第二話 女神へのラッキースケベって、罰は当たらないよな!?
今夜は三話までまとめて投稿します。
「異世界から転生させたッ!? バカなのッ!?」
「リアちゃんですし、バカなんだと思います」
「何よ何よ。二人して人のことをバカ呼ばわりしないで頂戴」
リアナに連れられた先には、リアナに負けず劣らずの美女と美少女が待っていた。
「バカ以外の形容があるとは思えないのだけれど? 全く。あなたは相変わらずそういうところが自由奔放なのよ。どうするのよ、一体」
「私は知りませんからね。リアちゃんが自分で責任を取ってください」
「言われるまでもないわ。彼のことは私がきちんとするもの」
それ、売り言葉に買い言葉じゃないか?
本当にどうにかしてくれるんだろうな?
「『彼』、ねえ。あなた、名前はなんて言うのかしら」
うわ、美女がこっち見た。そんなに見つめられると緊張するんで、ちょっと視線逸らしてくれません?
「米枕遊、です」
思わず敬語。でも仕方ない。俺の十七年ぽっちの人生で、こんなに美人な人たちに囲まれた経験なんかないんだから。
「そう。ねえ、あなた。私たちが何なのか分かってるの?」
「女神って聞きました。リアナから」
リアナの部屋からこの大部屋に歩いてくる道すがら、そう聞いた。あと、二人女神がいるって。きっと彼女たちがそうなんだろう。
しかし、この大部屋もそうだけど、廊下まで含めて豪華さが半端じゃない。アニメやゲームに出てくる神殿みたいな荘厳さだ。庶民な俺には、ちょっと居心地が悪い。
「女神を前にしてるって自覚はあるのね」
まだ、『自称』の可能性は捨てきってないけどな。いつ、どこから『ドッキリ』って書かれたプラカードが出てくるかもわからないし。……俺にドッキリを仕掛けて何の意味が? って疑問もあるけど。
「あの、いいですか?」
「何かしら?」
「名前を教えてもらえませんか?」
ただでさえ居心地が悪い空間にいるのだ。せめて目の前にいるのが、どこの誰なのかぐらいは知っておきたい。
「女神である私に名前を言えと? 随分不敬なのね、あなた」
「女神だって偉そうにするなら、名前ぐらい名乗ってもいいんじゃないですか?」
あ、と。言った後に後悔する。
なんか目の前にいる美人が呆気にとられた表情をしている。ヤバい。怒らせた?
「ふ、ふふふ。まさか女神である私に口答えするなんて。随分と生意気ね、人間」
……怒ってるね。怒ってるよね、これは。
え、どうなるんだろ、俺。神の怒りから連想できるのなんて、雷を落とされて真っ黒こげとか、そんなのしかないぞ!? いや、マジで? 俺、死ぬ?
「マリエリって言います」
「うわっ!?」
いきなり背後から抱き着かないでくれない!?
思わず前のめりに転びそうにって、何この手のひらに感じる柔らかい感触は?
「……不敬ね」
「……不可抗力では?」
なんて抗弁は意味なさそー。っていうか、何この気持ちよさ。おっぱいってこんな感触なの!? 新感覚!!
「……不可抗力って言いつつ揉んでいるのは、どうしてなのかしら?」
「あー、それは男の本能ですね。はい」
「人生最後のセリフにしては、随分と低俗ね」
あ、ヤバ。マジで死ぬ。
と、本気で死を悟った瞬間だった。
「ベティちゃんはどうしてそんなに怒りっぽいんですか?」
俺の背後から甘ったるい声が聞こえてきた。
「マリエリ。その呼び方は嫌いって言ってるでしょう。私の名前はベルベティよ」
その声に気を取られたのか、正面でお怒りなさっていたベルベティと名乗った女神様が俺から視線を逸らす。
やべぇ。マジで殺されるかと思った。
「いいじゃないですかぁ男の子はちょっと生意気なぐらいが可愛いですよ」
「私は身の程を弁えろって言ってるだけよ」
いや、間違いなく殺そうとしましたよね、俺のことを。勘弁してくれ。
「ところで。あなたはいつまで私の胸に抱き着いてるつもりなのかしら? 本当に死にたいの?」
「だから不可抗力だって! 後ろから押されて、どうしようもないんだよ!!」
「そんな人のせいみたいに言わないでくださいよ」
「明らかにあんたのせいだろ!?」
これだけグイグイ押してるのにしらばっくれるとか、無理だからな!?
