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異世界の友達


図書館でわかった事は……

何百年も前にわたしと同じようにこの世界に放り出された人が居た事。

その人は元の世界に帰る術を作ったけれど女神に取り上げられた事。

結局その人は元の世界には帰る事が出来なかった事。

もしかしたら風の民もわたしと同じ世界から送られて来た人たちかも知れない事。


「だから明日、風の村に行く事に」

「明日!? 急すぎないか?」

「レッドさんが明日休みで、ロナントさんも休暇中みたいで……」

「確かにおじい様とおばあ様が居れば安心だけど……」


出来れば早く行っておきたい。

早く帰る方法を見つけないと……今でも不安で悲しい気持ちになる。


「予定では一泊してくるから。待ってて」

「俺も……一緒に行きたいんだけど……ダメだろうな……」


ロアは離れた場所で話すレッドを見遣った。

勝手に長期休暇を取って色々な人に怒られている上にレッドが居るのでは難しいだろう。


「すぐに帰って来るから」

「心配だ」

「何が心配なの?」

「おじい様もいるし……」


旅の道中よりもそっちの方が心配か。

わたしはロアに信用されてないな……


「ロア」


ぐい、とロアの袖を引っ張る。


「わたし、ちゃんとロアの事好きだから。一番好きだから」


意を決した告白だったのに、ロアの眉が寄る。とても不服そうに。

……あれ? 何か間違えただろうか?


「どうしたのロア」

「いや、その……不満に思って」


不満? ロアの顔を覗き込んで首を傾げる。

ロアはますます眉を寄せる。


「俺達……両思いなのに付き合ってすらない、と知らしめられたと言うか……」

「付き合っては無い、ね」

「なんで? 両思いなのに。すげぇ不満」


今までのロアの嫉妬は、わたしと恋人関係でも何でもなかったから顔に出たり行動に出たりしてたのかな。付き合うようになれば落ち着くような気がしてきた。

でもわたしが、首を縦に振るつもりが無い事をロアは良く知っている。


「ごめんねロア」

「謝んなよ」

「約束だから、ね?」

「言われなくても、約束を忘れる事は無い」


頬を撫でられた後、俯いた。

そう言えば好きになった人と両思いになれた事、今まで一度も無かった。

わたしは向こうに帰った後、ロアの事を忘れて恋愛をする事が出来るのだろうか?


「すぐ帰って来るから。待っててね」

「……分かった。大人しく待ってるよ」


ロアに体を寄せて、少しだけ甘えてみた。

抱き寄せられたけど、抵抗しなかった。

見つめあって笑いあってみたりした。

やっぱりわたしはロアと一緒に居るのが落ち着く。


「ミツキ!」


ロアと遊んで居ると、ミレイラが走り寄って来た。

手にはお皿を抱えている。何だろう?


「シェフに頼んでパンケーキを作ってもらったの!」


ロアから離れて、お皿の中の物を見せてもらった。

形と色は良く似ている。上には蜂蜜と生クリームが添えてあった。

とても美味しそうでよだれが出た。


「食べて! 本場の味と違っていたら教えてミツキ!」

「うん……じゃあ、いただきます」


作りたてのようでまだほかほかと湯気が出ているそれをフォークで切り分ける。

少し薄いかな? 子供の頃、家でお母さんが作ったホットケーキに似てる。

蜂蜜をたっぷり付けて、頬張った。


「美味しい」

「本当?」

「うん、とても」


お店のふわふわとはいかないが、家で作った物に似ている。

ミレイラに言った作り方も、家で作るレシピだった。ふわふわの作り方が分からない。


「お店のはふわふわしてるんだけど、作り方が分からないや」

「ふわふわって言うのは、パンケーキが?」

「うん。これは家で作った時と似てる」


ふわふわのパンケーキ。と呟いてミレイラは首を傾げた。

ロアが興味深そうに見ていたので、もう一つないのか聞くとセレナが厨房に取りに行ってくれるようだった。


「興味あるの?」

「ミツキの事だったら何でも興味あるよ」

「ふふっ、何でも?」


飲み物を飲みながら、パンケーキを食べた。うん、懐かしい味だ。

帰ったら弟と一緒に焼いて蜂蜜かけて食べたいな。


「ロア様、ミレイラ様、お持ちいたしました」


セレナがおぼんにパンケーキを載せて帰って来た。

ミレイラは厨房でつまみ食いをしていたらしく、味は知っていた。


「簡単なんだけど美味しいわね!」

「酸っぱい果物とか載せると良いよ」

「ミツキのオススメなら今度試してみるわ!」


とても美味しそうに食べるミレイラは、わたしと同じで甘い物が好きなのかもしれない。

ロアも食べ始めた。


「美味しい?」

「うん。パンケーキ? 自体にあんまり味が無いから野菜とか載せて食べるのもいけそう」

「おかずパンケーキだね! 美味しいよ!」


でもそうなるとわたしはクレープとかでシーチキンとかと一緒に巻いて食べたい。

この世界にクレープはあるのだろうか?


