜ。


「大正解! うんうん。遊がしっかり話を聞いててくれて、私とっても嬉しいわ!」

「この程度で大げさだ。ちゃんと話を聞いてれば何の問題もない」


なんて、ちょっとカッコつけてみたりして。


「さて、それじゃあ全問正解したことだし、ご褒美を貰おうか」

「いいわよー。何がいいのかしら? 何でも言って。私に出来ることなら何でもしてあげる!」


ほう? 今、何でもって言ったな?

それなら、俺の望みはひとつだけだ。


「元の世界に戻してくれ」

「やだ」

「何でだよッ!? 今、『私に出来ることは何でもしてあげる』って言ってただろうがッ!? だったら戻せよ! 元の世界に! 今すぐにッ!!」

「いやでーす。せっかく異世界からの転生が成功したのに、なんですぐに戻さなきゃいけないの? もっと楽しんでからでもいいじゃない」


はっはっは。この女神。面白れぇことを言うな。


「一体この世界で、何を、どう、楽しめばいいっていうんだ!? この引きこもり女神!!」

「引き──ッ!? あ、あなたねぇ。仮にも女神である私に向かって何てことをッ」

「事実だろうがッ。転生させられた直後に言ってたよなぁ? 俺を転生させたのは『暇つぶし』だって! 引きこもりすぎてやることないんだろうがッ!!」

「そ、そんなことないわよ。私にだってやることぐらいあるわよ。あり過ぎて忙しいくらいだわ。あー、忙しい忙しい」


このッ、くそ女神が。


「大体なんでそんなに帰りたいのよ。異世界転生よ、異世界転生。私、知ってるんだからね。あなたの世界じゃ異世界転生って流行りなんでしょう? 皆したがってるんでしょう? 噂で聞いたんだからッ!」

「どこの噂だッ! なーにが、『私、知ってるんだから』だ! 人づてに聞いただけで偉そうにしてんじゃねぇッ! いいから俺を元いた世界に戻せッ!!」

「だから、どうしてそんなに帰りたいのよ?」


どうしてかって? そんなの決まってるだろうが!!


「この世界にいたら死んじまうからだよッ!!」


いつの間にか立ち上がっていた俺は、リアナの鼻先にビシッと人差し指を突き付けた。

転生直後に折られそうになった右手の人差し指だ。


「な、なにを言っているのかしら~? え、死んじゃう? 誰が? なんで? あ、そうだ。そろそろお仕事の時間だわ。ねえ、もう終わりにしましょう」


白々しくしらばっくれやがって。ネタは上がってんだよ。


「さっきの説明の中に答えはあっただろうが。それを無視して『テストよ、テスト』なんて言い始めたときは、何かと思ったけど、案の定茶番じゃないか」

「茶番なんてひどいわね。私はいつだって大真面目よ」

「余計な茶々を入れないでくれますか?」

「あ、はい。ごめんなさい」


あっさりと謝るリアナ。それぐらい今の俺はぶちギレている。怒り心頭とはこのことだ。


「まず第一に、この世界にあんたら女神しかいない理由。それは、魔神が出す瘴気の中で生きていけるのは、浄化の力を持つ女神だけだからだ。ただの人間は瘴気にあてられたら瞬く間に死んじまう。この神殿にいれば平気だって話だが、外に出れば一発アウトって言ってたよな」


得意げに色々と話してたよな、リアナ。俺には絶望しかなかったけどな!


「第二に、あんたらがこの世界の浄化を終えるのにかかる年数だ。五百年って言ってたよな。五百年って。五世紀の間、この神殿に引きこもりって、なんだよそりゃ。時間かけ過ぎだろうが」

