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発覚


分厚いカーテンの隙間から僅かに漏れる光に眼を開ける。

寝ぼけまなこを擦り、あくびをしながら体を伸ばした。

今……何時? カーテンのせいで暗いけど、朝なんだよね?


「うぅ、ん……んぅ?」


やけに布団の感触が直にくる……

あれ? 服は? なんでこんなにクシャクシャになっちゃってるの!?

ロアに買って貰ったワンピース……お気に入りだったのに……


「……!」


その隣にわたしの下着が落ちていて固まった。

もっと詳しく言うと、ショーツだ。ブラジャーは離れた所に脱ぎ捨ててある。


「ハッ」


昨晩の出来事を鮮明に思い出した。

忘れもしない、ロアと……

隣で寝ているロアを興味本位で見てしまった。

ロアも服を着ていないようだった。当たり前だ、疲れてそのまま寝たのだから。

とりあえず服を着ようと布団の中から抜け出る。

ロアの片腕がわたしの肩に引っ掛かっていたが、起きた拍子で布団の上に落ちた。

えっと……まず下を穿こう。

ショーツに手を伸ばした時、ロアの腕がすごい勢いで襲ってきてあっという間にベッドに逆戻り。


「ちょっ……ロア!」


滅茶苦茶眼が細いロア。まだ眠いのかな。昨日遅くまで起きてたからしょうがないけど。

そのままぎゅうう、と抱きしめられて一人焦る。

だって、わたしもロアも裸だ。肌と肌が触れ合って訳が分からなくなってくる。


「あさっ、朝だよ! 早く起きて!」

「ん………あさ?」

「起きて服着て!」

「……まだいいだろ」

「よくない!」


なんとか抜け出そうとするが離してくれない。

服着たい! もう明るいし恥ずかしい!

ロアがの顔が近付いてきた。キスするつもりか! とっさに手でガード。

しばらく拒否し続けていると、


「俺……拒否されると燃えるみたい……」

「……はい?」

「ミツキ、しよう」

「何を!? しないよ!?」


恐ろしい事を言うので抵抗を辞めた。

朝からとか無理。明るい所では恥ずかしすぎるよ。


「ほらもう……! 起きて!」


ロアの肩を掴んで押し上げる。

不満そうな顔してる……


「したくなかった? よくなかった?」

「えっ?」

「もうしてくれないのかと思って……」


何を言い出すかと思えば……昨日したのはノリと勢いだったかも知れないけど。

ロアがしたいならしてもいい……嫌ではなかったし、良かった、し?

……言えるわけないでしょ。


「してもいいけど朝はヤダ」

「どうして?」

「明るいと恥ずかしい」

「いまさら何を恥ずかしい事が?」

「乙女心をくみ取って? お願い」


上から見下げられて、この状況も恥ずかしいと視線を逸らす。

朝からするとかふしだらだよ!


「夜なら良いってことか?」


さっきから体が熱い。顔から火が出そうだ。

夜ならって……まあ、そうだけど……だから言えないって!

返事をしないわたしに焦れたのかロアが覆いかぶさって来る。


「なあミツキ」

「っ、やだ」

「どうなんだ?」


頭が沸騰しそうだ。これ以上は無理! と小声で夜なら良いと言うとようやく離れてくれた。

ロアはわたしの嫌がる事はしたくなくて、でも自分はしたいからと何度も気持ちを聞いてくれていたみたいだった。

もうわたしの不幸を喜んだりしたくないんだって俯いていた。

まだ完全に元気になった訳じゃないんだと認識しつつ、ベッドの上に二人で座り込んだ。


「やじゃないよ。昨日も……いやじゃなかった。ロアの事、好きだから……」


何を言っているのだろう、と俯いて真っ赤になる。

好きだからロアがしたいことに最大限応えてあげたい。

出来る範囲で、だけど……

ちら、とロアを盗み見ると嬉しそうに微笑んでいた。

心臓の鼓動が早くなる。

その顔は反則だ……何でもしてあげたくなっちゃう……

ロアの笑顔にドキドキしていると、遠くから声が聞こえてきた。


「ロアー!」


……い、今の声は。


「ふふんふ~ん。ロア~! 様子見に来たぞー!」


鼻歌交じりでロアを大声で呼ぶこの声は……!


「ロア~! 顔見せろ~!」


レッド……!

まずい! やばい! 殺される!

慌ててロアに服を着るように声をかける。


「ロア! レッドさんだ! 服を……」


ロアは部屋の扉……やがてレッドが入ってくるであろう方向を強張った表情で見たまま動かない。


「ロア! どうしたの!? 早く……」

「……………終わった……」

「何が!? お願いだから服着てよ!」


ロアは完全に諦めてしまって、燃え尽きている。

まだ服着れば誤魔化せるのにどうして!?

