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異世界に来ましたが今すぐに帰りたいです  作者: ぽわぽわ
美月の知らぬ間に(番外編)
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別章:騎兵、王都へ


早朝。全ての準備を終えて騎兵隊の駐屯地に着いた。

長旅になると大きなリュックに必要な物を沢山詰めて背負っている。

同僚が俺の門出を祝ってくれた。


「ディック、向こうでも達者でな」

「ああ」

「お前が羨ましいよ、元気でな」

「お前も元気でな」

「王都ってどんな所か後で教えてくれよ」


騎兵達の間をすり抜けると、副長が待って居た。

隣には茶毛の馬が居る。


「ディック、この馬を貸そう」

「この馬は……」


遠くからでは分からなかったが馬はとても綺麗な緑色の瞳をしていた。

これが風馬、間近で見るのは初めてだ。

風馬とは、風属性の魔力を持った馬の事。

人と同じく魔法を扱う事ができ、高い魔力を持つ風馬は風に乗り空を飛ぶことが出来る。


「隊唯一の空を飛べる馬だ。こいつに乗れば日が落ちる前に王都に着くだろう」

「そんな貴重な馬を借りて良いのですか?」

「王都に騎士隊に預ければ、こいつはまたここに戻って来るから問題ないよ」


副長が馬の手綱を渡してくる。

お礼を言って受け取り早速跨った。

乗馬はあまり得意ではないが、この馬は大人しいようで扱いやすそうな印象だった。


「副長、お世話になりました」

「騎士の訓練は過酷だと聞く。もし駄目なら戻ってこい、席は開けておく」

「本当ですか?」

「騎兵長と相談して決めた。まあ、戻ってこない事が一番だが」

「ですよね……」

「それから、これを」


副長が差し出したのは昨日の手紙と、もう一通の手紙。

中身は騎兵長が承認したとの返事を書いた物だ。


「ありがとうございます」


無くさないようにしっかりとリュックにしまった。

手綱を持って、馬の腹を軽く蹴ると軽やかに歩き始める。

騎乗しながら敬礼。


「13兵隊所属ディック、行って参ります」

「頑張れよ」


もう一度ぽん、と蹴ると馬が走り出した。

正面からの風を避ける為に体勢を低くする。

少しずつ浮き上がって馬が宙を蹴る。


「う、わあ!」


気が付くと雲の中に居た。

真っ白な雲の切れ間から日の出から間もない太陽から線上に広がる光と、夜が明けたばかりの星が残る群青色の空、それから豊かな大地が見えた。


「すげぇ!」


風馬に乗ったのは初めてで子供みたいに興奮する。

ちらりと馬がこちらを見た。


「あ! えーと……」


どっちに向かったらいいのか聞かれている気がする。

真下を見る。

レンガの街があんなに小さく……

そこから伸びている隣町に続く街道。

あれを辿って行けば王都に着くはずだ。


「よーし」


この先、どうなるか分からないけど……やれるだけやるぞ!

決意を新たに手綱を握りしめた。




*****




王都に到着したのは次の日の朝だった。

風馬に乗ってしまえば辿り着く事は容易だったが、途中休憩を何度か挟んだ事が原因ですっかり暗くなってしまった。

日が落ちるすれすれで王都に辿り着いたと思ったのだが……

そこは王都手前の街、城塞都市カナトラだった。

大きな街に驚いていたのだが、王都では無いと言われて肩を落とした。

もう日が落ちてしまっていたのでカナトラに泊まった。

ホテルに空きがあって本当に良かった。

今朝、風馬から見下ろした王都の街はカナトラよりもはるかに広く、美しかった。


「わあぁ……すごすぎる」


どの建物も洗礼されていて綺麗だ。

レンガの街では見た事も無い大きな建物……あれが王城だろうか?

人があまりいない所で空から地面に降りる。

……えーと、取り敢えず騎士隊に向かおう。

確かお城の近くにあるんだったかな。

馬を連れて城の方へ向かう。

人の数が全然違う。

カナトラも多いと思ったけど、あそこは人口に対して敷地が狭いのが原因だからなあ。

老若男女、多様な人々で街は活気にあふれている。

レンガの街はここまでじゃないもんな。


「お兄さん」

「………えっ、俺?」

「そうだよ、どこに行く気なの?」


まだ若い、10才ぐらいの少年に声をかけられた。

少年は不審者を見ているかのように俺に疑いの視線を向ける。


「そっちはお城だよ。お兄さんみたいな田舎者が行く場所じゃないよ」

「い、田舎……? ああいやいや、お城に用があって」

「はあ? 何の用なの?」


少年に疑いの眼差しを向けられる。

完全に警戒されてる。

それにしても、俺そんなに田舎臭かったかな……


「お城って言うか、騎士隊にだけど」

「城より用がありそうもない場所だけど?」

「あー……俺さ、騎兵なんだよね」

「田舎の騎兵か」

「そうそうそう」


少年は変わらずじろりと睨んでくる。

変な子に捕まっちゃったなあ、と困っていると……


スパン!


