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陛下の我が儘


そう言えば、ロゼがまだ帰って来てない。

早く帰るって言っていたらしいが……

すると、玄関の扉が開いた。

最初に入って来たのは、レッドだ。続いてロナントが入ってくる。


「レッドさん、ロナントさん、お待ちしてました」

「こんばんは、ミツキ。ドレス良く似合ってるよ。なあロナント」

「そうだな。ミツキには可愛い方が良く似合う」


笑顔の二人に照れつつお礼を言った。

すでに他の出席者、レンとライトの家族が来ている事を告げた。

ロアの姉であるロザリアが来られない事と……陛下が来ている事。

レッドが目をまんまるにして驚いた。


「陛下が?」

「はい……」

「そうか、それで……」


二人は妙に納得した顔で頷きあっていた。

何かあったのだろうか? 聞くとロナントが教えてくれた。


「屋敷周りの警備が厳重になっていたんだ」


なんでも屋敷の周りを騎士隊が囲んでいて、入るのにも身分証明を求められたとか。

もちろん二人は顔パスだったようだが、敷地内の森にも何十人もの人の気配がしたそうで、そこまで厳重にする理由が分からなかったようだ。


「1番隊の連中が多かったけど、ロナントは警備の事知ってた?」

「いや……今休暇中というのもあるだろうけど……急に決まった事ではないか?」

「おれの所に話は無かったなあ。あそこに居たのも1、2番隊の連中だったし」


まあいいか、とレッドは呟き、ロナントの手を引く。


「ロザリアが居ないのは残念だけど、今日は楽しもう?」

「ああ、そうだな」


玄関に控えていたメイドの一人が二人を案内する為に先導する。

その時、再び玄関が開いた。

非常に疲れた表情を浮かべたロゼが帰って来た。


「ロゼさん、お帰りなさい」

「ああ……ミツキか……今帰った……」


何故かぐったりとしているロゼにまだ近くに居たレッドが声をかける。


「ロゼ? どうしたの?」

「はあ~……」


レッドとロナントは重たい溜息を吐いた息子が気になったのか、引き返しロゼの言葉を待つ。

わたしも少し心配しながら様子を窺う。


「陛下が……」


それだけで二人は察したらしい。

まずロナントが息子を労った。


「警備の指揮をしていたのはお前か」

「はい……そうです……」

「ご苦労だったな」

「……陛下も事前に伝えて下されば良かったのですけど……なにせ急で……」


どうやらロゼはレッドとロナントが言っていたグラスバルト家の厳重な警備の指揮をしていたようだ。

陛下がレンと一緒にグラスバルト邸に来る事が決まったのは、なんと直前の昼過ぎだったそうだ。

慌てて警備隊を編成し、敷地の見取り図を出し騎士を何処に配置するか決め宰相……もといニックバルトに提出した。

しかし……


「ニックバルトは口うるさくて……警備にあれこれ口を出すんです。西側の警備が甘いとか、庭に騎士を配置しろとか……はあ」


結局、西側の警備は強化したが、庭に騎士を配置する事は拒否したそうだ。

折角のパーティなのに、見張られている感じがして嫌だと。

それに、パーティの参加者には騎士隊に所属している面々が揃っている。

元帥であるロゼ、前元帥であるロナント、3番隊教官のレッド、3番隊隊長のライトなどなど。陛下を守るには十分な面子だろう。


「それに、姉上が傍にいるだろうし……」

「レンさん、お強いんですか?」

「ああ、そうかミツキは知らないよな」


ロゼが疲れ切った声で話し始める。

レンは予想通り最高位魔力保持者で、レッドが身を守るために剣を教えようとしたがロナントが却下。娘を戦闘狂のレッドみたいにしたくなかったらしい。

そこでロナントに隠れてナイフをレッドから教わったそうだ。

純粋なナイフ対決ならば弟のロゼもライトも敵わない。1番隊の騎士とそう変わらない実力を持っているらしい。

詳しくは教えてくれなかったが、陛下が危ない状況になった事があるらしくナイフ片手にレンが救ったそうだ。


「格好良いお姉さんなんですね」

「陛下を救った実績だけ見れば、な」


含みがある言い方に首を傾げる。

ロゼはそのまま自室に向かって行った。着替えるようだ。

ロゼが帰って来た事によって、参加者が揃った事になる。

わたしもロナントとレッドと共に会場に向かう事にした。


「ねーミツキ」

「はい。なんでしょうか、レッドさん」

「明日、風の村に行くでしょ? 長い事馬に乗るから大丈夫かなと思って」


明日、レッドとロナントと一緒に風の村に行く。

風馬に乗るんだっけ。ロアとの旅のお陰で、馬には長い事乗っていた経験はある。


「一応ロアとの旅で普通の馬には乗った事があります」

「そっか。なら大丈夫かな。予定ではね」


予定では、風馬二匹で行くようだ。

移動式の風の村が今何処にあるのか不明だが、風馬を使えば遅くても午前中には着くようだ。


「突然行っても大丈夫なんですか……?」

「うん、平気。村長と知り合いだから」


確か風の民って女性でも魔力を持っているのが普通だから、良く攫われてアークバルトとは距離を置いているんじゃなかったっけ。

レッドは村出身じゃないけど、風の民だから大丈夫なのかな。

明日へ向けた話をしていると、大広間に着いた。

両開きの扉をセレナが開けて中に入った。

広い空間に大きなシャンデリア。机に料理がすでに並んでおり、参加者同士楽しく話をしていた。立食式と聞いていた通り、椅子は机近くには無いが少し離れた壁の近くに何脚か置いてあった。

