表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/142

冷たい食卓


ロアが出て行くと同時にセレナが部屋に入って来た。


「ミツキ様……! ご無事ですか」

「うん、何もないよ」

「何も無いようには見えませんが……」


セレナはとても心配しているようだ。

何も心配はいらないと無理に微笑んだ。


「明かりを付けてきます。それともう一人メイドの方呼んでもよろしいでしょうか」

「分かりました」


わたしを元の状態に戻すのにもう一人居た方が作業が速く進むだろう。

セレナは壁にあったスイッチを押した。

パチンと音がして、明かりがついた。

部屋の真上にわたしの部屋に有るような半円球の蛍光灯の明かりがついていた。

あれって灯りだったのか。堅そうな透明な石だと思ってたけど……違うのか。

わたしの部屋にもあったな。

そう言えば、灯りと言えばずっと蝋燭だった。

あれはどう言う原理で光っているのだろう?


「お待たせいたしました」


もう一人メイドを連れて、セレナが戻って来た。


「初めまして、ミツキ様。サラと申します」


セレナより若い感じがした。

茶色の短めの髪に、緑の眼。この人も魔力を持っていた。


「ミツキです、サラさん。お手数おかけします」

「ミツキ様……何があったのですか?」


サラにそう言われ、動揺する。

なんと言って良いのか分からなかった。

そんなサラを軽く頭を小突いてセレナはたしなめた。


「そんな事を聞かせるために連れて来たのではありません」

「はい……すみません……」

「はあ、申し訳ありませんミツキ様」

「い、いえ……大丈夫です」

「ありがとうございます。早速ですが立てますか?」


促されて立ち上がった。

ドレスがずり落ちないように手で押さえ、引きずりながら前に出る。


「サラ、あなたはお召し物を。私は髪を整えます」

「了解しました」


二人は手際よく見た目を整えて行ってくれた。

服は皺になってしまっている箇所があって、借りてる物なのにどうしようと焦ったが、サラは小さなアイロンのような物を取り出して皺を伸ばしていった。

セレナは髪の飾りを一端すべて取り、髪を纏め直した。

全ての飾りを付けている時間は無いと判断したのか、青の蝶だけ付けてくれた。


「ミツキ様」

「はい」

「首の裏、ですが赤くなっています……虫刺されには見えないのですが」


セレナがとてもとても言いにくそうに教えてくれた。

首の裏って……うなじか。

そこは、さっきロアが……

頬に熱が溜まって行く。


「ファンデーションで隠しましょう」

「お願いします……」


逃げ出したいくらい恥ずかしかった。

結局、ロアに聞きたい事を聞けなかった。

どうして実の父親を嫌うのか。

……セレナに聞いたら教えてくれるだろうか。

でも、ロアの事だから、ロアから聞きたいな……


「さあ、出来ました。お綺麗ですよミツキ様」

「……ありがとうございます」

「皆さんミツキ様の事を待って居ますよ」


笑顔のセレナと目が合った。

なんだか優しいお姉さんみたいだなど、ふわっと思った。


「あ、あれを部屋に持っていきたいのですが……」


机を指差した。

旅の途中に着ていた服だ。ロアの部屋に来た目的でもある。


「明日からこれを着ようと思っていて」

「これ、ですか……」

「駄目ですか?」


セレナは渋い顔をしていた。

本当なら今みたいな服装をしていて欲しいのかもしれない。

でも、そっちのが落ち着くし、またロアに何かされるのも避けたいし。

相当変な顔をしていたのか、最終的にセレナは承諾した。

サラが服を部屋に持って行ってくれるそうだ。

わたしは食事を取る為、セレナに案内されながら後に続いた。




*****




今朝、朝食を食べた部屋は食堂だったらしい。

広い部屋、広いテーブル。すでに三人は席についていた。

入った瞬間、冷え冷えとした空気に背筋が伸びる。

ナタリアはニコニコしていたけれど、父と息子の空気が最悪だった。


「おくれてすみません……」


何とかそう絞り出すと、気にするなとの返答がロゼとナタリアから返って来た。

ロアとは恥ずかしくて目を合わせられなかった。

本日のメニューを白髪の執事が告げ、前菜のスープが出てきて、手を合わせてお祈りをし、食事が始まった。


「……」

「……」

「……」


誰も何も話さない。

食事中は話してはいけないマナーなのだろうか?

