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からくり技師


席に着いて、朝食を食べ始めた。

ロナントとレッドは隣の席で楽しそうに話しながら食事をしていた。

レッドもロナントの事が好きだって言っていたけど、本当のようだ。

部屋にはナタリアは居なかった。聞くと今日は家族パーティなので体調を万全にするため部屋で取ったそうだ。昨日よりも元気で無事に参加出来そうだと聞いて安堵した。

わたしもロアと時々話しながら食事を取った。

今日もロアとレッドは仕事。ロナントは報告が終われば数日間休暇のようだった。


「行って来た国はどうだったの?」


あまり他国に行った経験がないレッドが興味津々そうに聞くと、ロナントは難しい顔をした。

何かあったのだろうか。


「非常に横柄な態度で、気分を害したよ。全く……話し合いを持ちかけて来たのはあちらだろうに」


アークバルトは神様に見守られた広大で豊かな祝福された土地を持つ国だ。

同じようにアーク神の祝福が欲しい痩せた土地の国がいくつもある。

今回ロナントが行って来た国もまさに痩せた土地で祝福が欲しいと喘いでいた。

しかし、その国はアークバルトの一部になる事を拒否した。祝福だけが欲しいと言って来たのだ。

土地を豊かにするためには、陛下が心から我が国の領土と認識した場所で無いといけないと説明するが、その国は、いやその国の王族は祝福だけをよこせと繰り返した。

その国の事だが、行く前に調べていた。

あまり裕福で無いのにも関わらず、一部の貴族や王家は贅沢をして国として立ち行かなくなっているようだった。

戦争を起こして他の弱小国を蹂躙しようと考えるが、周りの国は軒並みアークバルトと同盟を結んでおり、小国を攻め滅ぼした所で次に大国に出てこられたらひとたまりも無い。

そこで、贅沢はしばらく我慢して神の祝福を授かり豊かになろうと考えたらしい。

しかし説明に現れたロナントに、アークバルトの一部になる、この国の貴族や王族は権限を失うと知り半狂乱した、と言う事らしい。


「それ……最後どうなったんだ?」

「収集つかなくなってな。最後は兵士差し向けられて……」


その国の王に、戦争を起こすのかと問うと、お前達を人質に取ってアークバルトとの取引材料にする、と言ったらしくこれは我が国への宣戦布告と取ったロナントは、逆にその城を制圧。

アークバルトの一部になる署名を書かせ、危険分子と判断したため1番隊の騎士を何人か置いてきたようだった。


「後の判断は王家とニックバルトに委ねるだけだ」


置いて来てしまった騎士に応援を派遣するか、少し悩んでいた。

正直、あの国には戦力と言える存在が居なかった。

高位魔力保持者、一人いれば十分だった。


「その国には魔力の高い人が居ないのですか?」


気になって質問すると、神の加護の影響かアークバルトにしか最高位、高位の魔力を持った人間はほとんどいないとロナントが教えてくれた。

だから誰もアークバルトには逆らえないと。


「だがアークバルトが戦争ばかり行う国になったならば、アーク様は離れて行くだろう」


ロナントは確信を持ってそう言った。

豊かで平和な国、アークバルト。その豊かさのおこぼれにあずかりたい国は多そうだ。

食事を終えて、三人は一度仕事に行くようだった。


「そうだ、ミツキ」


ロナントに話しかけられ、なんだろうと耳を傾ける。


「報告が終わったら暇になるんだ。聞きたい事があれば聞くが」


そう言えば、旅の目的はロナントに色々と聞く事だった。

わたしは早速、異世界について知っている事は無いか聞いてみた。


「異世界? 空想上の世界では無く?」

「はい……わたし、元の世界に帰りたくて……」

「どんな世界か教えてもらえるか?」

「分かりました」


この世界よりも科学技術が発達していて、アスファルトに車、高層ビルが多く立ち並ぶ都心。便利な世界に生活だった。

ただ魔法と言う概念は無く、多くのエネルギー源として電気が使われている事を告げた。


「魔法の無い世界……科学技術の発達……」

「思いつく事がありますか?」

「そうだな……カジノスケ・モリ、と言う人物は知っているか?」


モリ カジノスケ さん?

