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間違えました


トントントン


規則正しいノックの音で目が覚めた。

外にはすでに太陽が顔を出して、朝の訪れを告げている。

もう朝か。ノックしているのはセレナかサラのどちらかだろう。


「うぅ……ん」


隣で苦しそうな呻き声が聞こえた。

ロアがレッドに腕を捻られて痛そうに呻いていた。

いつの間にかロアがベッドの中心に来ていたようだ。

レッドは熟睡中のようで、ロアを折檻しつつよだれを垂らしてむにゃむにゃしている。


トントントン


そうこうしている間にもう一度ノック音。

ロアを助けようとも思ったが、レッドの腕の力をどうにかする事は出来ず、しかも起きない。

仕方なく起き上がり、扉の方へ。

もしかするとロアに付いてる執事かも知れないし、レッドに付いてるメイドかも知れない。


「はーい」


鍵を開けて、扉を開けた。扉をノックしていたのはメイドでも執事でもなかった。

扉の向こう側には男性が一人立っていた。

20代前半で、線は細い方で髪はこの国でよくある茶色。

背は高く、大きく見上げると、妖しい緑の眼がわたしを見下ろしていた。

その人はまるで綺麗な若手俳優みたいな顔を不思議そうに歪め、戸惑って居るようにも見えた。

わたしは、その人を知っていた。


「あ……ライトさん、おはようございます」


ライトと会うのは数日振りだろうか? 少しだけ懐かしい気持ちだ。

ニコニコ笑うと、ライトはますます戸惑い始めた。


「いや……俺は……」


……あれ?

違和感を感じ始めたのはこの時だ。

良く思い出すと、ライトはもう少し髪が短かった気がする。

それに、腰に差しているのは普通の剣だ。ロアが予備の剣として持っていた物と同じ感じだ。ライトは日本刀みたいな物だったはずだ。

それに……このライトは笑わな


「ぅわっ!」


誰かに腕を引っ張られ、部屋の中に逆戻り。

気が付くとロアが前に立っていた。

わたしはロアの背に隠されたような形だ。


「おはようございます………おじい様」


ロアの一言で、自分がしてはいけなかった間違いをした事を察した。

ロアの祖父……ロナントはロアの姿を確認すると、全身の鳥肌が立ちあがるような鋭い視線で睨みつけてきた。

昨日のレッドの比では無かった。


「お前には言いたい事が山ほどある」

「……」

「覚悟は出来てるいるのだろうな」

「はい」


怖いはずだった。でもロアは逃げなかった。

確かに少し顔色が悪かったけど、静かに頷いた。

ロナントは感心したように腕を組み、一息吐いた。


「旅先で何か得たものがあったか? まあいい、お前の話は後だ。レッドは何処だ」

「おばあ様ならまだベッドで寝ています」


ふぅ、と一息吐いてロナントはベッドへ向かう。

レッドは未だに気持ち良さそうに寝ていた。

まさか夫が居るとは思ってもないだろう。


「レッド」

「………」

「おい」


ロナントに体を揺すられてもレッドは起きる気配が無い。

よだれを垂らしたまま、楽しい夢でも見ているのかニマニマしていた。

そこでロナントは肌蹴てしまっているレッドの白いお腹に目をやった。

引き締まった筋肉に可愛いおへそ。


「うっ……ミツキ、見ない方が」

「なにを……? あっ」


ロナントはレッドの晒されたお腹を直で触れ、体のラインを確かめるように上へなぞって行く。

刺激に反応したレッドの体が軽く跳ねる。


「っ……ん」

「レッド? まだ起きないのか?」


言いながらロナントの顔がレッドの顔に近付く。

早く起きて! なんで起きないの!? と心の中で叫ぶ。

ロアもわたしと全く同じ顔をしていた。


「レッド」

「…………んっ、ぅんん、っ」


最終的に、二人の唇が重なった。

孫の前なのに、全く隠す気は無いようだった。

キスと言うには強すぎる大人の口付けに頭が沸騰しそうだ。

し……舌がっ……そんなに?