「し、仕方ないじゃない。それが事実なんだから。大体、五百年程度で大げさ過ぎ! そんなの悠久な時の流れからすれば一瞬でしょ?」

「あんたら女神からすればな。ところが残念。俺は人間だ。そんなに長時間生きられるわけねぇだろうが」


そして俺が絶望するに至った一番の理由。それが──。


「この神殿には飲み食い出来るものが何一つとして無いってことだよッ!!」


俺、今日一の絶叫。それに対するリアナの反応は淡白なもので、


「だって、女神に食事なんて必要ないもの」


という一言のみだった。


「女神には必要なくても人間には必要なんだよ。必須なんだよ飲食は! これじゃあ五百年どころか一週間後には餓死して死んでるぞ、俺はッ!!」


俺の決死の訴えに、人差し指を顎に当て天を仰いだリアナは何かを思いついたように、パッと表情を輝かせる。


「どんまい☆」

「考えて絞り出した一言がそれかッ!?」

「あれ、違ってた? 遊がいた世界じゃこう言うんじゃないの?」


あー、すげぇなコイツ。人の神経を逆なでするプロなのか?


「アホ。アホ女神」


おっと。思わず本音が。


「アホ!? アホって何!? しかもアホ女神って!! 私は女神なのよ!?」

「知るかッ! 考えなしに行動するようなやつは総じてアホなんだよ! アホ! このアホ女神!!」

「ま、また言ったーッ!? なによ! アホって言うほうがアホなのよ! アホーッ!!」


余りの怒りに語彙力が著しく低下する俺。それに釣られてアホアホと連呼するリアナ。これが霊長類最高の知性を持つ人間と、世界を救う女神の会話だと? ただのチンパンジーじゃねぇか。


「あんたたち。さすがに見るに堪えないわよ」


と、そんなチンパンジーと化す俺たちを諫めたのは、高飛車女神ことベルベティだ。側にはマリエリもいる。


「いいじゃない。元の世界に返してあげるぐらいしてあげなさいよ、リアナ」

「ベルベティ~~~」

「様をつけなさい。人間」


女神らしい導きの一言に感極まったのに、なんだその言い草は。お前になんか一生、様付けはしてやんねーよ。……って、そろそろ小学生じみた物言いはやめねば。深呼吸だ深呼吸。心を鎮めるんだ、米枕遊。

それに、ベルベティが加勢してくれればリアナも俺を元の世界に戻す気になってくれるかもしれないしな。


「人間ひとりいようがいまいが変わりはないでしょう? むしろ私としては静かになって万々歳なのよね。人間ってよりは猿みたいにうるさいし」


おい。


「いいじゃないですか。私は遊君に一緒にいて欲しいんですけど」

「こじれるからやめなさい、そういうこと言うのは。ほら、リアナ。いいでしょう?」

「やだ」

「あんたねぇ。何をそんなに意地張ってるのよ」

「……」


呆れたように見つめるベルベティの視線から、プイっとそっぽを向くリアナ。なんだよ、その反応。都合が悪くなった子どもみたいな。


「あ」

「マリエリ? どうしたのよ」

「ベティちゃん、もしかして……」


マリエリがゴニョニョとベルベティに耳打ちする。

え、なんでそこだけで会話してんの。俺にも教えてくれ。一大事なんだから。


「……え、そういうことなの?」

「多分ですけど。だからリアちゃんも意固地になってるんだと思いますよ」

「はあー」


え、え。何その大きなため息。不安になるからそういうことしないで欲しいんですけど!?


「リアナ。正直に答えなさい。あんた、この人間を元の世界に戻す方法を知らないわね?」


は?


「この世界に転生させることは出来たけれど、元の世界に戻すことは出来ない。それを知られるとカッコ悪いから、黙ってるのね。違う?」

「いや、いやいやいや。待って。え、マジで言ってる?」

「人間はちょっと黙ってなさい」


いやいや。これは黙ってられないでしょ。だって、元の世界に帰れるかどうかの瀬戸際だよ?


「どうなの、リアナ。知ってるの? 知らないの?」


緊張の一瞬。リアナの次の一言が、俺の運命を決定づける。


「知らない。遊を元の世界に戻す方法なんて、私知らないの──ッ」


涙ながらに訴えれば許されるわけじゃねぇんだぞ、アホ女神。


「どうしてくれんだよぉおおおおおおおッ!!!!!!」


今日一の絶叫記録を更新した瞬間だった。


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