ロアは何処だろう? 視線を彷徨わせると、ミレイラと一緒に居て話をしているようだった。


「どうしたいのかわたくしには理解が出来ませんわ!」

「だから、察せよ」

「意味が分かりません!」


ロアと目が合った。喚くミレイラの腕を掴んで部屋の端の方に行ってしまった。

分かりやすく避けられたようだ。少し傷つく。

ロアとミレイラが並んで立っている所を見て、わたしよりもお似合いなような気がしてもっと傷つく。

余計な事を考えてしまった……

でも、この世界だと従兄弟は結婚できないってルクスが言っていたし……

日本だと兄弟は駄目だけど従兄弟は結婚できたんだっけ? うろ覚えだけど。


「お父様! お母様!」


ロナントとレッドに気が付いて娘のレンが笑顔で近付く。

本当に嬉しそうだ。


「レン! 数日振り!」

「はいお母様。お父様とはずいぶん会っていませんでしたから寂しかったですわ」

「俺も寂しかったよレン。元気そうで何よりだ」


ロナントが優しい目でレンを見つめる。

それに気が付いたレッドが溜息を吐いた。


「レンに対して優しすぎるよねー。何時もの事だけど」

「………」


本当に何時もの事なのか、レンはくすくす笑った。

三人が楽しそうに話し始めたのでそっとその場を離れる。

ロアは……避けられているし……どうしようか……


「ミツキさん? お一人ですか?」

「ナタリアさん……」


メイドを数人引きつれたナタリアがガラスのコップを差し出して来た。

受け取ると、どの飲み物が良いのか聞かれたので朝食で良く出てくるオレンジジュースのようなものにしておいた。

この世界ではアルコールは18歳からみたいだ。

とは言っても最高位の魔力を持った人間にアルコールは効かないらしい。

つねに自己治癒能力が働くからだとナタリアが教えてくれた。


「そう言えば、ロゼさんが帰ってきましたよ」

「まあ、遅かったわね……」

「何でも陛下の事で遅くなったみたいで……」


簡単に説明すると、ナタリアは納得したようでロゼの着替えの手伝いに行くようだった。

見送った後、もう一度ロアの方を見た。

ミレイラを説教……と言うか諭しているような雰囲気だった。

まだ近付かない方が良さそうだ。


「あ、ミツキさん」


会場をふらふらしていた所、ルクスに声をかけられた。

ルクスはすでにお皿とフォークを持って美味しそうに何かを食べていた。


「ロアは?」

「ロアは……」


視線を向ける。まだ話しているようだった。

ルクスは色々と察したようで、ひとまずお皿とフォークを机に置いた。


「ごめん。妹は察しも悪いし勘も良くないから、一から十まで聞かないと理解できないんだ」

「何を話しているんでしょうか……」


思っていたよりも元気のない声が出てしまい、ルクスを心配させてしまったようだ。


「ミツキさんの事を話しているんだと思う」

「……わたしの?」

「ロアがミツキさんの事をどう扱うのか、言ってしまえば恋人なのか婚約者なのか結婚するのかだけど」


全部同じ意味に聞こえるのはわたしだけだろうか。

わたしはロアの恋人でも婚約者でもない。結婚なんて無理な話で……

ふと、この世界から帰れないかも知れないと頭に浮かび頭を振った。

そんな事無い、そんな事……


「ミツキさん大丈夫? 顔色悪いよ?」

「だいじょうぶ、です」

「少し休もうか。椅子に座ろう?」


ルクスが手を差し伸べて来たので思わずその手を取った。

とっても優しく誘導されて、壁付近に置いてあるソファーに座った。

ソファーは二人掛けで、フカフカして心地よかった。


「置いてきた飲み物取って来る」

「すみません……」

「少し休んでて」


置いて来てしまったオレンジジュースをルクスが取って来てくれるようだった。

溜息を吐いた。わたし、何やってるのか……楽しい雰囲気を壊してしまっているではないか。


「帰れなかったら、どうしよう……」


もしもの事を考えた。

そんな事考えたくないと脳が拒否し、何も考えられなかった。

ルクスが飲み物を持って帰って来た。

気を紛らわそうと、話をする事にした。


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