「ミレイラ、何を食べてるんだ?」


遠い所からルクスが話しかけてきた。

ロア対策かな。実際睨まれてて怖いし。


「まあお兄様。パンケーキですわ」

「へえ。俺の分ある?」


セレナが余っていたパンケーキをルクスに渡した。

一口食べて、何度か頷いていた。


「簡単だけど美味しいデザートだね」

「ミツキの世界の食べ物ですわ! 本当はもっとふわふわらしいの!」

「ふわふわ? ふぅん」


ルクスの舌にも合ったみたいで、ほっとした。

一息ついて、飲み物を飲んでいるとミレイラに両手を掴まれた。


「ねえミツキ。パンケーキすっごく美味しかったわ」

「そう? 良かった、気に入ってもらえて」

「あの……それで……ミツキ……」


ミレイラがモジモジし始めた。

首を傾げて様子を見ていると、ミレイラは大声で叫んだ。


「わたくしとお友達になって下さる!?」

「えっ」

「わたくし、ちゃんとした友人が居ないの。ミツキとなら仲良くなれると思って!」


ミレイラとわたしが友達に?

戸惑いながら、思わずロアの方を見た。


「良いんじゃないか? ミレイラは気の良い奴だよ。表裏無いから付き合いやすい」

「でも……わたし、家に……」

「ならこっちに居る間は友達になっておけばいいだろ?」


わたしはもうすぐ家に帰るかもしれないけど……

ミレイラはとても真剣な表情でわたしを見つめてくる。

断わるのも申し訳ないような気がしてきて、


「うん、分かった」

「ありがとうミツキ! わたくしの事はミレイラって呼んで良いわ!」

「よろしくねミレイラ。今日から友達だね」


ぎゅっと手を握って来たミレイラに頬笑んだ。

異世界での初めての友達にわたしも楽しい気持ちになる。


「良かったなミレイラ。ちゃんとした友達が出来て」

「ええ! お兄様もミツキと友達になります?」

「俺は……やめておくよ……」


ロアがわたしの後ろで睨みを利かせている。

下手に近付いたら命を刈り取られそうだ。死神かな?


「ロア、少し付き合ってくれないか?」

「俺は男色じゃない」

「お前のその話はトラウマレベルだから話題に出さないでくれ。鳥肌が立つ」


ルクスは両腕をさすった。鳥肌をなだめているようだった。

男色の貴族に迫られた話、確か聞いたな……途中で話題を変えちゃったけど。


「その付き合うじゃなくて! 食後の運動に付き合ってくれないか?」

「食後の? 何をするんだ?」

「手合せ、そこの庭で。少し食べ過ぎてさ」


ルクスはお腹をさすりながら庭を見遣った。

ロアは乗り気なようで、楽しそうな表情をしていた。


「剣は持ってきたのか?」

「馬車に載ってる。着替えは無いから攻撃魔法は無しが良い」

「剣術のみな。分かった」


話し終わるとルクスは会場を出て行った。剣を取りに行ったようだ。

ロアに思わず、パーティをほったらかして大丈夫なのか聞くと、


「親同士が勝手に集まって話してるだけだから。何時も子供も好き勝手してるんだ」


と言うので、ミレイラの様子を窺うと今から始まるロアとルクスの手合せに興奮気味だった。

ミレイラの話によると、二人の手合せを見るのは本当に久しぶりらしい。


「ロア様を応援致しますわ!」

「兄を応援してやれよ……」

「じゃあ、わたしがルクスさんを……」

「なんでそうなるんだよ」


声を荒らげたロアに少し笑って、後に続いた。

そう言えば

外はすっかり暗く、明かりもないけど大丈夫なのかな?

疑問に思って聞くと、魔法で明かりを灯すから平気らしい。

パーティ会場から直接庭に行けるようで、剣を取りに行ったロアより先に外に出た。

優しい風が火照った体を冷やしてくれる。

そう言えば、さっきから頬が熱い。なんだろう?

セレナが気を使って飲み物だけ持って来てくれた。


「椅子をお持ちいたします」

「ありがとう」


持って来てくれた椅子にミレイラと一緒に腰掛けた。


「ミツキはロア様を応援するの?」

「うん。応援しないと何言われるか分からないし……」

「仕方ないからわたくしはお兄様を応援しようかしら」


仕方ないから応援するって……応援されてる側は虚しい気がする……

ミレイラと楽しくお話ししながらロアとルクスを待った。


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