扉にはカギがかかっているはず。まだ時間はある、説得して服を着せないと……


「ロア~! ……ん~?」


扉の向こうから声がしたと思うと、ドアノブが二回ほど回る。

しかし、カギがかかっていて開かないようでレッドが少しだけ困った声を出した。


「ロア! えっと……ほら、早く着て!」


ロアの下着を手渡そうとするが、受け取ってはくれない。

なんで! このまま死を待つだけだっていうの!? そんなのやだよ!


カチャ……


軽い金属音に振り返った。

あ……れ……? カギが……さっきまで閉まっていたはずのカギが……

そこでハッと思い至る。

ロアは魔法でカギを簡単に開け閉めしていた。

つまり……レッドも同様の事が出来るのではないか……?


「ロア! おはよ………ぅ……?」


バンと勢いよく開いた扉から笑顔のレッドが登場した。

そして一瞬で真顔になった。

ロアはベッドに座り込んだまま燃え尽きている。

わたしは慌てて布団の中にもぐり込んだが、服が散らばっているので裸である事は簡単に予測できてしまうだろう。

シン、と空気が張り詰め、凍り付いた。

自由に呼吸すら出来ない状況の中、唯一動いているのはレッドが手に持っている手土産だけで、プラプラと不安になる動きをしている。


「レッド、待ってくれと言ったのに……どうして先走、る…………………おぉ」


後からやって来たロナントも部屋の惨状を見て瞬時に全てを理解したようだ。

ロナントが頭が痛そうな表情を浮かべた時、レッドが持っていた手土産が手から離れた。


「うわ、おっと……」


手土産は落ちる前にロナントが空中で掴んだため事なきを得た。

ロナントはもう一度現状を確認した後、瞬きすら忘れてしまったレッドを小脇に抱えた。


「二人とも、服を着て応接間に来なさい。少し話そう」


と言って、レッドを連れて部屋から出て行った。

扉を閉めた後、ロナントは魔法でご丁寧にカギをかけ直してくれた。

この家の人にとってカギはあってないような物なのだろうか……

レッドとロナントが去った後、わたしとロアは静かに服を着始めた。


「殺される……おばあ様に殺される……」


ロアがブツブツ呟いててちょっと怖い……

レッドの事、すっかり忘れてた……結婚前に女性に手を出すなとロアに言って聞かせていて、ロアはそんな事しないって約束してたんだっけ……?


「大丈夫だよ……本当に殺したりしないから、ね?」

「死よりもつらい訓練が始まる気がする……」

「そ、それは……自分の為になるから多分、必要な事だよ……」


最初はブツブツと己の不運を呪っていたロアだったが、服を全て着終える頃には決心を固めたかのような真っ直ぐな眼で扉を見ていた。


「わたしレッドさんにロアは悪くないって、言うよ」

「いい、そんなことしたら火に油だ」

「そう? 大丈夫?」

「大丈夫だ。上手くやるさ」


さっきまでと違ってハキハキ喋るロアに少しだけ驚く。

確かにわたしがロアを庇ったらレッドは怒りそうではある。


「俺がミツキを守る。他の誰でもない、俺が……」

「ロア……」

「あの日……初めて会った日。ミツキと出会ったのは偶然じゃないと思うんだ」


ロアの顔を見つめた。とっても真剣な表情をしていた。

確かに偶然では無いかも知れない。

だってあの草原にわたしを送ったのは……月の女神だったから。

女神が何を思ってロアの居たあの場所にわたしを送ったかなんて分からない。

わたしの幸せを願う、女神の一方的で曖昧な願望を叶えるためだろうか。


「俺はミツキを託された。それに応える義務があるんだ」


至って真剣なロアに微笑んだ。


「ありがとう。でも、頑張りすぎないでね? 頼っていいんだよ。相談に乗る事ぐらいはできるから」


わたしを頼る発想が無かったのかロアが何度か瞬きをした。

ずっとロアに助けてもらいっぱなしだったけど、これからは助けてあげたい。

話を聞く事ぐらいはできるから。


「いこっか」


ロアの腕を取って、部屋を出ようとする。

体と表情が強張るロアを見て、やっぱり怖いんだと思い直す。

口を酸っぱくして言われていた約束を破ったからなあ……

もう一度、大丈夫? と聞くと、さっきより顔色が悪くなったロアが、


「大丈夫だ」


と言って頷いた。

部屋を出て、応接間に向かう。

途中、セレナとすれ違い付いて来てくれる事になった。

昨晩の事は何も聞かれなかった。


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