元々レッドの口が開いていた事もあり、ロナントに良いようにされている様子を思いっきり見てしまった。


「んんっ、んぐっ……ぅ、んううう!!!!」


レッドの拳がロナントに向かう。

ロナントがそれを簡単に避けた結果、キスはようやく中断された。


「はーっ、はーっ……だれだあ!? なにす、ん……」

「おはよう」


溢れた二人分の唾液を袖で拭いながら、勢いよく起き上がり、ロナントを確認した後レッドは一気に青くなった。


「あ、え……? 何で此処に?」

「家に帰ったら居なかったから、心配して」

「違う! 帰りは今日だったはず」

「だから今日、今さっき帰って来た」

「到着は昼頃だって……」

「だから一人で帰って来た」

「一人で!? 何やってんの!?」


近くに居るロアが補足してくれた。

他国に行くと言う事で結構な人数で小隊を組んで行ったらしく、小隊のトップであるロナントが一人勝手に帰って来るのはまずいだろう、と言う事らしい。

確かにロナントもロア同様文字通り空が飛べるので、その魔法を使ってしまえば早くに帰ってこられるのだろうけど。


「他の奴らはカナトラまで引っ張って来た。夜通し馬も走らせたから休ませている。小隊の権限は1番隊の隊長に渡してあるから問題は無い」

「夜通し? どうしてそんな負担のかかる事を」

「お前の事が心配で……」

「心配されるような女では無いのだけど」

「……言わないと分からないのか? 相変わらずにぶいな」


ロナントは口元に笑みをたたえた。笑わないロナントが笑ったのだ。

その微笑みはライトの爽やかなものと確かに似ていたかもしれないが、全く違うものだった。

隣に居るロアが恐怖からか硬直し、真っ青になっている。

独占欲や征服欲、深い愛情が入り混じってレッドへと向かうが当の本人は全く気が付いていない。

例えレッドが気が付かなくても執着を辞める気は無い。

これがグラスバルトの男……ロアの祖父なのか……


「おれは勘が良い方だ! にぶくない!」


馬鹿にされたと思ったのかレッドが叫んだ。

もうその発言がにぶいのだが、レッドは全く気が付かない。

何も察しない妻にロナントの笑顔が深くなる。

さっきから鳥肌が止まらないんだが……!

レッドは半分ロナントに襲われている今の状況を嫌ったのか、ベッドから這い出た。


「ロナント! 陛下への報告は済ませたのか?」

「いや、これからだが」

「これから!? 報告が先だろ!?」

「まだ早朝で起きてはいないだろうし、お前の事が心配で」

「聞き飽きた! 何回言うんだ!」


頬を膨らませ、ロナントに向かって唇を尖らせるレッド。

わたしはそんなレッドの姿に小動物のリスの姿を思い浮かべた。

その時、部屋にセレナが顔を出した。

部屋の微妙な空気に首を傾げた後、


「皆様、朝食の準備が出来ております。大旦那様もどうぞ」


そう言って部屋の外に待機した。

大旦那様……?