突然飛び出した日本人ぽい名前に驚いていると、ロナントは続けて


「今から……200年前の謎の人物で、突然この王都に現れたんだ。自身をからくり技師と名乗っていた。アークバルトでは魔法具開発に尽力したとしてその界隈では有名な人物だ」

「あ……の」


声をかけると、ロナントの視線が注がれた。


「知らない人ですけど、同じ国の人の可能性がある気がします……」


自分の本名が、河野 美月であると告げ、名前の響きから同郷である可能性が高い事を言うと、


「一度調べてみる価値はありそうだ。今日、図書館に行ってみないか?」

「はい! 行きたいです」


言いながら、ロアの様子を盗み見る。

無表情だった。

今はそれが怖くて仕方ない。


「ロア……図書館行って良いかな……?」


外出するのにロアの許可が必要だった事を思い出し、恐る恐る聞いてみると、感情の見えない顔のままニコリと笑った。

まださっきの事を引きずっているようだ。

別に浮気をしたわけでもないし、そもそもロアと恋人関係でもないのだけど……そう言ったら事態が悪化しそうだから言わない。


「なら、俺も……」

「何言ってんだロア! お前にしばらく休暇は無い!」


レッドにぴしゃりと言われ、ロアの笑顔がまた深まって行く。

ずっと騎士隊を休んでたから、しばらく休みがないのか。


「じゃあダメ」

「えっ!?」

「ミツキすぐどっかに行っちゃうから、心配で」


その心配で、の言い方がロナントと被る。

ロアは祖父……ロナント似なのか……?

そこで事態を察したロナントが溜息を吐いた。


「俺が居るから問題ないだろう」

「おじ……さま、が……」

「ロア、お前が心配するような事は何も起きない。今更若い女を相手にする気力もない。レッドだけで手いっぱいだ」


ロアはしばらくロナントを見つめていた。

レッドは会話の意味が分からず首を何度も捻っていた。

最終的にロアは折れた。

ごねても仕方ない事を察したようだ。


「はあ……ミツキ」

「なに?」

「気を付けて行って来い。おじい様と一緒だから万が一なんて無いだろうけど」

「うん。ありがとう」

「目立つような行動は厳禁だからな。後ちゃんと帽子被って眼を隠すんだぞ。それから危ない人には近寄らないように。それと……」


母親のような忠告を言い続けるロア。

わたしはそんなに信用が無いのだろうか。少し悲しい。

その様子を見ていたレッドがうげえ、と顔を歪めた。


「ロア! そのぐらいにしろ!」

「なんです? まだ言いたい事が……」

「やってる事がいちいちロナントと被るんだよ! 長く家を空ける時のロナントみたいだぞ、お前」


どうやらレッドは出張になった今回、ロナントに母親のような小言を言われたようだった。

色々言うのは心配の表れなんだろうけど……


「ほら行くぞー」

「ちょっ、おばあ様! まだミツキに話が……」

「心配なのは分かるけど、ミツキにも考える時間を与えようなー」


首根っこ掴まれて、ロアが引きずられて行く。

もがいていたが、レッドをどうする事も出来ない様子だった。


「ロア、行ってらっしゃい。心配ありがとう」


笑顔で言うと、ロアの動きが止まった。

無抵抗のロアをレッドが連れて行く。扉を開けて、出て行く瞬間。


「うん……行ってきます……」


バタン、と勢い良く扉が閉まった。

部屋に残ったわたしは、ロナントを見遣る。

ぱっちりと目が合った。


「若いな」


一言、そう言って、飲み残していたコーヒーを飲んでいた。

どう言う意味だろうか。


「すみません、ロアが……その……」

「意中の女性を他の男と一緒に居させたくなかったのだろう。例え近親者だとしても……男として正常な判断だ」

「は、はあ……」


わたしには良く分からないが、正常な判断らしい。

自分の祖父に嫉妬するかな? 本人は妻一筋だって言ってるのに……

確かに見た目は若いけどさ……

グラスバルト男性にしか通じない感覚なのかな……


「さて、俺も行って来る」


コーヒーを飲み終え、ロナントは席を立った。


「報告を終えたらまた戻ってくる」

「はい、準備して待ってます」


ロナントを見送り、わたしも立ち上がった。

そう言えば帽子……取られちゃってそのままだった。

予備でもう一つあったはずだから、ロアの部屋に取りに行こうかな。

ようやく情報らしい情報を手に入れて、先行きが明るい。

わたしは家に帰るんだ。

あともう少し……頑張るぞ。


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