小気味いい音が鳴った。


「いってぇええ!」

「あんた何やってんの!」


おばさんが少年の頭を叩いた。

少年は悶絶している。


「怪しい奴を取り調べ……」

「馬鹿な子ね! お父ちゃんの真似しないの!」

「かあちゃん、本当だって! 怪しいだろ!」


少年が俺を指差す。

おばさんはどうやら少年の母親のようだ。

母親と目が合ったので、ぎこちなく笑っておく。


「お母ちゃんには全く怪しく見えないわ! ……まあちょっと田舎っぽいけど」

「あのー……」

「あらごめんなさい。この子、父親が騎士なもんで真似してるのよ。ほら! 謝りなさい!」


母親は少年の頭に手を置いて無理矢理お辞儀させた。

多少の抵抗を見せてはいたが、少年は大人しく最後には謝った。

父親が騎士か……憧れてるんだろうな……


「すみません、騎兵さん」

「いえ、気にしていません。元気なお子さんですね」

「元気すぎるぐらいだわ! まったくもう!」

「あはは……」

「あ、そうだわ! 代わりと言っては何ですが、道をお教えいたしましょうか?」

「道? 騎士隊への道ですか?」

「ええ、城の正門から少し離れた場所に入り口があるもんで……騎士はそこから出入りするんです」

「教えてくださいませんか?」


少年の母親から道を教えてもらった。

少し離れた場所に出入口があるようで、城の入り口とは少し離れているようだ。

少年はものすごく不服そうな顔をしている。


「お父さんが騎士なの?」

「……そうだけど」

「へえ、すごいね」

「言われなくったってすごいのは当たり前の事だし!」

「じゃあ騎士になるのが夢なの?」

「そんな……」


少年は顔を赤くして恥ずかしがる。

素直に夢だと言えないようだ。


「努力すればなれるよ。頑張れ」

「騎兵に言われても嬉しくない」

「はは、そうだね」


良い騎兵でいようと努力はしていたつもりだけど……

まだ自分が騎士になる実感がない。

二人と別れ、先を急ぐ。

進んで行くと人の通りが全くない道に出た。

騎士隊に用がある人間はほとんどいない為、通りには誰も居ない。

大通りの喧騒が少しだけ遠くに聞こえた。

馬が石畳の上を歩き、小気味よい音が鳴る。

馬車がすれ違えるほど広い道に、俺と馬だけ。

左右は林……と言うより森に近く木が生い茂っている。

森もこの道も騎士隊の敷地なのだろう。やけに静かだ。

真っ直ぐな道を進んで行くと、やがて道に見合った大きな緑の門が見えた。

門の左右に二人の体格のいい騎士が立っている。

俺の存在を認識した二人から厳しい視線を投げかけられる。

心臓が縮み上がる。

目つきが怖い! これが騎士か……


「こんにちは……」

「迷子か? ここは一般人の来る場所ではない、引き返しなさい」

「す、すみませ……じゃなくて、あの……俺、田舎の騎兵で、これを……」


しどろもどろになりながらロナント様から頂いた手紙を差し出す。

騎兵の証であるバッチを見せると少しは信用してくれたみたいで睨まれなくなった。

手紙を受け取り内容を確認した騎士が思いっきり顔をしかめた。

もう一人の騎士が声をかける。


「どうした?」

「いや……なんだこれ、なんの冗談だ……?」

「はあ? なんだよ、見せろ」


もう一人も内容を確認する。

それから俺を見て同じように顔をしかめる。


「君が……ディック?」

「はい、ディックと申します……」

「3番隊の教官と知り合いなのか?」

「いえ、会った事無いです……ロナント様とはお会いしましたけど……」

「会った事無いのに推薦……? だがサインは本物……」


二人は腕を組んで考え始まった。

そして二人だけで意見を交換し始める。


「遠くで見てて推薦した?」

「いや無いな。あの人はそんな人じゃない、ガツガツ行くタイプだろ」

「前元帥の推薦だけど角が立つから教官の推薦?」

「それはもっと無いな。わざわざ教官の名前を借りたりしないだろ」

「う~ん……会った事無いってのが引っ掛かるな……」

「……もしや、教官を教官だと認識してないだけじゃないのか?」


それだ! 二人の息が完璧に合った。

二人は仲が良いのかもしれない。

教官を教官だと認識してない……? どう言う事だろう?

悩んでいると、後ろから足音が聞こえて来て振り返る。

騎士が二人、こちらに近付いてくる。

一人は門番と同じく体格が良く、もう一人は細身だ。


「見回りから帰りました。門を開けて下さい」

「お疲れ」


人が入れるだけ門を開ける。

俺と同じぐらい細いけど騎士になれるんだなあ、と思わずじっと見てしまった。


「丁度いい、ルクス!」


門をまさにくぐろうとしていた細身の騎士が振り返った。


「なんです?」

「こいつの事、レッド教官の所まで連れて行ってくれ」

「教官? どうして」


ルクスと呼ばれた騎士に手紙が渡る。

内容を確認したルクスは同じように顔をしかめた。


「教官殿が新しい遊びを覚えてしまった……」


それを聞いた門番の騎士二人は笑いをこらえていた。

ルクスは溜息を吐いた後、俺の方に近付く。


「君がディック?」

「はい……」

「そうか……きまぐれな教官の犠牲者だな……」

「ぎ、ぎせい……?」

「案内しよう。この時間は隊に居るかな……」


ルクスに手招きされようやく騎士隊へと入った。


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