「ちょっと。二人だけで楽しまないで頂戴。遊は私が転生させたのよ?」
なんで所有権を主張してんですかねぇッ!?
もとをただせば、あんたが転生させたからこんなことになってるんだぞ!?
「……鬱陶しいわね」
ああ、ほら。リアナまでしがみついてくるから、ベルベティのイライラが加速してるじゃないか!
「女神に囲まれて、役得ですね」
「耳元で囁くな!」
いきなりこんな状況に陥って興奮なんかするわけないだろ!? 普通に混乱してるってのッ!!
「マリエリ。離れて頂戴。遊は私のものなのよ」
「俺は誰のものでもないから!!」
「これから私のものになりましょうよ」
「ならない!!」
「いいからッ、離れなさいッ!!」
「うお!?」
グイ、と何かに持ち上げられた感触がしたかと思えば、次の瞬間には吹き飛ばされていた。
って、待て待て! このままじゃ壁に叩きつけられる!!
「危ないですよ」
「うわ!?」
さらに引っ張られる感触、と思いきや予想していた叩きつけられる衝撃は来なかった。
「大丈夫ですか?」
「あ、うん」
気づけば俺はマリエリと呼ばれた女神に抱きかかえられていた。正確にはお姫様抱っこ。腹におっぱいが乗ってる気がするのは、うん、気のせいってことにしておこう。
「立てますか?」
「大丈夫。ありがとう」
「いいんですよ。久しぶりの男の子ですし、簡単に死なれちゃ困りますからね」
そう言いつつ床に下ろしてもらって、彼女が随分と小さいことに気づいた。150cmもないんじゃないだろうか。その割にはその、おっぱいはめちゃくちゃデカいけど……。
「どうしましたか?」
「い、いや。何でもない」
胸元から慌てて顔へと視線を移す。
すっげぇ、美少女がそこにいた。
いや、マジですげぇ。リアナにも全然引けを取らない。
ふわふわと揺れるピンク色の髪に、おっとりと輝く緑色の瞳。髪の量が多いからだろうか、全体的に柔らかそうな印象を抱かせる。いや、決しておっぱいが大きいからとかではなく。なんて言うか、女の子って感じだ。
「人間。マリエリを下劣な眼差しで見てるんじゃないわよ」
「誰が下劣だ!?」
「あんたよあんた。今この場にあんた以外の人間はいないじゃない」
なんか、言葉使いが雑になってない?
さっきまでは『あなた』って呼ばれてたのに、今は『あんた』になってるし。
「何よ。何か言いたいことでもあるのかしら?」
どこまでも高飛車に、しかしその言い草がベルベティには妙にハマっている。
嫌味な性格だけど、見た目だけならリアナやマリエリともタメを張れる。ぶっちゃけ、めちゃくちゃ美人だ。
オリーブオイルみたいな透き通った金髪に、力強く輝く紫色の瞳。リアナの活発さや、マリエリの柔らかさとはまた違った印象を与える、メリハリの利いたカッコいいプロポーション。モデルみたいって形容は彼女のためにあるんじゃないかと思わせる、そんな美女だ。
「代償は寿命ね」
「何の!?」
「私を見つめる代償に決まっているでしょう? 普通なら人間が目にしていいものじゃないの。あんた程度の寿命でその代償になるんだから、安いものでしょ」
「悪魔じゃん。どこが女神だよ」
自己認識を改めた方がいいと思う。とんだ錯誤だ。
「もしかして自己紹介が済んだ?」
なんて呑気に言いながら割り込んでくるのはリアナだ。
さっきから思ってたけど、マイペース過ぎない?
「ということで、ベルベティにマリエリ、そして私リアナが、この世界に存在する三柱の女神。よろしくね、遊」
いや、よろしくねって言われても……。こっちはまるで状況の理解が進んでないんですが。
「それじゃあ次は、私たちがいる世界について話してあげる! テストにも出るから、よーく聞いててね!」
「あ、はい」
ちくしょう。あんなに可愛くウインクされたら頷くしかないじゃないか。