確か、ロアの父であるロゼを旦那様って呼んでたから……さらにその上のロゼの父だから大旦那様はロナントって事かな。


「朝から疲れちゃったよ。お腹すいたぁ」

「………」


あくびをしながらロナントの隣を通り過ぎるレッド。

ロナントはものすごく何か言いたそうだったが、何時もの事なのだろう。溜息一つして元の鋭い目つきに戻っていた。


「あ、そうだ! ロナント」


ロアの後ろに隠れていたわたしはレッドに腕を引かれた。


「この子、ミツキ。ロアが連れてきた子で……」

「ああ、手紙の子? 困ってるから力になって欲しいって?」

「そうそう!」

「はぁ、なるほど」


改めてロナントと顔を合わせる。

髪と眼の色は置いといて、顔立ちはロアと似ている。と言うよりもロアの父であるロゼがロナントに似ているのだろう。


「ロアはこういう子が好きなのか。綺麗で可愛らしい瞳だな」

「はっ、はじめまして。美月と申します……先程は間違ってしまってすみませんでした」


謝ると、何故わたしが謝っているのか一瞬考えた後、先程と違って普通にロナントは微笑んだ。

思わず胸が高鳴ってしまった。流行りの売れ筋若手俳優のようなんだもの! 恰好が良い人が目の前で微笑んだだけで少しときめくのは仕方ないよ、多分……

そう言えば、ロアが前に祖父も見た目が若いままだからモテるって言ってた気がするけど、理由はそれだけじゃないよ、恰好が良いからだよ。これでレディーファーストとか言って気を使ってくれるんでしょう? お姫様気分だよ。惚れるよ。

何故かわたしのときめきを感知したロアが、すごい顔でわたしを見てきた。

嫉妬に取りつかれた悪魔みたいな顔だ。いやそんな顔されても……ごめん。


「ライトと間違われるのは慣れてる。気にする事は無い」

「それでも謝りたくて……すみませんでした」

「律儀だな。聞きたい事があれば何でも聞くと言い。一応俺は司書の資格も持っているから本には詳しい」

「えっ!? お仕事忙しかったんじゃないですか? 資格をお持ちなんですか」

「下手の横好きでな。元帥引退してから取ったんだ。ごく最近だよ」

「そんな! 図書館の本を全て読むほどだと聞いています。下手の横好きだなんて」


そこで、結構強めに後ろに引っ張られた。

どうやらロアが引っ張ったようだ。


「……おばあ様、お腹空いていたのではありませんか?」

「そうだけど」

「これ以上は引き留めたら悪いよミツキ」

「えっ、わたしまだ話……がっ……」


時間が止まったかのように体が硬直した。

ロアは笑っていた。何時もと違っていた。でもその笑顔は見た事があるものだった。

さっきまでレッドと話していたロナント。嫉妬、独占欲を隠さずに態度に出し微笑みをたたえる姿。

思いっきり今のロアと重なった。

嫉妬しているのか、まさか自分の祖父にっ。

そう言えば恋愛に関しては察しの悪いレッドは……よく軟禁されたって……

朝だと言うのに、一気に血の気が引いて行く。


「わたしも、おなか、すいたかな……」


上擦った声で何とか絞り出すと、ロアの笑顔がさらに深まった。だから怖いよぉ。

皆で朝食を食べる事になった。

ロゼはすでに食べ終えて仕事に向かったらしい。

ロナントとレッドは元々この家に住んでいた事もあり、部屋を出て食堂に向かって行った。

わたしも後を続いて部屋を出ようとした所、


「ミツキ」


ロアに呼び止められ、ぎくりと足が止まる。

にっこり笑顔のロアと目が合って逃げたい衝動に駆られる。


「俺に何か言う事は無いか」

「言う、こと……?」

「無いのか」


わたしの第六感が騒ぎ出した。

此処で回答を間違えたら大変な事になるかもしれない! と。


「ごめんなさい」


何に対して謝っているのかはこの際、関係がない。

ロアが望んでいる事を言うのが正解なのだ。

素直に謝ると、ロアは拍子抜けしてしまったようで疲れたように溜息を洩らした。


「俺も馬鹿な事をした自覚があるよ。ごめんミツキ」

「ロア……?」

「お腹、空いたんだろ? 行こう」

「……うん」


何故かしても居ないのに浮気をした気分になった。なんで。

と言うか、ロアの察しが良すぎて怖い。ロナントにときめいただけで反応するなんて……感が良くないと戦場では生き残れないのかも知れないから、グラスバルト家は察しが良いのだろうか?

グラスバルトの血に恐怖を覚えた。


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