ナタリアはロアの事を気にしていた。

ただ、黙々と食べ進めるロア。

何時も美味しそうに食べるのに、不味そうに食べている。

重苦しい空気。お葬式だろうか。


「ねえ、これとっても美味しいわ! 二人とも食べてみた?」


ナタリアが気を使って二人に話しかけた。

ロゼからは美味しかったと返事があったが、ロアは何も答えなかった。


「ミツキさんも食べた?」

「はい、とっても美味しいお魚でした」

「ミツキさんは魚が好きなの?」

「お魚もお肉も好きです」

「まあ、好き嫌いが無いのね」

「あ、えっと……辛い物は苦手です……」


食事中、一番弾んだ会話だった。

皆、行儀よく食事を続けた。

楽しくは無かった。

ロアは父であるロゼを敵視していて、それに対してロゼが何か言う事は無かった。

悲しいけれど受け止めている様子だった。

一体、二人の間で何があったのだろう。

再び、ナタリアがロアに声をかけた。


「ねえ、ロア」

「……」

「ミツキさんの服どう? とっても綺麗でしょう?」


ロアの手が止まった。

反応が返って来た事が嬉しかったのかナタリアは続ける。


「本当は青い色がとっても似合うのよ? ロアにも見せてあげたいわ」

「……そうですか」

「明るい色も似あってて、とっても素敵なのよ」

「母上……今日は、とってもお元気ですね」

「そう? だとしたらミツキさんのお陰ね」


続けてナタリアは、


「だからあなたが気にする必要なんてないのよ?」


ロアは、何も言わずにまた食事に戻った。

訳が分からず、三人を見回す。

答えは誰も教えてはくれないまま、食事を終えた。

最後にごちそうさまのお祈りをしてロアはさっさと部屋を出て行った。

その背中を目で追う。苛立っている、と直ぐに分かった。


「ミツキさん、ごめんね。あの子旦那様にはいつもこうなの……」

「そうなのですか……」

「時間が合えば一緒に食事を取るようにしているの。接点を無くしたくなくて」

「もうあいつの事は放っておけ」


ロゼが溜息交じりにそう言った。


「何時までも意地を張った所で、結局折れるしかない。変えられない過去を悔やむ暇があるなら少しでも未来を見るべきだ」

「旦那様……ロアは、とっても優しい子で」

「分かっている。だから何時までも俺を恨むのだろう」


そして、ロアの両親は深い溜息をゆっくりと吐いた。

優しいから父親を恨むって……どう言う事だろうか。

聞きたくても聞けるような雰囲気でもなかったので、黙って座っていた。


「ミツキさん、ごめんなさい……当家の事に巻き込んでしまって」

「ナタリアさんのせいではないです」

「いいえ……私が悪いの……」


ナタリアは深く落ち込んでいる様子だった。

ロアが父親を嫌っている原因が母親であるナタリアさん、ってどういう事だろうか。

何もわからない。ただ不安になる。


「わたし、ロアと話してきます」


立ち上がって部屋を出た。

二人に引き留められることは無く、セレナにロアの部屋まで案内してもらった。

屋敷はとっても広いけど、自分の部屋とロアの部屋を行き来出来る程度には覚えたいなと思っている。


「ミツキ様、こちらを」


セレナは歩きやすそうな靴を出してくれた。


「すみません、歩くの遅くて……」

「いいえ、無理に履かせたのはこちらですから」


赤いパンプスで踵は高くない。

これで転ぶ心配はなさそうだ。

セレナの後に付いて行く。


「御入浴の準備は出来ております。何時でもご案内できますわ」

「ありがとうございます」


そう言えば、昨日……ロアは自分の事を教えてくれるって言っていた。

本当に教えてくれるのかな……

教えてくれるなら、いろいろと聞いてみよう。まだ時間はあるのだから。


「セレナさんはどうして二人の仲が悪いのか知っているの?」

「……はい、この屋敷に居る者で知らない人は居りません」

「少しでいいから教えてくれないかな……?」


セレナは首を左右に振って申し訳なさそうな顔をした。


「私の口からは、何も申し上げられません」

「……」

「ただ……言えるのは、誰も悪くないと言う事です」


誰も、悪くない。悪くないのに、ロアは父親を責めている。

誰かの話を聞けば聞くほど、ただの反抗期じゃない、何か原因があるように感じてしまう。


「ロアから聞けるでしょうか」

「きっとミツキ様にならお話しになられると思いますわ」


セレナは弱弱しく微笑んだ。

そしてロアの部屋の前に来た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